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意外と説明できない「つらら」が冷蔵庫の氷より透明な理由

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
地球の気温が上昇すると「つらら」を見る機会は減ってしまうのか(著者撮影)

暖冬で氷ができない

東京は1月14日になっても初氷が観測されていない。

  「東京はまだ氷張らず 初氷の最も遅い記録を更新」(ウェザーニュース)

 埼玉県秩父地域の冬の風物詩である「秩父三大氷柱」が暖冬の影響で苦境だ。気温が高いために「つらら」ができない。いまのところ無料開放を余儀なくされており、関係者は頭を抱えている。

 栃木県日光市では、特選日光ブランドに認定されている「日光の天然氷」が暖冬の影響を受けている。氷の厚さが足りず、切り出しが始められない。

 今後、気候変動によって温度が上がってしまうと、冬場でも氷はできにくくなるだろう。「つらら」や氷は貴重なものとなっていく。

 氷は水の保管場所としても貴重だ。冬場に山の上に氷という状態で水を貯え、春になると少しずつ溶け出し、夏場まで農業用水や生活用水などに使うことができる。もし今後氷ができにくくなると、夏場は渇水傾向になるかもしれない。

 ところで、「つらら」と家庭の冷蔵庫でできた氷を見比べると明らかに色が違う。「つらら」は透明だが、冷蔵庫の氷は白っぽい。とりわけ真ん中辺りが白っぽい。

 なぜ、この違いが起きるのだろうか。

 その秘密がわかれば、家庭でも「つらら」のような透明な氷ができるだろうか。

キーワードは「純度高めの水」

 透明な氷ができる際のキーワードは「純度高めの水」「ゆっくり動かしながら」「高めの温度で凍らせる」の3つである。

 まずは「純度高め水」について。透明な「つらら」は「純度高めの水」でできている。

 水を化学式で表すとH2Oだが、自然界の水はH2Oのみの状態で存在することはなく、実際にはいろいろなものがとけこんでいる。

 水は、いろいろなものをとかす性質がある。海水には自然界に存在する92種類のすべての元素がとけている。

 それは水の分子の性質に秘密がある。1つは、いろいろな物質を小さく分ける性質。 たとえば、水に入った食塩の分子は、ナトリウムイオンと塩素イオンに分かれる。もう1つは、物質とくっつく性質。 水の分子は水素の部分で、他の分子とくっつくことができる。

 水には固体、液体、気体が溶ける。ミネラル分の多い水とは、マグネシウム、カルシウム、カリウムなどの無機物(ミネラル分)がとけこんだ水だ。最近流行りの発泡性のミネラルウォーターは、地中で水に二酸化炭素がとけこんだもの、人工的に二酸化炭素を注入したものがある。

 では、水道水を冷凍庫で凍らせてみるとどうなるか。

 1番目に凍るのは水(H2O)。

 2番目に不純物(水道水に含まれるH2O以外のミネラルやイオンなど)。

 3番目に気体(酸素や二酸化炭素など)となる。

 できあがった氷を見ると、表面に近い部分は透明で、中心部が白い。これは表面に近い部分の水から凍りはじめ、不純物や気体が後から中心で凍るためだ。

水道水を凍らせると中心部が白くなる(著者撮影)
水道水を凍らせると中心部が白くなる(著者撮影)

 この順番が分かれば、家庭で透明な氷ができる。

 1)水道水を沸騰させる(気体を取り除く)

 2)冷ました後、製氷皿にゆっくり注ぎ、凍らせる

 3)半分くらいが凍る(このとき凍っているのは純度高め水の部分)

 4)まだ凍っていない水(不純物を含む)を捨て、湯冷ましを継ぎ足す

 すると家庭でも比較的透明な氷ができる。

水道水で湯冷ましをつくり凍らせると白い部分が減った(著者撮影)
水道水で湯冷ましをつくり凍らせると白い部分が減った(著者撮影)

「ゆっくり動かしながら」「高めの温度で凍らせる」

 だが、それでも「つらら」にはおよばない。

 次にポイントとなるのが、「ゆっくり動かしながら」「高めの温度で凍らせる」だ。

 「つらら」は湧水などが流れながら凍る。ゆっくり動きながら凍る。

 そして、気温が比較的高いときに、マイナス10度位で時間をかけて凍る。「マイナス10度が高いのか」と疑問に思うかもしれないが、冷凍庫の庫内温度マイナス18~20度に比べれば高い。

 日光などの天然氷は、製氷用の池に湧水や沢水を引き込み、自然の寒さで凍らせてつくる。霜が降り始める11月下旬頃に水を引き込み、12月初旬から凍り始め、1月中旬に15センチほどになると切り出される。完成までには1か月以上の時間をかけている。

 また、人工的に氷をつくっている業者も、この「ゆっくり動かしながら」「高めの温度で凍らせる」というしくみを応用し、マイナス8度~12度の環境の中で、原水をかき混ぜながら、再度、不純物を取り除き、48~72時間かけて凍らせていく。

 その結果、透明な氷ができる。

 では、家庭で「ゆっくり動かしながら」「高めの温度で凍らせる」は可能だろうか。「ゆっくり動かしながら」という点では、家庭用の冷凍庫のなかには製氷皿を振動させるタイプのものがある。「高めの温度で凍らせる」という点では、氷をつくる容器に断熱性の高いもの、例えば発泡スチロールなどを巻きつければなんとか可能だ。

 「純度高めの水」「ゆっくり動かしながら」「高めの温度で凍らせる」の3つを行うことで、「つらら」に近い透明度の高い氷はできる。

 だが、本当にいま考えなくてはならないのは、自然界で「つらら」や氷ができる状態を維持させることだ。氷がなくなると夏場に水涸れがおきやすくなり、多くのいきものに影響を与える。

 気候変動の対策こそが重要なのである。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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