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アサヒ、キリン、コカコーラ、サントリー。飲料メーカーが行う「持続的な水への取り組み」とは何か

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
(写真:アフロ)

企業活動は大量の水に支えられている

企業活動に水は欠かせない。飲料、食品だけでなく、あらゆる製品やサービスに水が必要だ。熊本県に台湾の半導体大手TSMCが進出したが、半導体生産には清浄な水が大量に必要で、同社のCSRレポートによると2020年に19万3000トンの水を使用している。

意外なところでは、GoogleやMetaなどのIT企業もデータセンターの冷却水として大量の水を使用する。データセンターが高密度になり消費電力が増えたが、冷却システムに障害が発生すればサーバに悪影響がおよぶため、冷却効率の高い水冷式が採用されている。

一方で、気候変動による地球温暖化、降雨の変化により世界各地で干ばつが慢性化しており、貴重な水資源をいかに保全しながら活用するかが企業の命題となっている。これは生物多様性にも寄与する。さまざまな生き物が豊かに存在し、命のつながりを実現するには水が欠かせない。もし不適切な使用によって水資源を枯渇させれば、地域社会や生態系に大きなインパクトを与え、企業活動の存続は難しくなるだろう。

「水循環基本法」に定められた「事業者の責務」


3月1日、「第3回企業連携水循環ウェビナー~飲料業界における水循環施策に資する取組に迫る~」(内閣官房水循環政策本部事務局)がウェビナー開催された。企業が水循環における取組を円滑に行えるよう、情報や知見を共有するのがねらいだ。


2014年に制定された「水循環基本法」では水を「国民共有の貴重な財産」と定めている。その財産を使用して活動を行う企業には、以下のように「事業者の責務」を定めている。

第6条 事業者の責務
事業者は、その事業活動に際しては、水を適正に利用し、健全な水循環への配慮に努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する水循環に関する施策に協力する責務を有する。

では、具体的に企業はどのような活動を行っているのか。

水ストレス、水リスクを分析し水源保全活動を行う

登壇した4社は、自社拠点、サプライチェーンでの水ストレス(水不足により日常生活に不便が生じているかどうか)、水リスク(水の不足、汚染、水災害などが企業活動におよぼすリスク)を分析し、ストレス、リスクの高い場所を中心に、水使用量を抑える、水を再利用する、水を再生利用する、あるいは涵養を行う(地表の水が地下に浸透して帯水層に水が供給されること)などの活動に取り組んでいる。

各社の具体的な活動は以下のとおりだ。

アサヒグループジャパン

・80年に渡り社有林「アサヒの森」の保全活動を行う。「アサヒの森」の面積は2,165ヘクタールで、東京ドーム461個分ある。2021年からの「アサヒの森」での水涵養量は年間1,101万トンあり、国内8工場の取水量(963万トン)を上回る。

・近年干ばつが発生しているオーストラリアで、ビール工場の醸造工程で出た水に特別な処理を施し、農家へ提供している。

キリンホールディングス

・2013年から、スリランカの紅茶農園の持続可能性を高めるために、レインフォレストアライアンス認証(森林の保護、労働者の人権尊重や生活向上、気候危機への緩和と適応など、より持続可能な農業を推進するための包括的な認証制度)の取得支援を開始した。集中豪雨での土砂流出を防ぐ雑草管理、紅茶農園内の水源地保全活動などを行う。2020年には15ヶ所の水源地の保全を実施した。

・水ストレスの高い米国コロラド州のニュー・ベルジャンで、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース。企業・団体が自身の経済活動による自然環境や生物多様性への影響を評価し、情報開示する枠組みの構築を目指す)からの依頼でシナリオ分析ワークショップを実施。生態系サービスの劣化が止まらずビジネスの継続性が困難な状況を、社会協力体制を構築すること(自然資本の科学的目標設定や情報開示などで社会全体として劣化を止める)、再生型農業を推進する(原料生産地の土壌の健全性と保水力を高める)ことで、生態系サービスの劣化を抑え、政策や市場のニーズが生態系サービスの保全に動くシナリオを作成した。

コカ・コーラ ボトラーズジャパン
・自社拠点のある地域の水源の保全と調査を行う。そのうえで水源林の保全や水田への水張りなどによる涵養活動を行う。流域という「降った雨が一筋に収斂して川となって海まで流れる範囲」に着目し、全17工場周辺の15流域で涵養活動を数値分析し、14流域で水使用量を上回る涵養量がある。

・唯一100%を下回る多摩川工場周辺の流域で、2023年、山梨県丹波山村、東京都八王子市と提携し、涵養活動を強化していく予定だ。

サントリーホールディングス
・稲刈り後の田んぼに水を張ること、「サントリー 天然水の森」において放置人工林を間伐することで涵養活動を行う。「天然水の森」は国内に22ヶ所、1万2000ヘクタールあり、そこで間伐や、間伐後に伐採木を等高線上に並べて土留めと種子の止まり木とするなど森林植生の回復を行っている。

・水源涵養活動は世界各地に広がっており、インド、イギリス、スペイン、メキシコなど6カ国で活動がはじまっている。


4社に共通するキーワードは涵養(地表の水が地下に浸透して帯水層に水が供給されること)だろう。だが、比較的新しい概念であり、社会で共有されているとはいえない。

今後、こうした活動をどのように評価するか、活動の意義をどう共有するかが課題となる。企業内、投資家、消費者、地域で水を共有する人びとが活動に共感することが、活動の持続につながっていくだろう。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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