福井ネクサスエレファンツから巣立った選手たち―宮下裕悟、濱田祐太、筒井翔也のトライアウト
■各地のトライアウトへ
今季、活動を始めたばかりの福井ネクサスエレファンツ(日本海オセアンリーグ)が10月31日、活動中止を発表した。つまり球団が消滅したのだ。
すでに任意引退した選手や自ら退団を決めていた選手もいるが、来季も福井でプレーするつもりだった選手もいる。選手たちの進路が気がかりだ。
そんな中、他リーグのトライアウトを受けている選手もいる。宮下裕悟選手、濱田祐太選手、筒井翔也選手の3人は、11月12日に行われたルートインBCリーグの関西会場に臨んだ。
一次テストの50m走、60m送球、二次テストの守備とフリーバッティングをクリアし、3選手とも最終テストであるシート打撃まで進んだ。終始生き生きとした表情で溌溂と動いていた3選手は、それぞれ手応えもあった様子だ。
今年、チームメイトだった濱将乃介選手が、先のNPBドラフト会議で中日ドラゴンズから5位指名を受けた。喜ぶと同時にやはり悔しい思いがある。次こそは自分が…と意気込んでもいる。
だからこそ、そのチャンスを掴むためにも早くどこかのチームに入りたい。必死な思いでの挑戦だ。
そんな3選手に、トライアウト後に話を聞いた。
■宮下裕悟(みやした ゆうご)
この日を迎えるにあたって、「自分的に準備はしっかりして臨んだトライアウトだった」と言い、「できることはやれた」と振り返る。
シーズンが終わり、アルバイトをする毎日だ。そのアルバイトの合間を縫って、使える時間はすべて練習に費やしてきた。かなりタイトな状態だという。
アルバイトは、かつての所属球団のスポンサーだった会社でガスの配送をしている。福井ではまだまだプロパンガスの家が多く、「プロパンを付け替えたりということを、ほぼ毎日やらせてもらっている」と精を出す。
練習は他の2人とともに公園の敷地内や有料の屋内練習場を借りて、ノックやバッティングなどを行う。屋内練習場は硬式のボールが使え、なおかつ安価であるから助かっているそうだ。
キャッチャーとして、トライアウトではピッチャーにしきりに声をかけ、盛り立てていたのが印象的だった。
「やっぱトライアウトなんで、全員が初めて組むピッチャー。とにかくピッチャーに力を発揮してもらえるように、僕も最大限できることをやろうと思った。それがそういう感じの結果になったのかなと思う」。
自身も受験者の立場でありながらピッチャーを乗せるあたりは、やはりキャッチャーの気質だ。
しかし、自身のデキについては満足はできなかったようだ。「いいところを出そうという気持ちが強くなりすぎて、そこでちょっと力みが…。自分の思ったようにはならなかったのが何球かあった」と悔しそうだ。
昨年もこのBCリーグのトライアウトを受けており、60m送球やシートノックでの送球が、ほぼ全球、自分の思いどおりのボールが投げられたから、どうしてもそれと比較してしまうようだ。
実は宮下選手、今季限りでユニフォームを脱ぐと決めていた。ところが一転、心変わりした。
「もともとは今シーズンで引退しようと思っていた中で、8月22日の試合で右手の有鈎骨を骨折してしまった。手術して治りもよくて、1ヶ月で復帰できるって最終戦に照準を合わせてたけど、最終戦に全力でできるほどには治らなくて…。結局、試合には出られなくて、『これで野球が終わってしまう』って考えたときに、最終戦が終わってからすごく悔しさが出てきて、『これで終われんな』と思った。なので来年はもう絶対に1年間、全力でフルでやりきりたいっていう思いがあるので、今はそれが活力になっている」。
来年はNPBを目指して完全燃焼をする。今季以上の決意をもって臨むつもりだ。
■濱田祐太(はまだ ゆうた)
濱田選手は、すでに他リーグや他球団のトライアウトをいくつか受けているという。「だから、いつもどおり楽しくできたかなという感じで」とリラックスしているのがうかがえた。
「僕の自己PRは守備と走塁。それを一番重点的においてやっていたんで、そこはアピールできたのかなと思う」と満足げでもある。
「一番の目標はNPB入り」と掲げ、「そのためにまずはチームに入りたい。個人のスキルアップをしていれば、自ずとどこかのチームが見てくれると思って、毎日練習してきた」と語る。
その練習内容にも変化があった。これまではバッティング練習や守備練習に重点を置いていたのを、「足」に特化しようと考えた。「足が一番必要だなと思ったんで、福井県営球場の隣の陸上トラックで練習してきた。ハードルを借りて、走り方を意識して」と明かす。
「YouTubeの『走りの先生』とか、トレーナーのインスタで走りを速くするためのトレーニングメニューとか、自分なりにいいかなっていうのを見つけて、それを組み合わせてやった」。
その成果か、トライアウトでは「アピールはできたのかなという感じ」と、思うように動けたようだ。
今後も足にはこだわっていきたいという。「足が速い選手はいっぱいいるけど、その中でも足でお金が稼げるように。足と守備で代走だったり守備固めだったり、そういう選手でも全然いいんで、そっちを見て評価してもらえればいいかなと思っている。これからも自分なりに研究してやっていく」と、足をウリにしていく覚悟だ。
■筒井翔也(つつい しょうや)
筒井選手も「自分が持っているすべてはアピールできたかなと思う」と笑顔を見せた。ほかの2人と同じくアルバイトをしながら、練習に汗を流してきた。イベントの設営などのアルバイトは力仕事で、「めっちゃ大変なんです」と話す。
トライアウトに向けて、リーグのサイトを開いてテストの内容をチェックし、まずは一次の50m走と60m送球の記録を少しでも上げるよう、工夫して練習したという。
「たとえば、どうやったらスタートが速くなるとか、50m走の中でタイムが速くなる方法を調べたり、60mを強く低いボールを投げられるようにと、キャッチボールの中で意識して投げるようにした」。
バッティングに関しては「ちょっと力んじゃったけど、シートバッティングの1、2打席目は内容もよかった。ちゃんとボールも見極められていたんで。うん、よかったかなと思う」と、うなずく。
今季は福井のGM兼会長だった西村徳文氏に打撃を教わった。
「西村さんには『打ちたい、打ちたい』という気持ちが強すぎて、どんどん左肩が開いていくということを言われた。それで教わったのは、とにかく左肩を開かず、自分の懐にボールを持ってきて引きつけて打て、と。めっちゃ難しかったけど、それができるようになってきたら、打球の質が全然違うようになった」。
西村氏の教えはテキメンで、試合でも結果を残せるようになった。「今日打てたのも、そのおかげ」と感謝している。
今後については「どこのチームに行っても、もうほんとに一生懸命に野球をやるだけ」と表情を引き締めたあと、同い年の濱選手の話を自ら始めた。
「身近で同じチームメイトだった濱が中日に決まってよかったと思う。やっぱ濱は野球に対して、めっちゃストイックだった。そこは絶対に真似しないといけないと思う。本当にいいところをたくさん持っている選手なので、シーズン中からどうやって吸収しようかと思っていた。そういうのを見られた1年だったので、来年は自分のモノにして活躍できるように頑張りたい」。
濱選手に“追いつけ、追い越せの精神”でNPBを目指していく。
3選手とも一日も早くチームが決まり、精一杯野球に打ち込めるよう願う。
(撮影はすべて筆者)
【宮下 裕悟(みやした ゆうご)】
1998年8月6日生/長野県
右投左打/181cm・81kg
飯田風越高校―杏林大学―エスプライド―福井ワイルドラプターズ(BCL)
【濱田 祐太(はまだ ゆうた)】
1998年7月29日生/埼玉県
右投右打/175cm・80kg
狭山ヶ丘高校―武蔵大学―横浜金港クラブ
【筒井 翔也(つつい しょうや)】
2000年4月28日生/福岡県
右投右打/183cm・83kg
純真高校―福岡オーシャンズ9―福井ミラクルエレファンツ―福井ワイルドラプターズ(BCL)