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8月6日「雨水の日」。命がけで雨乞いした古代王、雨に無関心すぎる日本の政治家

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
雨水タンク(著者撮影)

「激」のなかの「白」は「白骨」

 今日8月6日は「雨水の日」である。「雨と共生する都市づくりの決意を確認する」という目的で、1995年に東京都墨田区が制定した。

 ところで「需要」の「需」はなぜ「あめかんむり」なのか。「需給」「必需品」などと使用され、雨とは関係なさそうに思える。『字通』(白川静/平凡社)や『白川静さんに学ぶ漢字は怖い』(小山鉄郎/新潮文庫)などで調べてみた。

 

 「あめかんむり」の下の部分は「しこうして」と読む。

著者作成
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 これは『字通』などによると、日照りが続き、雨乞いするときの古代の王の姿だという。 雨乞いの儀式のときの髪型を表現したものだ。

 古代の王は呪術を使い、神とコミュニケーションできる存在として、自分の権威を保っていた。 日照りが続くと農業ができなくなる。食べものがなくなり生活できなくなる。王は神に「どうか雨を降らせ給え」と祈った。その様子を表しているのが「需」という漢字であるという。

 祈りに関連しているのが「激」という漢字だ。「激」のなかに「白」がある。

著者作成
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 この白は「白骨」「しゃれこうべ」を表している。古代の王は白骨化したドクロを叩き、自分の祈りのパワーを高めたそうだ。

 さて、王の「雨を降らせて欲しい」という願いが神に聞き入れられた状態が「濡」という漢字だ。雨乞いをしている王の横に水を表す「さんずい」がつき、雨が降ってきたことを表している。

著者作成
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 人々は干ばつから解放される。王の権威は保たれ、人民の信頼は厚くなっただろう。

 ところが王が祈ってもいっこうに雨が降らないこともあった。

 そんなときはどうなったか。

 それを表しているのが「嘆」である。

著者作成
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 雨が降るよう神に祈っていた王が縛られ、下から火で焼かれていることを表しているという。このように聖職者を焚き、神に祈ることは古代社会ではしばしば行われていた。古代の王は呪術師として最後は自らが犠牲となる運命にあった。まさに雨と命がけで向かい合っていた。

気候危機は水のすがたを変える

 一方で日本の政治家は気候危機に対する関心が低い。先日の参議院議員選挙においても、経済政策に関する公約は多く見られたが、気候危機の対策は何も語らない、語っても優先順位の低い政党・候補者が多かった。

 地球温暖化が進むと水の動きは激しくなる。気候危機はいろいろなかたちで現れるが、とりわけ私たちが感じやすいのは、水のすがたを変えるということだろう。

 もともと水の多い地域ではこんなことが起きる。水は気温が高いほど蒸発する。気温が上がると、空気中の水蒸気の量がふえ、湿度が高くなる。雲が発生しやすく強い雨が降るので洪水も多くなる。日本では自然災害につながる可能性のある1日当たりの降水量が100ミリ以上の大雨の降る日が増えている。

 もともと水の少ない場所ではこんなことが起きる。地表の温度が上がることによって、土に含まれている水分が蒸発しやすくなるため、さらに乾燥がすすみ、水不足や干ばつが起こりやすくなる。

『水がなくなる日』(橋本淳司/産業編集センター)より
『水がなくなる日』(橋本淳司/産業編集センター)より

 「激」のなかの「白」は「しゃれこうべ」を表していると前述した。水の動きを激しくした現代の「しゃれこうべ」は何だったのか。

 それは人間の生産活動だろう。経済成長を最優先する思考によって排出された温暖化ガスが水循環を早めた。

 激しくなった水循環を健全なものにするには、生産活動のあり方を考え直す必要がある。いうまでもなく地球は有限である。有限の地球から無限に水や資源やエネルギーを取り出し、無限に汚水や温暖化ガスや廃棄物を戻し続けることはできない。現在、人間の生産活動は地球1個分をはるかに超え、まもなく地球2個分になろうとしている。

 地球環境は激変し、人間の営みは終わりを告げるだろう。この辺りで、地球への負荷を減らす社会、経済成長を目指さない社会づくりを考えなくてはならない。経済活動は行いながらも、その規模は拡大していかない経済が必要だ。

<このニュースを動画で解説しています>

都市の中で雨水を活用する

 水資源の枯渇や豪雨災害への対策という点で、雨水活用はすぐれた手段だ。

 雨はけっして汚れた水ではない。降り始めこそ、大気中の粉塵などといっしょに降下するので汚れているが、降り出してから30分以上たった雨の水質はむしろ蒸留水に近い。

 上下水道インフラの未整備な国では、雨水は命綱で、飲用水や生活用水を雨水だけに頼る国も多い。たとえば、オーストラリア・クイーンズランド州では、住宅地に雨水をためる貯留タンクを設置し、ろ過したのちに飲用水として供給している。

 雨水活用先進国のドイツでは、雨水を集め・ため・活用するという一連の流れが「しくみ」として構築されている。都市の再開発が行われる際には、雨水活用施設が導入される。ビルの屋根や路面から雨水を集めて地下の貯留槽に送り、トイレで活用する。あるいは屋上に降った雨水をトイレの流し水に使い、さらにはビオトープなどに流す。

 仮に東京都内の住宅でタンクに雨水をためれば、無数のミニダムを都市におくことができる。

 すべての戸建て住宅が屋根に降った雨をためたとすると、1億3000万トンの水が確保でき、これは利根川水系の八木沢ダムが東京都に供給している水量を上回る。

 個人宅や街角での小規模貯留ではなく、公共施設の地下などに、大規模の雨水タンクを設置できるとさらによい。

 東京スカイツリーには、2600立方メートルと日本最大級の雨水貯留槽が設置され、トイレの流し水や屋上緑化への散水に活用されている。災害時には非常用の水源としての役割を果たす。

 雨水を資源化する地下貯留タンクも開発されている。ショッピングセンターの駐車場スペースに雨水貯留槽が地下埋設されたケースもある。そのほか学校や保育園等のグラウンドの下、公園の地下、ショッピングセンターの駐車場の下、マンションや一般家庭の庭・駐車場の下等に設置されている。

地下に埋設された雨水貯留タンク(著者撮影)
地下に埋設された雨水貯留タンク(著者撮影)

 環境破壊が進み、化石燃料使用による地球温暖化が進み、洪水・干ばつ・海面上昇などが地球規模で起きている。

 この悪循環を脱し、再度スムーズな自然の物質循環を取り戻そうとする取り組みが進められている。代表的なものは、太陽光・風力・地熱など自然エネルギ-活用だが、雨水活用もその1つとなる。

 なぜなら、きれいな水が、エネルギーをかけずに手に入る。

 「雨水の日」は、1994年のこの日に、墨田区で市民主体による世界初の雨水利用国際会議が開かれたことに因んでつくられた。その事務局長をつとめた村瀬誠氏はこう語った。「雨は流せば洪水、貯めれば資源」。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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