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インフラ老朽化、災害頻発、人口減少。国難に備える「水みんフラ」とは何か?

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
(写真:ロイター/アフロ)

忍びよるインフラの綻び

日本は「水に恵まれた国」と多くの人が思っているが、本当か。

それは先人がインフラを整備してくれたおかげではないか。利水、治水施設が整備される前は水系伝染病の感染者、水害での死者ともに現在よりはるかに多かった。先人の努力によって、毎日安全な水を得ることができ、日常生活では水の災いを気にせずにいられるようになったのだ。

だが近年は、インフラの綻びを実感している人も多いだろう。1年間に、上水道の漏水・破損事故は全国で2万件以上、下水道管路に起因する道路陥没は4000件以上、農業水利施設の突発事故は1000件以上発生している。地震や水災害などで被災し、長期間の断水や、下水道が使用できなくなったという経験をもつ人も多いだろう。


その一方で、人口減少、それにともなう税収減、水道料金収入の低下などにより、インフラの管理に必要な組織やリソースが脆弱になっている。上下水道、農業水利施設などのインフラの老朽化、森林の荒廃、耕作放棄地の増加などが、前述のインフラの綻びにつながっている。油断していると、日本は「水に恵まれた国」ではなくなってしまうだろう。

「水みんフラ」で備える

では、どうしたらいいのか。3月1日、ウェビナー「水みんフラ—水を軸とした社会共通基盤の新戦略—」(東京財団政策研究所/研究代表者・沖大幹 東京大学 総長特別参与 大学院工学系研究科教授)が開催された。

同ウェビナーでは、上下水道、農業水利施設、治水施設など従来のインフラだけではなく、自然生態系や人為的な生態系、そして人や組織が組み合わされたシステム全体が、安全な水の安定供給を支えていることを共有し、それらを「水みんフラ」(「みんなの水インフラ」)と呼んで、社会全体で支えていこうという提言がなされた。

提言全文「水みんフラ—水を軸とした社会共通基盤の新戦略—」


具体的なポイントをまとめると以下のとおり。

「集約型と分散型の上下水道システム」:上下水道では既存の大規模施設の計画的なダウンサイジングを行うこと、同時に地域の実情に合わせて大規模集約型と小規模分散型など多様な上下水道システムを選択し、ベストミックスを検討する。


「グリーンインフラを活用したコミュニティでの水管理」:都市部の豪雨対策としては、公共空間での大規模施設での対策に加えて、民有地での取り組みを含めた小規模雨水管理を推進する。


「水みんフラとしての農地」:水は土地利用の影響を受ける。農地が荒廃し、農業水利施設が壊れれば、健全な水循環は損なわれる。そこで農地や農業水利施設なども「水みんフラ」として、行政区・土地改良区・地域住民の協働管理体制を構築する。


「水みんフラとしての地下水」:多くの人が利用する地下水は、土地利用の変化の影響を受け、地下水量の減少などにつながる。地下水の特徴を社会で共有し、地下水の流動、使用量、涵養量についての情報共有を図り、保全しながら活用する。

「流域治水と水みんフラ」:新たに始まった流域治水では、河川管理者に限らない多様な関係者が一緒になって、流域全体での洪水リスクの軽減を目指す必要がある。流域内の関係者の互恵関係の構築と理解を促しながら、その貢献に実感が伴うような制度を構築する。

共有ツール「水みんフラ曼荼羅」

多くの人と「水みんフラ」について共有するツール「水みんフラ曼荼羅」も公開された。

「水みんフラ」曼荼羅(https://www.tkfd.or.jp/files/research/2023/Oki_PG/0213%20tkfd_mizu_pos_web.pdf)
「水みんフラ」曼荼羅(https://www.tkfd.or.jp/files/research/2023/Oki_PG/0213%20tkfd_mizu_pos_web.pdf)

従来の水循環の図と「水みんフラ」曼荼羅の大きな違いは人の存在だろう。家庭で清浄な水が使え、災害に対して安全に生活できる背景には、「水みんフラ」に携わる人々、利水、治水に関するインフラや農地、林地などの「水みんフラ」を、時代を越えて支えてきた様々な人の関与がある。

今後も自然界を流れる水の様子を観察し、その性質を見極め敬意を払いつつ、適時適切な選択をしていくことが、水の恩恵を受け、脅威をできる限り低減していくことにつながるだろう(「水みんフラ」曼荼羅はダウンロード可能)。

研究代表者の沖教授は、「みんフラによって私たちの暮らしが支えられていることを意識してほしい。前の世代から受け継いだみんフラを、少しよくして次の世代に渡すことが大切だ」とウェビナーを結んだ。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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