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水道の管轄が厚労省から国交省・環境省へ。メリットや課題を国会での議論からひもとく

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
(提供:イメージマート)

 蛇口をひねって出てくる水は、厚生労働省の管轄。台所の排水口から下水道に入った水は国土交通省の管轄。生活者の感覚では「ちょっと不思議」な水道行政が変わろうとしている。

 厚労省が管轄する水道行政を、国土交通省と環境省に移管する法案が4月27日の衆院本会議で可決され参院に送付された。移管後、国交省と環境省の業務分担は次のようになる。

国交省……水道事業に関する基本方針の策定や事業の認可、老朽化対策、耐震化などの施設整備や経営、災害時の復旧支援、渇水対応など

環境省……水質・衛生に関する業務

 2つに分かれるといっても、水道業務の全般は国交省が所管し、水質部分の保管を環境省が行うことが、国会審議では確認されていた。今国会で成立すれば来年2024年4月1日に施行となる。

移管の背景には何があったのか

 そもそも、なぜ水道事業を厚労省が管轄していたかといえば、水道と健康が密接なものだから。戦後に施行された日本国憲法には、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「国は(中略)公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」(第25条)と明記されている。

 この理念の基に1957年に「水道法」が制定され、全国の水道が急速に布設・拡張され、これを厚生省(当時)が担当した。1950年に26.2%だった水道普及率は、高度経済成長期に飛躍的な拡張をとげ、現在では98.2%(2021年末)に達している。水道普及とともに水系消化器系伝染病の患者数は激減している。

 では、国交省へ移管されるようになった背景にはどんな声があったのか。

 1つには水道の持続に赤信号が点っていること。近年は施設の老朽化が深刻で、年間2万件を超える漏水や破損事故が発生している。近年は災害に伴う長期断水も多い。

 だが、人口減少や節水家電の普及などから水道の収入は低下し、財源不足から施設の更新ができていない。水道管の更新には1キロメートルあたり1億円から2億円かかるとされ、更新のスピードは遅く、現在のペースだと140年かかると言われている。

 それゆえ水道関係者のなかには「国土交通省に移管されれば、災害対策や水道以外の社会資本整備と一体となった整備の促進が期待できる」という声がある。

 もう1つは厚労省の組織改革の影響。コロナ禍で明るみになった医療体制の弱さを強化するため、厚生労働省に「感染対策部」ができ、同時に厚労省内の組織の再編が行われることになった。結果として水道事業が国交省へ移管されるというわけだが、「水道と健康」の関係は水道事業の一丁目一番地であることを忘れてはならない。

国会で論じられた移管のメリットは整備パフォーマンスの向上

 では、移管のメリットとは具体的にはどんなものか。国会での議論から紐解いていきたい。

 4月21日の厚労委員会での日本維新の会の吉田知代氏の質問に対し、松原誠下水道部長は「地方公共団体では上下水道一体の組織が多い。国交省が一体的に所管することで水道整備のパフォーマンスも向上する」と答えた。

 関連する動きとして、国交省は4月24日に「全国下水道主管課長会議」を開催。そこでも上下水道と一体的に運営する相乗効果を生かし、災害時の早期復旧や維持業務の効率化につなげることが確認されている。

 また、5月12日の国交委員会では、斉藤鉄夫国土交通相が、水道事業の技術者不足解消に注力する考えを示した。

国会で論じられた移管後の懸念点①事業運営

 一方で、移管後の懸念点についても論じられている。

 4月21日の厚労委員会で立憲民主党の早稲田夕季氏は「移管に伴い安易な民間委託に陥ることは避けてほしい」と「公営による公共の福祉の充実」を求めた。

 だが、前述の「全国下水道主管課長会議」では、民間事業者に長期間運営権を譲渡するコンセッション(公共施設等運営権)方式を導入する自治体への支援が確認されている。この会議では下水道のコンセッションがテーマだったが、上下水道の一体的運営が標準になれば、今後は上下水道ともに民間企業に運営を任せるケースが増えそうだ。

 付け加えると、同会議では、運営権を民間事業者に移さず、維持管理と改築を一括し長期間委託する新たな手法も議論されている。コンセッション方式には反対の意見も多いことから新しい手法を模索しているようだ。

国会で論じられた移管後の懸念点②有機フッ素化合物

 もう1つは、水道水源などから有機フッ素化合物が検出されている問題だ。こちらは環境省が担うことになる。

 4月21日の厚労委員会で日本共産党の宮本徹氏の質問に対し、厚労省の佐々木昌弘生活衛生・食品安全審議官は、国内の水道では589の測定地点中63地点で「米国の新規制値案」を超えていることを明らかにした。

 宮本氏は、大規模な血液検査、健康調査を要求。加藤勝信厚労相は「血中濃度と健康影響の関係は明らかではない。科学的知見を収集し、専門家の意見を踏まえながら必要な検討を進める」と答弁した。

 国交省、環境省に移管後も、水道事業の運営をどうするか、人々の健康をどう守るかという課題は残っている。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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