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対岸の火事ではないチリの森林火災。世界で頻発する森林火災と地球温暖化の負の連鎖

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
山火事によって荒廃した丘や家々(写真:ロイター/アフロ)

高温、乾燥、強風という火事を広げる3要素

南米チリで大規模な森林火災が発生した。政府はこれまでに112人が死亡したと発表。地元メディアは「300人以上が行方不明」と伝えており、死者数は増える恐れがある。被災地を視察したボリッチ大統領は、「地震(2010年2月、マグニチュード8.8の地震が発生し500人以上が死亡)以来、最大の悲劇だ」と悲嘆にくれた。

火災の直接の原因は放火と見られているが、高温、乾燥、強風という火災を大きくする3要素が重なった。今年1月、チリのサンティアゴでは気温36.7度を記録した(平均気温は30度)。これは同月としては112年間で3番目に高い気温だった。気温の上昇はエルニーニョ現象と関係する。今回のエルニーニョ現象は2023年5月からはじまり、12月、1月に強まり南米全体に熱波を引き起こした。また、地球温暖化の影響を受けてもともと海水温が高かったことで、エルニーニョ現象がより極端になったとも言われている。


カナダ、ハワイなどで相次ぐ森林火災

米国のシンクタンク「世界資源研究所」(WRI)は近年、森林火災の被害が拡大しており、20年前に比べて約2倍の面積が焼失しているとの分析結果を発表した。2020〜2022年の3年間は年平均で831万ヘクタールの森林が焼失した。2001〜2003年までの3年間は年平均が387万ヘクタールだった。


ふりかえると昨年は世界各地で大規模な森林火災が相次いだ。夏にはカナダで森林火災が相次ぎ、6月のケベック州のシブーガモの火災では、約1万人が1週間近く避難した。8月にはハワイ・マウイ島で火災が発生し100人近い死者が出た。そのほかギリシャ、ポルトガル、チリなどでも森林火災が発生し、焼失面積は前年よりも大きく増えたと考えられる。


森林火災と地球温暖化の関係

国際研究グループ「ワールド・ウェザー・アトリビューション」(WWA)は、昨年のカナダの森林火災について分析し、「地球温暖化によって火災が起きやすい気候になる確率は2倍以上になっている」と報告した。高温、乾燥、強風という要素が重なると山火事のリスクは高くなる。火災の直接の原因は落雷や火の不始末などさまざまだが、高温、乾燥状態だと鎮火しにくく、強風によって燃え広がる。マウイ島で火災が広がったのは、近くを通過したハリケーンの強風が原因だった。ハリケーンがハワイ近辺までやってくることはめったになかった。

そして、森林火災はさらなる地球温暖化につながる。森林は大気中に放出された二酸化炭素を吸収し、貯蔵しているが、森林火災は二酸化炭素の放出につながる。欧州連合(EU)のコペルニクス大気監視サービスによると、昨年のカナダの火災による二酸化炭素排出量は4億1000万トンに達した。温暖化によって山火事のリスクは高まり、山火事によって温暖化はさらに進む。


さらに火災の煙のなかの細かい炭素の粒子が付着した南極や北極の雪や氷は、太陽光を吸収して解けやすくなる。永久凍土の泥炭が露出すれば、二酸化炭素だけでなく温室効果が高いメタンが発生する。メタンガスの地球温暖化係数(二酸化炭素を基準に他の温室効果ガスの温暖化能力を示した数字)は二酸化炭素の25倍もある。

森林火災と地球温暖化の関係を考えると、海外の森林で起きていることは対岸の火事ではない。負の連鎖を断ち切らないと、私たちの暮らしが脅かされることになる。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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