困窮死と水道停止 停止前の訪問で防げるか
どのように水道は止まるのか
大阪府八尾市の集合住宅で2月22日、無職の母親(57歳)と長男(24歳)の遺体が見つかった。水道とガスは止められていた。母親は死後1か月以上、長男は10日ほどとみられるが、市は遺体発見の4日前に、連絡が取れない行方不明者として生活保護の廃止を決めていた。困窮の末に餓死した可能性が高い。
2019年12月、東京都江東区の集合住宅で72歳と66歳の兄弟が痩せ細った状態で死亡しているのが見つかった。電気やガスが止められ食べ物もほとんどなかった。料金の滞納で水道が止められる直前だったが、生活保護の申請はしていなかった。
体を維持するには水が必要だ。人間は、水と睡眠をしっかりとっていれば、たとえ食べものがなかったとしても、2〜3週間は生きていられるとされる。だが、水を一滴も飲まなければ、せいぜい4〜5日で死んでしまうという。
それだけに水道が止まるということは、命に直結することだ。
だが、今回のケースは水が止まったから亡くなったというわけではない。
重要なのは、給水停止に向かうプロセスのなかで、社会から切り離された生活困窮者を発見し、救うことはできないかということである。
水道料金は2か月に1度、検針と請求が行われる。支払方法は、コンビニや金融機関での現金払い、コンビニでのキャッシュレス払い、口座振替、クレジットカード払い、スマートフォン決済など。
では、水道料金を払えない(払わない)とどうなるか。すぐに水道が止まることはないが、長期間放置すると給水停止になる。まず、どのようなプロセスを経て水道が止まるのかを確認したい(詳細は各水道事業者(水道局)によって異なる)。
1 督促状が届く(目安:納付期限から2週間~20日間後)
支払期日を過ぎると督促状が送付される。ここには、
・滞納している金額
・納入期限
・水道料金を至急納入してほしい旨
が記される。
→対処法:近くのコンビニや銀行などで支払えば滞納状態は解消される。
2 催告状(勧告状)が届く(目安:納付期限から1か月後)
督促状に記された期限を過ぎても料金を支払わなかった場合、催告状(勧告状)が送付される。催告状には、
・滞納している金額
・納入期限
・滞納が続くと給水停止もある旨、滞納が続くと差し押さえもある旨
が記される。
→対処法:近くのコンビニや銀行などで支払えば滞納状態は解消される。
3 給水停止予告書(給水停止執行通知書)が届く(目安:納付期限から約2か月後)
催告状に対応しない場合、給水停止予告書が送付される。
・滞納している金額
・最終納付期限
・最終期限までに料金が納付されなければ給水停止の措置をとる旨
が記される。たとえば以下のような文面である。
「下記未払い料金を◯年◯月◯日までにお支払いいただくよう催告書により通知しましたが、まだ、お支払いいただいておりません。このままですと、やむを得ず給水の停止や支払い督促の申し立て等の措置を講ずることになります。ただし、お客さまのご事情を考慮して、下記の指定期限までお待ちしますので、必ずお支払いください」
→対処法:給水停止予告日までに支払えば給水停止にはならない。ただし、ギリギリになってからコンビニや銀行などで支払った場合、水道局へ支払い完了通知が届くまでに1週間程度かかるので水道局に連絡するとよい。水道局へ直接支払えば確実。
4 給水停止(給水停止予告書に記載されている最終納付期限から数日以内)
水道事業者職員が水道メーター付近にある止水栓を回して止め、そのうえから給水キャップを付けて回せないようにする。
滞納料金の全額支払いで給水再開
給水停止を解除するには滞納している金額を全額支払う。平日の水道局が開いている時間内に窓口で滞納料金を支払えば、その日のうちに給水停止を解除してもらえる。自治体によっては、滞納料金の一部を支払えば給水停止を解除してもらえるケースもあるが、その場合、残りの滞納料金を分割で支払う旨の誓約書を作成する。
滞納金(水道代の延滞に対する罰金)は自治体により異なる。滞納金発生有無と滞納金発生開始日の運用が大きく異なるので、直接水道局へ確認してみる必要がある。
水道料金が払えないときにどう対処するか
どうしても水道代が払えない場合には、早めに水道局へ行き相談する必要がある。
水道代が払えないほど困窮している状態であれば、生活保護受給者に該当している可能性も高い。水道局への相談経由で、低所得者向けの減免措置申請を行ってもらえる可能性がある。事前相談があれば、実際の給水停止にまでは至らずに、分割払い納付や減免措置を受けられる。
主な減免制度の対象世帯
* 生活保護世帯
* 障害者世帯
* 高齢者世帯
* ひとり親世帯
* 中国残留邦人
社会からの孤立をいかに防ぐか
東京都水道局の給水停止予告書(給水停止執行通知書)には、以下の記述がある。
<東京都福祉保健局からのお知らせ>
生活にお困りの方については、区の福祉事務所で生活保護などのご相談をお受けしております。お気軽にご相談ください。
しかし、問題なのは、困窮していても相談や申請を行わないケースである。
冒頭に書いた江東区の集合住宅で72歳と66歳の兄弟がやせ細った状態で死亡していた件で、料金滞納から水道停止の直前だったが、生活保護の申請はなく、区は兄弟の困窮について把握していなかった。
社会的に孤立しているのである。
江東区は支援が必要な人を見つけるため東京都水道局と協定を結び、滞納世帯の訪問で困窮がうかがえた場合などに区に通報する仕組みを5年前に作っていたが、協定に基づく通報はこれまでなかった。
この制度ができた背景は8年前にさかのぼる。
2012年1月20日夜、札幌市のマンション一室から姉(42歳)と知的障害のある妹(40歳)の遺体が見つかった。姉妹は数か月間家賃を滞納し、暖房用のガスや電気は停止していた。2011年12月下旬に姉が病死し、1月半ばまでに妹が凍死したとみられている。姉は2011年6月まで区役所に3度、生活保護の相談をしたが申請はしていなかった。生活保護を受けることを拒んだと考えられている。
厚生労働省は困窮している人たちを早い段階で見つけて福祉につなげるため、全国の自治体に通知を出して電気や水道などライフラインの事業者と連携するよう求めた。だが、実際にはそれが機能しているとは言えない。
江東区のケースに話を戻そう。
東京都水道局によると、兄弟は去年7月から料金滞納が続いていた。
11月以降、水道局の担当者が電話や訪問を試みた。しかし、生活困窮の状況を把握することはできず、区への通報は行われなかった。料金を滞納していて水道停止の対象者は23区だけでも約5万人いるが、生活が苦しい人だけではない。支払い忘れ、お金はあっても意図的に払わない人もいる。そういう状況のなかでは、生活困窮者を把握することはむずかしい。
さらにいえば、料金滞納者に対して訪問を行わない水道事業者もある。検針を民間企業に外注しているケースでは、声がけや困窮状況の把握は新たな業務の依頼ということになる。将来的に検針がスマートメーター(IoT技術を活用した水使用量の把握)に置き換われば、この制度そのものが維持できない可能性もある。
社会的に孤立している人を見守ろうというこの制度を実効あるものにするには、行政とインフラ事業者が協定を見直す必要がある。具体的には、訪問した担当者がどういうところを確認し、どういう状況であれば区に通報するのかという明確な基準が必要になる。それがないために、協定があってもライフライン事業者から行政への通報がごくわずかな件数にとどまっている。
ちなみに東京都清掃局では、ゴミ収集時にお年寄りの家にゴミを受け取りに行ったり、声掛けしながら異常がないかを確認しているケースもある。
個人情報保護という難しい問題はあるが、インフラ事業者や公共サービスがそれぞれに制度を機能させるための基準をつくりながら連携し、今回のような悲しいケースを減らす必要がある。