日本バドミントン協会の村井満会長、巻き返しに意欲「底を打った」
公金横領、不正の隠ぺい、赤字まみれの大問題児が、更生の道を歩み出す。日本バドミントン協会は22日に記者会見を行い、今後に目指す方向性を言語化したパーパス、ビジョンを発表。新たに設置した「未来世代応援パートナー」として明治安田生命保険相互会社と契約を結ぶことに合意したことも明らかにした。
また、23年度の決算が約1.4億円の債務超過に陥る可能性があったが、回避できた見込みであることを村井満会長が明かした。村井会長は「最悪の状況、底を打ったという感覚で今日を迎えている」と財務問題の解決に見通しが立った感触を表現。正式報告は6月となるが、今後の巻き返しに意欲を示した。
村井会長「今までの協会と決別する」
日本バドミントン協会は、会見の主旨であった協会のパーパスを定めるにあたり、クオン株式会社の協力を得て、1000名近くの競技関係者および、約200万人の一般生活者にバドミントンに関するアンケートを実施。AIを用いた言語解析により、潜在的に競技が持っている価値を言語化。健やか、育む、繋ぐといったキーワードの中心に豊かさがあるという価値観(スポーツを通じて「こころ躍る・豊かな」世界を創る)を、目指す方向性(パーパス)として打ち出した。また「自由に羽ばたけ」とするキャンペーンメッセージも設定。その中にある「フェアでオープンな価値観を大切にし」という言葉に触れ、村井会長は「公金を横領したり、それを隠ぺいしたり。こういう概念の今までの協会と決別する思いも込めている」と協会再建への思いを語った。
・パーパス・ビジョン自由に羽ばたけ
(日本バドミントン協会公式サイト)
日本バドミントン協会は、2022年に元職員の公金私的流用が発覚したことを機に、国庫補助金の不正申請も発覚するなど不祥事が続出。ガバナンス体制の問題を解決できず、23年度の国からの助成金20%削減が決定した。23年からサッカーJリーグでチェアマンを務めていた村井満氏(現・会長)を副会長に招聘して組織改革を進めてきた。
ガバナンスと財務、2つの大きな問題に解決の見通し
会長就任時に、組織を大きく改革。ガバナンス問題の解決から始めた。不祥事が続く協会への信頼低下から、村井氏主導の改革は、競技の関係者やファンからの期待が大きい。しかし、債務超過の可能性など財政問題も新たに噴出。体制一新により、大会運営で不手際が生じた面もあり、ファンからは「村井さんが来ても変わらない」という声も出始めていた。一方、村井会長にしてみれば、動きたくても動けないことも多い状況だった。財務問題に直面した1月頃には眠れない日が続いたという。
23年度の債務超過回避の可能性に触れた際、村井会長は「協会は、これまで月次の収支管理を丁寧にしていたわけではなく、キャッシュフローマネジメントも細かく見ていたわけでもなかった。昨年9月くらいになって、やっと月次の数字が見えて来ましたが、毎月、締める度に想定外の請求書が回って来て、数千万円単位でズレることもあった。年を越えて、1月、2月からブレがなくなってきた」と、ずさんな管理体制に置かれていた財務の管理体制の再構築と、その中で見えた債務超過の可能性という大きな問題への対応に追われ続けていた。村井会長が使った「底を打った」という表現は、株式市場の用語で限界まで株が下がった状況を意味する言葉。今後の方針決定の際に立ち返るべきパーパスを打ち出し、いよいよ再建開始だ。
ファンを巻き込み、バドミントンファミリー100万人計画
パーパスを踏まえ、12年後の2036年をターゲットとして目指す状態(ビジョン)も設定された。出井宏明企画本部長は「直近だと(すぐに)やれることを置いてしまうので、12年後を目指して議論した」と強化、普及/育成・大会運営、ファンエンゲージメント/ビジネス、組織、社会課題の解決の5つの観点で設定した目標を説明。うち3つは、数字を明記。強化では、強化システムを確立し、全種目で世界トップ3の選手を輩出し続けること。普及では、競技登録者数35万の現状から、ファンを含めたバドミントンファミリー100万人を目指すこと。事業規模は、20億円から50億へ拡張すること。
説明をする中で、出井企画本部長は「いつでも、どこでも、気軽にプレーできる環境を作りたい。ゴルフなら、打ちっ放しがあり、野球をしたければ、バッティングセンターがある」と環境整備に意欲を示したり「選手はトップレベルだが、そのすごさを伝え切れていない。伝えたいし、試合を楽しんでいただきたい」と観戦者減少問題への意識を語ったりと、体育館不足に悩むアマチュア競技者や、大会運営に不満を持つファンもうなずく課題に取り組む姿勢を示した。
バドミントンファミリー100万人計画について、出井企画本部長は「現状の登録人数の内訳は、選手が29万人、審判が5.9万人、指導者が約4000人で合計が35万人。選手は、少子高齢化で(良くても)微増レベル。審判は、どう増やすかの問題とセットだが、2倍にしたい。いろいろなところで競技をやろうとしたら審判が要る。指導者は、4000人くらいだが、2万人くらいまで増やしたい。それに加え、ファン、愛好家を50万人作ると、合わせて100万人」とプランを明かした。ファン、愛好家の50万人獲得に向けては、接点を持って発信できるファン100万人の獲得を目安とし、広報PRチームで外部有識者を招いたプロジェクトチームで議論をしているとも話した。
村井会長は「年に1回、競技を楽しむ人は500万人いる。愛好家を50万人新たに増やす。出井さんは難しい数字だと言い訳していたが、十分できるのではないかと思う」とニヤリ。シニアプレーヤーも多く、全国的に普及しているバドミントン競技のポテンシャルを高く評価。目標の早期実現に期待をかけた。
ロス五輪世代の強化計画、パリ五輪前には
ガバナンスと財務問題に一定の目途が立ち、将来の目標も見えた。一方、直近の日本代表活動は、パリ五輪までしか決まっていない。朝倉康善強化本部長は「パリ後は(協会派遣の)遠征を控えて、代表選手は自費でお出かけくださいというスタンスは変わっていないが、協会で現地に数名のサポートチームを送る活動ができないかと考えている。その経費捻出をどうするか。パリ五輪前の代表合宿をいくつか止めて、パリ後の費用を捻出することを考えている」と、今ある予算の中での苦しいやり繰りに言及するに留めた。
28年ロス五輪を目指す選手は、強化プランを立てにくく苦しんでいる。会見後、村井会長は「25年以降は(東京五輪前の)巡航速度までは戻せるのではないか。今は(2期連続債務超過の可能性を回避するため)ミニマムでコストマネジメントをしているが、今日発表した明治安田さんのように、今後入って来るところによって段階的に(派遣制限を)緩和できる可能性はある。若い選手は、将来をデザインできず不安があると思う。B代表をどう位置付けするか(を含め)パリ五輪後、すぐシームレスに動き出せるように、パリ前には25年以降の大きな考え方を取りまとめたい」と話した。財務問題が解決すれば、日本代表強化の問題解決も見えて来る。「底を打った」村井体制は、巻き返しを見据えている。