水道法改正 コンセッションではない生き残り策

小規模分散型の浄水施設/著者撮影

コンセッションでは水道事業は救えない

 改正水道法案が、12月6日午後の衆院本会議で、与党などの賛成多数により可決、成立した。

 この法案で水道事業に「コンセッション方式」を採用することが可能になった。

 コンセッションとは、空港、道路、上下水道などの公共インフラについて、所有権を国や地方自治体などの公共団体が保有したまま、事業・運営・開発などの運営権を一定期間、民間へ「売却」すること。

 政府は「民営化ではない」と強調するが、世界的にコンセッション方式はPFIを活用した民営化の一形態と考えられている。今国会でも再公営化されたケースについて議論があったが、海外の水道事業においては、再公営化される前はコンセッション方式だったケースが多い。

 だが、そもそもコンセッション方式の導入は公共事業の民間開放、経済成長が目的。国会で議論されていたような困窮する水道事業を救う手法ではない。竹中平蔵・東洋大学教授は、「水道事業のコンセッションを実現できれば、企業の成長戦略と資産市場の活性化の双方に大きく貢献する」と発言してきたとおりだ。

 実施には契約やモニタリングに費用がかかるため、導入は給水人口の多い自治体に限られる。そうしたところは経営的にも安定しているのが実情だ。逆に小さな赤字事業体がコンセッションに手を挙げたとしても、利益を上げるのは難しいと判断され、企業はのってこないだろう。

人口減少社会に合った水道をつくる

 水道はコストを給水人口で按分するのが基本的な考えだ。老朽化施設の更新と人口減が重なれば、公営だろうと、民営だろうと水道料金は必ず上がる。この事実を市民と共有したうえで、事業を継続させるため何が必要か、自治体は議論を進めていく必要がある。

 2017年末、土木学会は「2040年までに水道事業を営む団体の91%に当たる1180団体が料金値上げを迫られる。小規模自治体では料金が2倍以上に引き上げられるところもある」と発表した。

 給水人口は都市部に集中している。人口30万人以上の都市の給水人口が日本全体の5割以上を占める。一方でその面積はわずか十数パーセントに過ぎない。給水面積の8割以上は人口が少なく持続が難しい。だから「値上げが必要だ」と叫ばれる。そのとおりなのだが、値上げ前にやるべきことがある。

 さまざまな水道料金値上げの試算は「現状の施設(ダム、浄水場、水道管路など)を維持したら」という仮定の元に行われている。水道事業は人口増加の時期に「拡張」を繰り返してきた。いまだ人口減少にきちんと向き合えていない。このまま施設を更新したら、人口減少と相まって、水道料金は上がり続けることになる。

 たとえば、長崎県が計画する石木ダム。たしかに佐世保市は長年水不足に苦しんできたが、近年は人口減や節水家電の普及によって水需要は減っている。今後ますますの人口減が予測されるが、市の水需要の予測値はなぜか右肩上がり。業務営業用水と工場用水は「微増」、生活用水は「横ばい」で全体では「V字回復」としている。その一方で、同市には1日約1万トンの無効水量(主に漏水)がある。

 こうした例を見るまでもなく、いま必要なのは水源から蛇口までの見直しだ。同じ流域に所属する自治体がある程度連携しながらダウンサイジングを行うことだ。

 岩手中部水道企業団は旧企業団、北上市、花巻市、紫波町の4つの水道事業を統合し、2014年4月に事業を開始した。統合前に設備の老朽化と将来の更新費用を調査すると、料金収入は激減し、更新投資は大量に発生するとわかった。施設を維持したら事業費を数倍にしなければならず、料金値上げにつながる。統合から3年、34の水道施設のうち、稼働率が低い施設や、水質のよくない水源などを廃止し、21施設までに減らした。これによって数十億円単位の将来投資が削減できた。

エネルギーの視点から見直す

 現在の上下水道システムには、多くのエネルギーが使用されている。水源からポンプで取水し浄水場まで導水する、浄水場で浄水処理する、ポンプで各家庭まで送水・配水する過程で使われる電力は、年間約80億キロワット時。固定的にかかる電力量を節減できれば、水道経営は効率化できる。

 エネルギーの視点から水道事業を見直すと、

1)「低・遠」から「高・近」へのシフト

2)「水道」から「水点」へのシフト

3)「水道施設」を「発電施設」へ

の3つがある。

1)「低・遠」から「高・近」へのシフト

 低い場所にある水源から取水して、高いところにある浄水場まで導水したり、遠くのダムから導水したりと「低・遠」の水源を利用するのではなく、伏流水やコミュニティー内の地下水(井戸水)など「高・近」の水源に注目し、高低差を活かして水を運べば導水や送水にかかっていた電力は減らせる。

2)「水道」から「水点」へのシフト

 大きな施設で浄水処理し、そこから水を道を通して運ぶのが「水道」だとすれば、給水ポイントを小規模分散化して、「水の道」を極力短くして「水点」をつくることにより、浄水やポンプ導水にかかるエネルギーを減らすことができる。

 地下水も利用のルールを決めて、持続可能な使い方をすれば、有効な「水点」になるし、雨水を活用した施設も「水点」といえる。将来的には生活用水確保と排水処理能力を備えた住宅もできるだろう。

 前述の岩手中部水道企業団では当初、「小規模施設は原則廃止。基幹浄水施設や送水幹線を整備し、施設の統廃合を行うこと」が基本路線だったが、小規模でも効率よい施設は存続させることになった。

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 現在、小又地区で「上向流式粗ろ過」と「緩速ろ過」を組み合わせた小型施設の実証実験がはじまっている。

「緩速ろ過」とは、ろ過層の表面に棲む目に見えない生物群集の働きで浄水する方法。薬の力は使わず、土壌が水をきれいにする自然界のしくみをコンパクトに再現したものだ。さらに「粗ろ過」と組み合わせることで、濁った水にも対応できる。

 岩手中部水道事業団で、緩速ろ過の検討をはじめた理由は、

・施設の長寿命化が図れ、生涯コストが安価

・粗ろ過と組み合わせることで緩速ろ過が苦手とする濁度上昇に対応可能

・維持管理が容易なため、地域住民自ら水道を管理することが可能

 などとされている。この設備は、コンクリート層と砂利があればよく、地元の業者が施工できる。メンテナンスも安価で簡単に行え、月1回のバルブを開閉すれば自然圧で濁質が取れる。今後、沢筋にのびる集落、中山間地域などに適用できるだろう。

3)「水道施設」を「発電施設」へ

 前の2つはエネルギー削減のアイデアだが、3つ目はエネルギーを生み出すアイデアだ。

 2015年に再公営化したニース都市圏には比較的高い標高の村々が点在し、地理的には約80パーセントが山間地域だ。ニース都市圏は山間地域へのサービスをいかに提供するかという悩みを抱えていた。山間部では漏水率も問題で、場所によっては水道管が100年を越えていた。この費用を生み出すことが問題だったが、取水施設や浄水場に小水力発電を導入し、これを都市圏に売電することでその費用をまかなうことにした。こうした考え方は日本でも応用できる。

 1989年、電話の実験を成功させたグラハム・ベルが日本の帝国ホテルで講演をし、「日本を訪れて気がついたのは、川が多く、水資源に恵まれているということだ。この豊富な水資源を利用して、電気をエネルギー源とした経済発展が可能だろう。電気で自動車を動かす、蒸気機関を電気で置き換え、生産活動を電気で行うことも可能かもしれない。日本は恵まれた環境を利用して、将来さらに大きな成長を遂げる可能性がある」といっている。

 日本は雨の多いアジア・モンスーン帯に位置し、その日本列島には雨を集める装置の脊梁山脈で覆われている。ベルは、この日本列島の気象と地形を見て、水力エネルギーの宝庫であることを見抜いた。山間にある簡易浄水場は水道行政からはお荷物のように見られているが、小水力発電の拠点として活用することができる。

緩速ろ過方式を見直す

 緩速ろ過方式について、水道業務に携わっている職員は「昔の技術」で片付けているかもしれない。だから広域化で浄水場を潰す場合には、まっさきに緩速ろ過方式の浄水場が候補に上がる。

 しかし、緩速ろ過を見直すことで、水道事業のコストダウンを図ることができる。盛岡市では施設更新に際し、緩速ろ過、急速ろ過、膜ろ過のコストをイニシャル、ランニングコストの両面から試算した。

 その結果、盛岡市の地域環境特性を考えると緩速ろ過が最もコストが抑えられるとわかった。緩速ろ過のコストの大部分は、ろ過池の建設やろ過砂利など初期投資。ろ過池には一定の面積が必要だが、盛岡市の浄水施設は市街地にはなく、山あいの土地を比較的安価に取得できる。

 またイニシャルコストはかかっても耐用年数が長いので割安になる。同市の米内浄水場(1934年創設)は80年を超えてなお現役で稼働している。急速ろ過の場合、30年程度で機械設備の更新が必要になるので単純に初期投資だけで比較してはいけない。ランニングコストについては、電気代、薬剤代の節減が可能。電気代はわずかで、水をきれいにするための薬品は不要。

 また、緩速ろ過はろ過池の砂のかき取りのための人件費が高いとされる。かつては盛岡市でも人夫さんが毎月、手作業でろ過池のかき取りを行っており、毎月人件費がかかっていた。しかし、3年前、かき取りをする機械を購入し効率化を図り、人手を減らした。かき取りは毎月行う必要はない。原水の質にもよるが、盛岡市では最長4か月程度はかき取りしなくても正常にろ過できている。

 さまざまな要素を100年スパンで比較した場合、緩速ろ過は急速ろ過の2分の1にコストが抑えられるとわかった。

流域の水循環という視点で見直す

 気候変動の時代にあっては、水道事業の枠を広げる必要もある。林業、農業セクターとの連携も必要だろう。

 現在、水源地は荒廃している。山が荒廃すれば降水時の水道水の元になる原水の濁度上昇の程度も頻度も上がる。放置された人工林は、真っ暗で地面にはほとんど草が生えていない。保水力は低下し、洪水にもつながる。森林環境税などを使って、水源林を水道事業者が主体的に管理していくことは大切で、長期スパンで見ると、水質の安定化や治水能力の向上につながるし、温暖化ガスの排出権取引に活用できる可能性もある。

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 米国の自治体は、水循環の視点から地域の水を包括的に管理する「ワン・ウォーター」という概念を採用しはじめた。具体的には、上下水道の統合、農業での地下水利用や肥料流出の削減、最新技術の導入による下水発電や栄養素回収、湿地を活用した水質浄化や洪水緩和などを行っている。

人材育成こそ持続の要

 こうしたさまざまな施策を検討するには人材育成が何より大切だ。水の生産(取水、水源保全、運搬導水、浄化)、供給(メンテナンス、揚水、貯留、流量制御)、管理(水質管理、計量、課金、顧客サービス)などの分野に専門技術をもつ必要がある。それには研究費用も必要であり、新しい水政策のための研究費用として国が捻出すべきである。

 事業の広域化とともに施設を統合し、IOTやAIなどを活用して効率を上げていく。逆に、数軒しか家がないような集落では独立型の「水点」を考えるなど、地域に環境に合った様々な対策を講じていかなければ水道事業は継続できない。

 さらには多発する豪雨災害、気候変動対策など、水道の枠を超えて総合的に水行政を担う人材も必要だ。

 コンセッションで民間企業に任せきりにしていては人材は育たない。どんなに財政難といっても、水行政に携わる人材を育成するくらいの金はある。地域の水を地域に責任をもって届けるにはどうすればいいかのビジョンを持つべきだ。