【断水長期化】なぜ浄水場の復旧が遅いのか?

水源から蛇口までで浄水場はどこにあるか(拙著『おいしい水 きれいな水』より)

人と金の不足、気候変動対応の不足

「浄水場被害、断水長期化の懸念=浸水想定区域にも立地-台風19号」(JIJI.com)に報じられているように、台風19号によって浄水場が水没し、復旧までに時間がかかりそうだ。

 地下水や川の水など、水道水をつくるための水を「原水」と呼ぶ。この水は浄水場で処理され飲料水となる。それが水道管を通って、各家庭にまで送られる。つまり、浄水場は水道事業の要である。そこが被災し稼働しなくなれば、水道事業は心臓を失ったも同然になる。

 復旧が遅れている事情は、各浄水場によって異なるが、共通しているのは、人と金の不足、気候変動対応の不足である。

 水道現場を担う職員の削減は著しい。1980年に全国に7万6000人いた水道職員は、2014年には4万4000人になっている。削減は技術者を中心に行われた。「人員削減が事業経費削減に寄与した」と言われるが、水道事業のコストで多くを占めるのは施設・設備だから、本来は規模の縮小こそが有効だったはずだ。

 問題は、水道職員が減ったことで、水道事業から専門性の高い技術が失われたことだ。たとえば、有収率を上げようという意識や漏水箇所を見つける技術も水道事業者によってばらつきがあるし、今回のような災害に即応できない状況も生まれた。「人が減り、技術が失われれば、災害に対応できなくなる」とこれまでも再三繰り返されていたが、手が打たれる前に現実のものとなってしまった。

 職員が1人という水道事業も多数ある。たとえば、北海道羅臼町ではこの8年間、1人の職員しかいなかった。漏水対応などを地元業者の協力のもと、1人で行ってきた。しかし、日々の業務に追われ、設備更新に必要な台帳(水道施設の状況、水道管がどこに埋設されているかなどを示した図面など)を作成する余力はない。

 台帳がつくられていない自治体は羅臼町だけではない。全国の約4割の水道事業者が正確な図面をもっていない。正確に言えば、図面はベテラン職員の「頭の中」にある。このような状況では、被災時に応援が駆けつけても作業はしにくい。

 水道専門の職員をおかず、異職種間の人事異動を実施している事業体では、現状維持思考が強く、問題の先送りという事態も起きた。

 人口が減り、水道施設がボロボロになっていくという事実は見えていた。だから「自分のまちの水道をどうするか」というビジョンを立て、行動していくことが大切だったはずだ。施設・設備や管路の早期更新、長寿命化をはじめとする経営の「見通し」を立てることが急務だったはずだ。だが実際には、見通しが立たず「壊れたら直す」といった泥縄式の事業体がほとんどだ。

 水道事業者の集まる会議では「不幸自慢」をよく聞く。「うちは人がいない」「だから何もできない」「金がない」などと言い合う。

 見通しが立てられないのには、首長、地方議員の無理解も影響している。まちの人口減少にきちんと向き合わず「企業を誘致すればうちのまちの人口は増える」などと考えていたり、過去に計画された合理性のないインフラ拡張を行ったり、選挙運動の際に「おいしい水道をもっと安い料金で提供します」などと、現実にそぐわない公約を掲げるケースもある。

 今後は、水道の現状をいかに地域で共有するかが重要だ。自分の住むまちの50年後をイメージし、どのようなサービスが必要か、どのくらいの負担が可能かを、行政と市民が議論していく必要がある。そのためには人材の確保と技術継承が必要だ。

自治体内に「水循環健全部」を設置すべき

 同時に気候変動という課題にどう向き合うかも急務だ。今回冠水した浄水場は、流域内で水が集まりやすい場所にあり、今後も冠水する可能性がある。今回の台風は「これまでにない」「特別なもの」ではない。地球温暖化で海水温が上がり台風はエネルギーを蓄える。温暖化は大気の流れを緩やかにし台風の移動スピードは遅くなる。それは長期間に渡って豪雨が降り続くことを意味する。

 つまり、これまで沖縄や九州にやってきていた「強くて遅い台風」が、全国的にやってくると考えたほうがいい。

 地方では人口減少の対策としてダウンサイジング(浄水場などの施設を減らすこと)が行われつつあるが、その際、豪雨災害に強いか否かという視点も必要になるだろう。

 台風19号の際は、治水の面で「流域単位で考えるべき」という意見が出ていたが、水道事業も自然の水を相手にする仕事なので、流域という視点をもったほうが合理的だ。

 山に降った雨は、尾根で分かれ、低い所へと流れ、川に集約され、海へ出る。

 この流域という視点で水道事業を見直すと、さまざまなものが見えてくる。森林が荒廃すれば貯水機能は弱まり、渇水や水害のリスクは高まる。水田の減少は地下水の減少につながる。同じ流域に住む人は同じ水を使い、時には洪水や渇水、水質汚染などの影響をともに受ける。水源地をもてば土地所有のコストが発生するが、長期スパンで見ると、水質の安定化につながると考えられるし、温暖化ガスの排出権取引に使える可能性もある。

 現在は水源地の荒廃が問題になっている。山が荒廃すれば降水時の原水が濁ってしまう程度も頻度も上がる。想定を超えた雨が降る時代に備え、水源林の整備は大事だ。東京都、横浜市などでは水道事業者が主体的に管理しているが、他にもいくつかの自治体がそうした施策を行おうとしている。土地所有のコストが発生するが、長期スパンで見ると、水質の安定化につながると考えられる。 

 そうなると流域という視点で水循環を健全にしていく人材と部署が自治体内に必要だ。「水循環健全部」のようなものだ。もちろん流域境と自治体境は異なるので、流域単位の管理が理想であるが、そうした組織づくりには時間がかかり、豪雨災害はそれを待たない。だからまずは自治体内に「水循環健全部」をつくり、流域連携が基本であることを理念として掲げる。

 水道事業の広域化で人知を集積してダウンサイジングを図ったり、逆に、数軒しか家がないような集落では独立型の水道を考えるなど、地域や環境に合ったさまざまな対策を講じていかなければ水道事業は継続できない。

 さらには多発する豪雨災害への対策、荒廃した森林の保全など、水道の枠を超えて総合的に水行政を担う人材も必要になる。

 「水循環健全部」を設立し、そのなかに水道課、下水道課、林業課などができるとよい。流域固有の水問題を総合的に取り扱う人材を養成していくことが急務である。