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バドミントン西本拳太、ガッツポーズ連発と全盛期宣言の背景=インタビュー

平野貴也スポーツライター
チームの新マスコットをアピール。左手は「ジェイテクト」のJ【筆者撮影】

 派手なガッツポーズのパフォーマンスと、自信に満ち溢れた全盛期宣言は、どんな経緯で生まれたのか。9月に大阪で行われたバドミントンの国際大会ダイハツヨネックスジャパンオープンで初優勝を飾った西本拳太は、大会を勝ち上がる中で何度も「僕の全盛期はこれから」と宣言。試合に勝てば、5月の国別対抗男子団体戦トマス杯で繰り出したガッツポーズを何度も披露した。

 28歳で国際大会を初優勝した背景には、今春からジェイテクトバドミントンチーム(新愛称:ジェイテクトStingers)に加入し、新たな環境で感化されたプロ意識があった。実質プロの契約選手として活動している西本に話を聞いた。

28歳で初優勝の西本「以前は対人競技ではないような考え方だった」=バドミントン(前編)

▽バドミントン西本拳太、ガッツポーズ連発と全盛期宣言の背景=インタビュー(後編=当該記事)

ジェイテクト加入、バレーボール選手から受けた刺激

西本(左)が所属するジェイテクトの新チーム愛称「ジェイテクトStingers」は、同社バレーボールチーム「ジェイテクトSTINGS」を意識した名称。知名度や成績の向上で相乗効果を狙う【筆者撮影】
西本(左)が所属するジェイテクトの新チーム愛称「ジェイテクトStingers」は、同社バレーボールチーム「ジェイテクトSTINGS」を意識した名称。知名度や成績の向上で相乗効果を狙う【筆者撮影】

――今春からジェイテクトに加入しましたが、新しい刺激はありましたか

「バレーボール部(ジェイテクトSTINGS)の本間隆太選手に、仲良くしていただいて、すごく刺激をもらっています。石井裕二総監督に間をつないでもらったのですが、今では2人でご飯に行くこともありますし、ジャパンオープンも応援に来てくださいました。バレーボールは、バドミントンよりも実質的なプロ選手が増えていて、意識が違うと感じます。例えば、試合会場の入場シーン。バドミントンの場合、特に国内の試合だと何もアクションをせずに並んで入って来るだけですよね。余計なことをすると『調子に乗っている』と思われがちです。でも、バレーボールのVリーグだったら、観客に手を振ってアピールしながら入場するのは、当たり前。本間選手も『お客さんは、お金と時間をかけて見に来てくれている。それに応えて感謝を示しているだけ。それは、見に来てもらう側の使命だから、どんどんやった方が良いと思う』と言っていました。それで、僕も試合を見に来てくれる人を意識するようになって、わざとじゃないかというくらいにお客さんを見るようになり、あのガッツポーズが生まれました」

――トマス杯から恒例になった、派手なガッツポーズですね

「最初にトマス杯でやったのは、もちろん自然に出たものです。第2ゲームで感情を押し殺して冷静にプレーするように注意していたので、勝った瞬間に興奮してしまいました。それが、雑誌『バドミントン・マガジン』の表紙になって多くの人に知ってもらえたこともあって、このポーズでアピールするようにしました。本間選手との交流があって、僕も恥ずかしがらずに(ファンサービスやパフォーマンスを)やるのも仕事かなと、初めてそんなふうに考えるようになりました。考えてみれば、バドミントンでも、世界王者のビクター・アクセルセン選手(デンマーク)などは、当たり前のようにファンサービスやパフォーマンスをやりますよね。観客への感謝で、見てもらうことで価値を持てるプロの感覚があるのだと思います。ジャパンオープン後に、新潟県の北越高校で講習会をさせてもらったのですが、米田健司監督が『ああいうパフォーマンスが好き。やってみたかったから一緒にやってよ。トレードマークのようにしたらいいんじゃない?』と言ってくれて、学生と一緒にやりましたけど、楽しかったです」

「これからが全盛期」と言い続ける理由

――ガッツポーズと同じくらい多くメディアに取り上げられたのが「これからが全盛期」宣言でした

「それも、思っていることを発信した方が面白いかなと思いました。統計を取れば、男子選手のピークは、一般的に20代中盤なのかもしれませんが、実際は人によって違うじゃないですか。データは、平均を示すわけで、早熟も晩成もいるはず。僕が20代後半で勝てるようになったら、23歳で勝てていなくても、28歳まで頑張り続ければ……と前向きに思えるように若い選手もいるかもしれない。僕自身もまだまだこれからだと思って頑張った方が、悔いなく挑戦を終われるのではないかと思うので『これからが全盛期』は、今後、勝っても負けても言い続けると思います」

――トマス杯後に雑誌のインタビューで言ったのが最初ではないかと思いますが、思っていても言わなかったような言葉を、なぜ言ってみようと思ったのですか

「今は、良い意味で割り切れたのかなと思います。以前なら『言ってできなかったら、どうしよう』と考えて言わなかったと思います。でも、自分が思うことにトライして、ダメだったら仕方がない。トマス杯のときは、冷静に見れば、ほかの選手が勝ち切れなかったこともあって、僕が少し脚光を浴びただけ。(準決勝のインドネシア戦で西本の後に試合をした)保木卓朗/小林優吾が勝っていたら、僕が表紙になることもなかったはず(笑)。でも、一応、自分が出た4試合は全部勝ったので、ちょっと自信を持って言ってみてもいいかなと思いました。ジャパンオープン優勝という経験で分かったことは、思っていることを表現したことで、結果を残したときに、上手く言葉を使って伝えてもらえるということ。別に名言のようなものを作ろうと意識しているわけではありません。でも、注目してもらうためには、前面に出していくべきだし、自分が思っていることを発信しても良いかなと思うようになりました。言ったとおりにならなかったら、自分が責任を取るだけです。それに、言ってみると、実現するぞと思って頑張れる部分もあると分かりました」

――意思表示を明確にすることで自分自身の背中を押すことができて、そこで結果を残せたら、周囲がもう一つ先の期待を持って、さらに背中を押されるという流れですね

「負けたら『アイツは、もう終わり』と言われるかもしれないですけど、それでもいいです。その後に勝って『おっ、これからか』という繰り返しでもいい。格闘技の選手は、よく『アンチも(盛り上げていくための)仲間』という言い方をしていますよね。世間に知られていない選手は、何も悪いことは言われない。知られるようになると、悪く言う人も出てくる。勝って、悪く言う人たちを味方にするような活躍ができたら、前に進むエネルギーは倍に増えていく。だから、負けても『これからが全盛期』と言い続けようと思います」

「金メダルを目指すには、これからが大事」

東京五輪の出場権はつかめなかった西本だが、24年パリ五輪出場に強い意欲を示している【筆者撮影】
東京五輪の出場権はつかめなかった西本だが、24年パリ五輪出場に強い意欲を示している【筆者撮影】

――今後、国内では11月にチーム対抗のS/Jリーグが開幕し、12月には個人戦の日本一決定戦である全日本総合選手権が控えています。どのような意気込みで臨みますか

「団体戦のS/Jリーグは、チームの現状として、自分が勝たないと優勝は難しい状況(※上位候補チームは単複に日本代表がそろっているが、ジェイテクトは西本のみ)だと思っているので、勝つことはマストだと思っています。チームに良い流れを持って来れるようにプレーしたいです。全日本総合は、個人戦の日本一を決める大会。中央大学4年生だった2016年以来、優勝できていないので、社会人になってからも優勝して、また『これからが全盛期』と堂々と言えるように頑張りたいです。会社の名前を背負って出られるのは、国内の大会だけ。注目されるような活躍をして、チーム名を多くの方に知ってもらえるように結果を残すことと、見に来てくれる方に良いプレーを見せたいです」

――一方、国際大会では来年5月からパリ五輪の出場権獲得レースが始まります。ジャパンオープンのときには「金メダルを目指さない限り、出場も難しい」と話していました

「ジャパンオープンの決勝で対戦した周天成選手(チョウ・ティエンチェン=台湾、世界ランク4位)は、高いフィジカル能力にスキルが加わり、試合の進め方が上手くなって、32歳でも強い。真似していきたいです。今回、ジャパンオープンを優勝できましたけど、僕はまだ1回勝っただけ。パリ五輪の金メダルを目指すには、これからが大事。桃田賢斗選手(NTT東日本 ※21年11月まで3年以上世界ランク1位を堅持)のように金メダルを期待されるくらい勝ち続けることが簡単でないことは、重々承知していますが、それくらいのレベルに行けるようにイメージを持って、自分自身を鼓舞して頑張っていきたいと思っています」

2024年パリ五輪の出場権争いは、混戦模様だ。東京五輪後に新たな世代が台頭しており、序列は崩れつつある。日本も若手選手が台頭し、エースの座を争う相手は増えている。その中で、20代後半に充実期を迎えた西本は、新たな思考と覚悟で「全盛期」を突き進む。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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