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PFOS、PFOA対策で来年の水道料金は高騰するか?

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
(写真:イメージマート)

PFOSの対策費5億1000万円


沖縄県議会で12月11日、来年10月から水道料金を値上げする条例案が議論されました。県は、値上げの理由として、有害性が指摘されている有機フッ素化合物=PFOSなどの対策費が含まれると説明しています。

料金は現在1立方メートルあたり102円ですが、来年10月から125円と約2割上がり、3年後の2026年にはさらに1割程度値上げという案。この値上げによってPFOSなどの対策費5億1000万円が賄われる予定です。

厚生労働省は2020年4月に、PFOS、PFOAを「水質管理目標設定項目」(水質管理上留意すべき項目)に位置づけ、暫定目標値をPFOSとPFOAの合計で50ng/L以下としました。2021年4月にはPFHxSも「要検討項目」(毒性評価が定まらない物質や、水道水中での検出実態が明らかでない項目)としました。

沖縄県では北谷浄水場の水源である比謝川や嘉手納井戸群などで、PFOS、PFOAが高濃度で検出されたため、吸着効果がある粒状活性炭などを使用した浄水処理をはじめ、北谷浄水場では年間約4億円の費用がかかっていました。

現状の水道事業では、かかった費用を給水人数で割って料金を決めるため、浄水コストの増加が料金値上げにつながることになります。沖縄県企業局は対策にかかる費用については国が負担することを求めています。


ですが、これは沖縄だけの問題ではないでしょう。2020年度に全国の水道事業者が給水栓水でPFOS、PFOAを測定したところ、測定地点数589地点のうちの5つで水質管理目標値(50ng/L)を超過し、粒状活性炭処理が導入されたケースもあります。


基準値が厳しくなるとモニタリングや浄水コストは増加

世界を見回すと、PFOS、PFOAなどの基準値は厳しくなる傾向にあります。米国では2023年3月に第1種飲料水規則案の規制値としてPFOS、PFOAそれぞれ4ng/Lが提案されました。デンマークは2021年6月にPFOA、PFOS、PFNA、PFHxSの4物質の合算の基準値として2ng/L以下が公表され、すでに2022年2月23日から適用されています。スウェーデンは、2026年1月1日から適用される PFASの4物質(PFOA、PFOS、PFNA、PFHxS)の合算の基準値として4ng/Lが公表されました。

PFOS、PFOAなどは、人についてコレステロール値の上昇、発がん、免疫系等との関連が報告されていますが、どの程度の量が身体に入ると影響が出るかについては確定的な知見はまだありません。人の健康が最優先されるべきなのは言うまでもないのですが、基準値は最新の科学的知見に基づき慎重に決める必要があります。決め方によっては、モニタリングや浄水のコストが跳ね上がることになるでしょう。

WHOは浄水方法について、「凝集沈殿ろ過、オゾン処理、消毒処理などの一般的な方法は効果的でない」とし、膜処理、活性炭吸着、イオン交換などを推奨しています。膜処理とは、微細な孔があいた膜に通水し、水と異物を分離することですが、エネルギー使用量やコストは上がるでしょう。

規制が厳しくなると、それをビジネスチャンスととらえる企業もあります。かつて水道水中のクリプト原虫が大きな問題になったことがありました。クリプト原虫は牛や豚などの哺乳類の小腸に寄生し、水や食べ物とともに体内に入り、感染すると下痢や発熱などの症状が現れます。クリプト原虫は多くの浄水場で採用されている急速ろ過では除去できないため、膜ろ過が普及しました。

このとき清浄な原水があり、本来はクリプト対策が必要なかった水道事業でも膜ろ過が採用されるケースがありました。そうした水道事業者のなかには、いまになって膜ろ過の維持管理コストの高さから、経営が圧迫されているケースもあります。

繰り返しになりますが、人の健康が最優先されるべきなのは言うまでもありません。ですが、何を守るためにどんな対策をするか、対策のコストはいくらかかるのか、その負担を誰がしていくかもあわせて考える必要があるでしょう。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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