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28歳で初優勝の西本「以前は対人競技ではないような考え方だった」=バドミントン

平野貴也スポーツライター
28歳で国際大会初優勝を飾ったジャパンOPを振り返る西本【筆者撮影】

 明らかに、以前とは違った。相手に攻められてもコート前方から下がらず、苦手としていた速い球の打ち合いで対抗し、世界の強豪を得意なラリーに引きずり込んだ。バドミントン日本代表の西本拳太(ジェイテクト)は、9月に大阪で行われたダイハツヨネックスジャパンオープンで格上を次々に撃破。28歳で国際大会初優勝を飾り「僕の全盛期はこれから」と笑顔を見せた。

 昨年の東京五輪で出場権をつかめずに悔しい思いをした男が変ぼうを遂げた理由は何か。今春から所属するジェイテクトバドミントンチーム(新愛称:ジェイテクトStingers)で練習する西本に話を聞いた。

▽28歳で初優勝の西本「以前は対人競技ではないような考え方だった」=バドミントン(前編=当該記事)

バドミントン西本拳太、ガッツポーズ連発と全盛期宣言の背景=インタビュー(後編)

国際大会で初優勝「1位と2位とでは雲泥の差」

自国開催のジャパンOPで初優勝を飾った西本【筆者撮影】
自国開催のジャパンOPで初優勝を飾った西本【筆者撮影】

――練習前、体育館でレディースの方たちから声をかけられていましたね。ジャパンオープン優勝後、講習会や報告会をされていましたが、周囲の反応は、いかがですか

「あまり優勝の実感はないですけど、今日みたいに、会った方におめでとうと言ってもらえるのは、嬉しいです。9月は試合がない期間だったのに報告会などで忙しくなり、今までにない経験ができて良かったです。国際大会では2位までの経験しかなかったので、やっぱり1位と2位とでは雲泥の差だなと、ひしひしと感じています」

――今春からジェイテクトに加入して、結果を出せてホッとした部分もありますか

「まず自分のために頑張って、それがチームやみんなのためになるという気持ちでやっているので、プレッシャーは感じていませんでしたが、加入して5カ月で結果が出たのは良かったです。佐藤和弘社長にも『バドミントン部により一層強力なサポートをしたい』と言っていただけて、頑張って良かったなと思いました」

――ジャパンオープンは、5試合すべてが激戦でした。どこがヤマ場でしたか

「3戦目の準々決勝ですね。1、2回戦の疲労もあり、朝、起きたときの状態が一番きつかったですし、相手のチコ選手(チコ・オーラ・ドゥイ・ワルドヨ=インドネシア)はアグレッシブなプレースタイル。耐え抜いた、と感じた試合でした。この試合だけ、世界ランクでは相手が格下でしたけど、むしろ最大のヤマ場だったと思います。入りの良かった第1ゲームを取られて心が折れそうでした。多分、踏ん張れた要因は、自国開催だったこと。同じ状況が海外で起きたときも、画面越しに応援してくれている人がきっといると思って戦いたいです」

練習したプレーを出すためのメンタルや技術が大事

低くて速い球への対応力向上が躍進の要因となった【筆者撮影】
低くて速い球への対応力向上が躍進の要因となった【筆者撮影】

――苦手としていた低くて速い球を打ち返して長いラリーに持ち込めたことが、大きな勝因だったと思います。あの戦い方は、どの辺りから手応えを得ていたものなのでしょうか

「まず、トマス杯(5月に行われた男子団体戦)で、オレもまだまだできるぞと(強敵にも自信を持って挑む)気持ちの面での成長を感じました。2-2で回って来たマレーシア戦の第3シングルスや、準決勝のインドネシア戦で0-2に追い込まれた状況での第2シングルスで当時世界8位のジョナタン・クリスティー選手に勝ちましたし、4試合すべて勝つことができました。その後、7月のマレーシアマスターズでアンソニー・シニスカ・ギンティン選手(インドネシア)と対戦したときに、ファイナルゲーム20-22で負けたのですが、16-20から追いつく展開で『これ、いいかも』と思う部分がありました。すごく動きの速い相手なので、とにかく次の球に対する準備を早くしようと意識しただけだったのですが、相手がアタックしてきた速い球を返せたので『(試合での対応の仕方は)これでいいのかな』と感じて、練習してきたことが自分の物になったかなと思いました」

――自信を持って戦えるようになったことで、練習の成果を試合で発揮できるようになってきたということでしょうか

「そういう感じです。確かに、ジェイテクトに来てから、苦手にしていたドライブ(低くて速い球)のスキル強化は、意識的にやってきました。でも、いくら練習しても、やっぱり試合は別物。そこをいかに試合に近付けるかは、永遠の課題です。日本代表合宿でも低い球を練習していましたが、慣れている相手の球は取れても、試合で慣れていない球になったら対応が遅れることが多かったです。それが、準備を早くしようと意識したら、練習でやってきたことを出せたので、気をつけることを整理できました。今は、練習でもメリハリをつけたり、より試合に近い形でできるようになっていると思います。練習したプレーを試合で出せるようになるためのメンタルや技術をどう身につけるかが大事だと考えるようになりました」

考え始めた、スキルの使い方、生かし方

西本は、4月からジェイテクトに加入。新し環境で強化を図っている【筆者撮影】
西本は、4月からジェイテクトに加入。新し環境で強化を図っている【筆者撮影】

――もう一つ、今までと違うと感じたのが試合中の表情でした。2018~19年頃は、1点毎にミスなど自分のプレーに対するアクションが多い印象でした。それが消えて、もう少し長い目で試合展開を考えたり、相手との駆け引きに注意したりするようになったのかなと感じました

「表情が違うというのは、いろいろな方から言われました。確かに18、19年は、どうやって自分が良い球を打つか、ということしか考えていませんでした。体操競技のように、自分自身のパフォーマンスのみで点数が変わる――対人競技ではないような考え方をしていたかなと思います。今は、相手や試合の状況を考えて、自分がやるべきことにトライして、それでダメなら仕方がないと思えるようになり、ミスを気にし過ぎないようになりました。正直、この考え方が変わったところが一番大きいかもしれません」

――考え方が変わった、きっかけは

「昨年の秋、冬くらいですね。元全日本王者で理学療法士の片山卓哉さんにコンディションのケアをしてもらっているのですが『身体の使い方ばかりを考えず、高められるバドミントンスキルは何かをもっと考えた方が良いと思う』と言われました。一緒に戦っているから自分にも責任はあるとも言ってくれていたのですが、そこばかりに頼るなという意味で、心を鬼にして言ってくれたのだと思います。それもあって、ジェイテクトに来てからスキル練習を積んできたのですが、そのほかに、いろいろな選手の試合動画を見て、どういう球を出して、打たせて、次の球を打っているのかをよく見て、自分もメリハリをつけるようになりました。客観的に見てみると、自分が100%の力で動いていなくても点を取れる場面はあるものだと気付きました。今までは、練習で100%の力を出し続けて、試合でも100%の力を出すという考え方でしたが、今は30%の力で休みながらラリーすることもありますし、練習の中でも100%を出すとき、出さないときを使い分けていて、試合でも駆け引きの面で変わってきたと思います。練習で『常に頑張っている』だけだと、試合で頑張り所が分からなくなる部分があると思います」

戦い方が変わったのは、環境の変化によって考え方や価値観が変わったことも影響しているようだ。ジャパンオープンで試合を勝つ度に披露した派手なガッツポーズは、別競技の選手の言葉に触発された背景があるという。後編では、ジェイテクト加入後の刺激や変化について聞いた。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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