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天龍村で「秘境大学」が開講!村のおかあさんたちから郷土料理を教えてもらうねらいは?

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
巻き寿司づくり(写真提供:天龍村)

郷土料理で村のファンを増やす

天竜川は、長野県から愛知県、静岡県を経て太平洋へ注いでいる。上流域にある天龍村(長野県下伊那郡)に行くと、村の真ん中を川が南北に流れ、支流が作るV字渓谷の中に集落が点在している。人口1116人(2023年3月31日現在)、高齢化率は全国2位という村だ。

天竜川(天龍村にて筆者撮影)
天竜川(天龍村にて筆者撮影)

4月23日、「村のおかあさんたちから郷土料理を教えてもらう」というイベントが開かれた。これは村が行う「秘境大学」のプログラム。秘境大学の目的は、関係人口(つながり人口)を増やすこと。移住するわけではないが、ただ観光して帰ってしまうわけでもない、地域や地域の人たちと、さまざまに関わる人を増やそうというわけだ。

秘境大学では、村の人たちが「教授」になって村に関するさまざまなことを教えてくれる。昨年は村内の集落をまわってフィールドワークを行ったが、今年のテーマは料理である。

伊藤佑子教授(村のおかあさん)が冒頭、こんな話をしてくれた。

「浜松市(天竜川の下流部に位置する)の高校生たちが村に来たとき、郷土料理の五平餅をいっしょにつくって食べたらとっても喜んでくれた。村の若い人や他のまちの人にも天龍村の料理をいっしょにつくって、食べてもらうといい」

会場となった集会所には、最近村に移住してきた人たち、首都圏から高速バス、新幹線、ローカル線を乗り継いでやってきた人たちなど、20名が集まり、教授陣から料理を教えてもらった。

この日のメニューは「とじまめ」と「巻き寿司」

とじまめとは米と大豆をあまく煮たもので、もともとは茶摘みの合間に「おやつ」として食べたものだそうだ。下ごしらえした材料を、鍋で焦げつかないように、かきまぜるのがポイント。炒ったのちに煮た豆はあまくて香ばしく、口の中ではらりとくずれるちょうどよい固さ。やみつきになる。

とじまめづくり(写真提供:天龍村)
とじまめづくり(写真提供:天龍村)

とじまめのつくり方(筆者メモ)
とじまめのつくり方(筆者メモ)

巻き寿司はなんとも具材が豪華。デンブと細かく刻んだクルミをあえたもの、ごぼうやカンピョウをあまからく煮て細切りにしたもの、卵焼き、紫蘇など。のりに酢飯を広げ、具材をのせて簀巻きに。食べやすい大きさに切ってほうばると、ごぼうやカンピョウのお醤油味、デンブや卵に甘味、しそのほろ苦さなど、さまざまな味が口に広がる。食感も豊かだ。紫蘇や海苔のパリパリとした感じ、ごぼうやカンピョウの歯応え、小さなクルミの存在感。村の祭りにはかかせないメニューだという。

巻き寿司のつくり方(筆者メモ)
巻き寿司のつくり方(筆者メモ)

参加者は自分たちでつくった料理に舌鼓を打ち、その後、おかあさんたちから村についていろいろな話を聞いた。

旧南信濃村に住む女性の話が印象的だった。

「天龍村がうらやましい。こうやって若い人たちと集まって話ができる。私の村は飯田市に合併した。そうしたら村の職員だった若い家族はみんな飯田に行ってしまった。子どもたちの姿はまったく見なくなった。寂しいものです」

飯田市の人口は96,557人(2022年4月末)。天龍村の人口1,116人に比べると87倍だ。一般的に自治体の人口減少問題は、こうした数字で考えがち。でも大切なのは人間の関係性であって、小さくても顔が見えて話のできるコミュニティが重要と感じた。

水源地域の問題とは?

一般的に、水源地域はその多くが中山間地域に位置し、過疎化、高齢化が進んでいる。森林や農地が管理されなくなることで、健全な水循環に影響をおよぼすこともある。

天龍農林業公社によると「水田、畑、山林は、保水効果や水源涵養の役割をになっているが、天龍村の現況を考慮すると、地域の農地・林地の保全管理において、民間の営農活力が衰退している」という。つまり、これは天竜川流域の問題でもある。

そこで、秘境大学などさまざまなプログラムを実施し、移住者や関係人口を増やそうとしている。

秘境大学の紹介ページにはこんな記述がある。

「面積の93%を山岳地帯が占め、コンビニも、スーパーも、信号機もなく、高齢化率は全国で2番目に高いこの村には、いろいろなものが「ない」かもしれません。でも、「ない」からこそ、知恵を絞り、手を動かす。」

天龍村役場の内藤孝雄さん(地域振興課 移住定住推進係)は、「コロナ禍でなかなか飲食を伴う交流イベントを村内で開催できませんでしたが、ようやく開催できました。さまざまな地域の方と交流できて村民の方も満足いただけたようでした」と語っていた。

巻き寿司(奥)ととじまめ(手前):(写真提供:天龍村)
巻き寿司(奥)ととじまめ(手前):(写真提供:天龍村)

私の住む地域には、コンビニも、スーパーも、信号機もあるが、天龍村にあるものが「ない」ような気がした。

さて、みなさんは自分の住む上流がどうなっているか考えたことはあるでしょうか? もしかしたらいろいろな取り組みがはじまっているかもしれません。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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