Yahoo!ニュース

コロナ禍はお寺で練習、カバディ日本代表候補が灼熱の「矛・盾」対決

平野貴也スポーツライター
日本で唯一U-18世代のカバディ部を持つ、自由の森学園中学・高校にて【筆者撮影】

 屋外に敷かれたマットでカバディを練習する。そんな動画が選手のTwitterに掲載されていた。背景に出てくるのぼりには「墓地分譲中」の文字。彼らが練習していた場所は、寺の境内だった。カバディ、カバディ、カバディ……と呟きながら攻撃するプレーが印象的な競技「カバディ」の日本代表候補選手が12日、自由の森学園中学・高校体育館でエキシビションマッチを行った(動画は、日本カバディ協会の公式YouTubeチャンネルで行われたライブ配信のアーカイブ。オープニングでは、寺での練習風景も見られる)。

 昨年初めからコロナ禍により、多くの競技が大会等の活動を制限されているが、カバディもその一つだ。昨年は、公式大会を一度も開催できなかった。練習でも学校等の体育館を借りるのが難しくなり、活動場所を探していたという。

 カバディは、インド発祥の競技。日本では、仏教系の大正大学で当時国内唯一のカバディ部が発足したところから歴史が始まった背景があり、競技者には僧侶(お坊さん)も多い(関連記事:「浅草寺や比叡山も? お坊さんが日本最強のスポーツ『カバディ』とは」)。今回のイベントに向けた練習も、選手の親族が運営している寺院の境内を借りたもの。

 エキシビションマッチでチームブルーの主将を務めた河野雅亮(Buddha)は「カバディができるだけで、ありがたかった。外でやるカバディも新鮮で、気分も晴れやかに練習できました」と笑顔。チームレッドの主将を務めた阿部哲朗(無所属)も「ぶっつけ本番になってしまうのかと思ったけど、場所を貸していただいて、本当にありがたかったです」と感謝を示した。

究極の矛・盾対決、日本代表候補が「攻撃」対「守備」で激突

チームブルーの澤津(青2番)は、帰陣寸前でチームレッドの阿部(中央)らに阻まれて失点。相手と接触してラインを越えるか越えないか、激しいプレーが見られる競技だ【筆者撮影】
チームブルーの澤津(青2番)は、帰陣寸前でチームレッドの阿部(中央)らに阻まれて失点。相手と接触してラインを越えるか越えないか、激しいプレーが見られる競技だ【筆者撮影】

 エキシビションマッチは、究極の「矛・盾」対決で行われた(※日本カバディ協会の公式YouTubeチャンネルによる配信では、39分経過時点から試合開始)。攻撃が得意な選手ばかりで編成したチームブルーと、守備が得意な選手を集めたチームレッドの対抗戦。

 試合開始直後、チームブルーの澤津慎(Buddha)が敵陣に入ると、守備のチームレッドは、高野一裕(Lapiz Lazuli)を中央後方に配置し、残る6人が2人ずつ手をつなぐチェーンで意思を統一して連係。相手を取り囲むような布陣を見せた。そして、相手攻撃者の澤津が布陣の外側に位置した選手にタッチを仕掛けた瞬間、右コーナーの倉嶋彪真(Bullet Ants)が右足をつかんで帰還を阻むと、すかさず仲間が連動して相手を押さえ付け、動きを封じることに成功。チームレッドが1点を先制した。

 カバディは、ドッジボールに似たコートを使い、最大7対7で行う「コンタクトを伴う、激しい鬼ごっこのような」競技だ。攻撃(レイド)は、1人で敵陣に入り、守備(アンティ)の選手にタッチをして自陣に帰れば、タッチした人数分の得点を得られる。一方、守備はタックルなどで帰陣を阻むことで得点を得るというのが、基本的な得点方法。7人がかりで1人に襲い掛かる場面もあり、迫力がある。

 また、守備者が多い(6人以上いる)場合、攻撃者はコート後方にあるボーナスラインを越えるだけでも1得点が可能。逆に、守備が3人以下の場合は、守備が成功すると「スーパータックル」として守備でも2得点となるなど、状況に応じて可能になる得点方法もあり、駆け引きの要素が大きい。ドッジボールのように、失点者がコートの外に出され、チームの得点によって戻れる仕組みも、駆け引きを刺激する要素だ。

好プレー続出、互いに全滅に追い込む大激戦

相手のタックルをかわすチームレッドの下川正將(Buddha)。守備者が倒す、抑える、持ち上げるといった形で相手を抑え込みに行くが、攻撃者もかわしたり、相手をひきずったりしながら帰陣を狙う【筆者撮影】
相手のタックルをかわすチームレッドの下川正將(Buddha)。守備者が倒す、抑える、持ち上げるといった形で相手を抑え込みに行くが、攻撃者もかわしたり、相手をひきずったりしながら帰陣を狙う【筆者撮影】

 試合は、一進一退の攻防となった。攻撃が得意なチームブルーは、2-6の守備場面で主将の河野がスーパータックル(守備者3名)を決めて2点を得て4-6と追い上げると、そのまま敵陣に入って攻撃に転じ、相手の右コーナーをけん制。相手に左足をつかまれて攻撃失敗かと思われたが、腕でマットを押すように這って相手を引きずって自陣に進むと、フォローにきた相手3人に覆いかぶさられながらも腕を伸ばして帰陣に成功。4人と接触した状態で帰陣に成功したため、一挙4得点のビッグプレーとなった。河野は、日本代表の主将。実力を見せつけた。

 守備2人となってしまったチームレッドは、スーパータックルでの得点を狙ったが、チームブルーの畠山大喜(Buddha)が大きな体格を生かして、2人にタックルをされながらも帰陣に成功。ローナ(全滅状態。コートにチーム全員を戻す代わりに、相手チームに2点追加される)に追い込み、12-6とリードした。

 しかし、守備が得意のチームレッドも反撃。千葉央人(無所属)は、攻撃時に上半身にタックルを受けながらもくるりと腰を回して足で帰陣に成功して得点。さらに、チームレッドは、得意の守備で着実に相手の人数を削ると、高野が攻撃時に足でのタッチを狙い、相手2人にタックルをされながらも体重差を生かして強引に生還。残り1人と追い込まれたチームブルーが自らローナを選択して15-15の同点とした。

 チームレッドは、途中で攻撃の役目を負っていた高野が出血するアクシデントに見舞われたが、代わって攻撃役を務めた沼野創(Bullet Ants)が軽快なプレーで得点するなど対抗。勝負は終盤までもつれたが、最後はチームブルーが得点差を生かして時間をコントロール。39-36で勝利を収めた。

 チームブルーの主将、河野は「日本の課題として攻撃力を上げないといけないので、こういう構造にしました。攻撃側は点数こそ取れていましたが、チームの目標や課題に対して取り組めていたのは、守備チーム。点の取り方のプランや、プランを遂行する技術をもっと高めないといけない」と久々の実戦の中で、代表強化のイメージを膨らませた。一方、チームレッドの阿部は「アンティ(守備)で魅せることは、出来たかなと思う。序盤、スタートダッシュを切って、アグレッシブなプレーを出すことは、一番の課題だったので、そこを表現できたのは、すごく良かったと思います」と敗戦の中でも手応えを得た様子だった。

「灼熱カバディ」人気による追い風

 カバディは、南アジアで盛んな競技で、インドにはプロリーグも存在する。日本では、まだマイナー競技の域を出ないが、サッカーや競泳など他競技で活躍した経験を持つ高校生がカバディに転向して活躍するストーリーの漫画「灼熱カバディ」がテレビ東京系列でアニメ化されるなど好評で、漫画やアニメをきっかけに競技を知る若い世代が増えている。

 元々、カバディは育成環境がまだ整っていないため、他競技からの転向組が多い。漫画のように、他競技の有力選手が参戦するようになれば、大きな飛躍が見込める。日本カバディ協会の河合陽児事務局長は「漫画、アニメの流行で、実際のカバディとはどういうものか見たいという声もあった」と、今回のイベントの一つのきっかけにもなっていることを明かした。

 6月27日に行われる男子の競技体験会は、定員に到達(女子の体験会は、参加者募集中)。9月には、東京、広島で公式戦再開を予定しているが、男子は全国各地の大学などで愛好会やサークルが立ち上がっており、河合事務局長は「公式戦を再開した時に、登録チームが増える可能性はあると思う」と話した。

 日本カバディ界の大目標は、2026年アジア大会(愛知県開催)でのメダル獲得。大きな成長が見込める若い世代が増えている時代の流れを逃さず、発展につなげられるかが、成功のカギを握る。そのためにも、先頭を走る日本代表は、競技の存在をアピールしていかなければならない。コロナ禍で活動が制限される中、寺の境内を借りるなど工夫しながら、日本カバディ界は飛躍のときを目指して突き進んでいる。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

平野貴也の最近の記事