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なぜいま? ビートルズ vs ローリング・ストーンズ、最強バンドの頂上対決が54年ぶりに再燃中!?

左から、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、それぞれの新作。筆者私物を撮影

ロック界、永遠の難問が再浮上?

ザ・ビートルズザ・ローリング・ストーンズどっちが「上」か?――60年代の前半からこっち、ロック音楽をほんのすこしでもかじった人ならば、決して避けて通るわけにはいかないこの難問が、いままた世間の耳目を集めている。いや本当だ。2023年の暮れにもなって! 

たとえば音楽メディアの〈ブルックリン・ヴィーガン〉『ビートルズ vs ストーンズ(2023エディション)』として、早くも11月2日付で両者の現状の比較をおこなっている。老舗の〈ローリング・ストーン〉は、もっと正面からイジリに入った。ポッドキャスト「ローリング・ストーン・ミュージック・ナウ」にて『ビートルズの新作、ストーンズの新作――ちょっと待った、今年って何年?』と題したエピソードを11月13日に公開している。

ちなみに現時点のポール・マッカートニー(81歳)は『ゴット・バック(Got Back)』と題した大規模コンサート・ツアーを2022年4月28日米ワシントン州はスポケーンからスタート、途中1年3ヶ月の休止期間を経て、23年のこの秋、10月18日のオーストラリアから再開、メキシコ、ブラジルを年内いっぱいで駆け抜ける予定だ。もちろん、いまの彼の背を盛大に押しているのは、後述する「ビートルズのレガシー」最新版のド目立ちっぷりであることは、言うまでもない。

一方のストーンズ(平均年齢78歳)は、来年4月から始まる北米スタジアム・ツアーのチケットを12月1日に発売した。このツアーはヨーロッパへと継続されていくことを当前視されているし、もしかしたら、ひさしぶりの来日公演だってあるかもしれない……と、つまりはこの両陣営(?)のバトルがコンサート・ツアーをともなって世界規模へと拡大しつつある、というのが今日の情勢なのだ。だからこれは〈ローリング・ストーン〉じゃなくとも、驚かざるを得ない。「いったい現在って、西暦何年なのよ?」と――そんな椿事の概要について、レポートしてみたい。

幾度目かの「名勝負数え歌」

そもそも今回は、ストーンズ側が「先攻」だった。去る10月20日に彼らがリリースした新作アルバム『ハックニー・ダイアモンズ』は、大絶賛の声とともに世に受け入れられて、全英アルバム・チャートの1位を獲得した。ストーンズにとっては「50年ぶり」の傑作という評まであった。そこらへんの経緯はこちらの記事で詳しく書いたので、ぜひご参照いただきたい。

しかし話は、それだけで終わらなかった。なんと『ハックニー・ダイアモンズ』発表から数えて13日後の11月2日、ビートルズ側が動きを見せる。しかも「超特大」のそれは「ビートルズ、最後の新曲」との謳い文句で発表されたナンバー「ナウ・アンド・ゼン」だった。そして当然のごとく全英シングル・チャートの1位を――54年ぶりに――奪取してしまう。全米ではビルボードのHOT100にて7位にランクイン。全英全米ともに、彼らが保持していた各種の記録をいくつも塗り替える、まさに快挙だった。

加えて、チャート・アクションで面白かったのがビルボード「アダルト・オルタナティヴ・エアプレイ・チャート」での、両者の成績だった。11月18日付の同チャートでは、ビートルズの「ナウ・アンド・ゼン」が初登場9位。そしてストーンズの『ハックニー・ダイアモンズ』からのシングル曲「アングリー」が9週目にして最高位の6位にランク――ということで、両者がビルボードのチャートで同時にトップ10入りしてしまったのだが、この状態は、なんと64年以来の出来事なのだという! 同年12月12日付のHOT100チャートにて、ビートルズの「アイ・フィール・ファイン」が5位に、ストーンズの「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」が6位に入っていた。また同じ週、アルバム・チャートであるビルボード200のほうでは、ストーンズの『12x5』が3位、ビートルズの『サムシング・ニュー』が10位にランクインしていた。

ビートルズの大攻勢、「普通にやっただけで」すでに横綱相撲

ビートルズの攻勢はさらに続いて、日本では「赤盤」「青盤」の名で親しまれているベスト・アルバム2種、『ザ・ビートルズ1962年~1966年』(赤盤)『ザ・ビートルズ1967年~1970年』(青盤)の両者2023年エディションが、11月10日に発売された。「ナウ・アンド・ゼン」で駆使された、映画監督ピーター・ジャクソン謹製のAIシステムを使用した「デミックス」技術がここでも起用されているところがミソだ。

「デミックス」とは、端的に言うと「ひとかたまりになった」音のなかから、たとえばジョン・レノンの「声のみ」を分離する行為を指す。ドラムやベース、リズム・ギターなどが渾然一体となっている音塊から「それぞれのパートの音のみを」掘り出してくることも、できる。そして「抜き出された」音を、ごく普通のレコーディング・トラックとしてミックスダウンに使用できるようになる。

たとえば、故人のレノンの声を「発掘してきて」、故人であるジョージ・ハリスンのギターと合わせた上で、現在のポール・マッカートニーとリンゴ・スターが「新たにプレイした」トラックとミックスしてみる――なんてことが技術的に可能になり、そこで生まれた成果が「ナウ・アンド・ゼン」であって……と、こんなものを聴かされて「感動するな」と言うほうが無理。誰の涙腺だって決壊するだろう!――という仕上がりの「ビートルズの4人が『時空を超えて』同時に演奏する新曲」と相成ったわけだ。

さらにこの「デミックス」技術は、ビートルズの過去音源に対しても縦横に発揮されて、新たに「分離された」トラックを、ジョージ・マーティンの息子であるジャイルズ・マーティンとエンジニアのサム・オケルがリミックスした楽曲の数々が、2023年版の『赤盤』『青盤』に多数収録されている。こちらも「騒ぐな」というほうが無理な相談で、絶賛やら「いいや、やはりモノこそが至上なのだ!」とのマニアの見解など、まさにファンのあいだに喧々轟々の嵐を巻き起こした。

そしてなによりも、こうした「新技術」があったならば、とにかく試してみるのが「ビートルズ流」であることを、リスナーはみんなよく知っていた。60年代中盤以降の彼らが、すでにそうであったように。だから一連のこれらは、ひとつの巨大な「祭り」を形成していった。

といったわけで、ここのところ毎年のようにジャイルズ・マーティンによってリミックスされたアルバムのリイシューなどを続けているビートルズであり、とくに昨年は『リボルバー』のスペシャル・エディションですでに「デミックス」技が駆使されたのちの新ステレオ・ミックスがリスナーに衝撃を与えていた……のだが、さすがに今回は、桁が違った。赤盤青盤を舞台に「ビートルズの全歴史」を、最新技術によって蘇生させるという試みだったのだから! まるで「60年当時の4人に取り囲まれるようにして」生々しい演奏を体験してみることが可能な新ミックスも多数だったのだから!

明智光秀「三日天下」みたいになった(?)ストーンズ、負けじと企画連打の11月

こんな嬉しい大暴風雨が全世界の音楽ファンに打ち付けるなかで「ワリを食らった」のがローリング・ストーンズ陣営であったことは、想像に難くない。つまりストーンズ側からすると、まるで日本の戦国時代における明智光秀の「三日天下」の故事みたいな……。

とはいえストーンズ側が「ここで失速していい」わけはない。なにしろ、北米ツアーのチケットの発表(12月1日)まで、盛り上げ続けなければならない任務があったからだ。ここのところとくに、マーケティング的に「狙いすました」プランが目立つストーンズ。だから当然今回も、とくに11月いっぱい、話題性のある企画を連打していった。以下時系列順に列記してみよう。

(1)78年発表のナンバー「ビースト・オブ・バーデン」(アルバム『サム・ガールズ』に収録)の新規制作リリック・ヴィデオを公開(11月11日)

(2)オリジナルのラム酒ブランド『クロスファイア・ハリケーン』(代表曲のひとつ「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」の歌詞の一部から名付けられた)の製作を発表(11月15日)

発売元のウェブサイトより
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(3)『ハックニー・ダイアモンズ』収録のナンバー「メス・イット・アップ」のディスコ・ミックス(パープル・ディスコ・マシーン・リミックス)を公開(11月16日)

(4)ライヴ・アルバム『スティル・ライフ』(82年)へと結実した、『タトゥー・ユー』のツアー時(81年)のメンバーの姿を形取ったフィギュア調スタチュー製作を発表(11月17日)

発売元のウェブサイトより
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(5)「ドント・ストップ」の新規製作リリック・ヴィデオ公開(11月24日)

(6)(満を持して)ポール・マッカートニー参加の「バイト・マイ・ヘッド・オフ」のリリック・ヴィデオ公開。映像中、もちろんマッカートニーとともに演奏するシーンもあり(11月30日)

(7)『ハックニー・ダイアモンズ』限定2CDライヴ・ヴァージョン発売を告知(発売日は12月15日)。10月にNYの小さなクラブでおこなったサプライズ・ライヴの模様を収録したCDとオリジナル盤のカップリング(11月30日)。

それぞれを寸評すると……まず(3)のダサディスコ具合に、僕は衝撃を受けた。幾度もディスコ・ソングに接近してはいたストーンズだが「ここまでやった」ことは、さすがになかった。さらにこの曲のオリジナル・ヴァージョンは、チャーリー・ワッツが遺したドラム・プレイ音源を生かしたナンバーだったにもかかわらず、このリミックスではばっさりカット! そのかわりに今作アルバムのプロデューサー、アンドリュー・ワット指揮のもと、四つ打ちも軽やかな、まるで70年代末期の12インチみたいな「どディスコ」ドラムへと差し替え。ワットはベースも弾いている――スマホをフィーチャーしたキー・ヴィジュアルの「ダサさ」にも痺れざるをえない(ここらへん全部、誉めています)。この「俗っぽさ」こそが、ストーンズのキモのひとつでもあるのだから。

という俗っぽさ路線から考えると、(2)の「なぜラム酒なのか」問題も、(4)の「なぜ突如、スタチューなのか」問題も解けてくる。「さもありなん」系の、これこそがストーンズ印のマーケティングなのだ。ただし! (4)のスタチューに「なぜか当時メンバーだったはずのビル・ワイマンがおらず」残り4人の人形のみ、という大人の事情感にはしみじみさせられるが……。

しかし、ストーンズの「これ」は、ビートルズにはできない?

そして僕がとくに強調したいのが、(1)の「ビースト・オブ・バーデン」だ。なぜいまこれを「わざわざ」新規リリック・ヴィデオにて発表したのか? 僕はこれを「あからさまな、ビートルズへの『対抗』措置」だと見る。なにしろ、ニュー『赤盤』『青盤』発売日の翌日に「これ」だったのだから。そのココロは――ストーンズ側の「意図」は、きっと以下のようなものだったのではないか、と僕は想像する。

「ビートルズがいくら才能の宝庫だろうが、これは『できない』だろう?」

解説しよう。「ビースト・オブ・バーデン(Beast of Burden)」とは、荷役の動物といったほどの意味だ。ロバや牛、ときには象やラクダみたいな、ご主人様の「重い荷物」を代わりに背負って、黙々と歩き続ける忠実な動物を指す。転じて、曲中では「俺はお前の『荷役の動物』にはならないよ」と歌われる。俺はもうボロボロなんだ、お前と愛し合いたいだけなんだよ。なのに俺は、お前にとって「もの足りない」奴なのかい? もっとハードで、ラフで、リッチじゃないと、満足させられないのかい?……と、古典的なソウル・マナーに沿ってぼやきまくりつつも、結局のところはこってりとした「くどき歌」になっていくのがこのナンバーなのだが、楽曲の基層に(少なくとも主人公側にとっては)「背負いきれないほどの重荷」があるという設定にこそ、妙味がある。まぎれもなくこれは「ブルース」由来のものだからだ。ゆえに庶民的な人生には「つきものの」ありふれた苦味の転写が、痛みの反映が、歌のなかに明確にある。ゆるやかにグルーヴィなナンバーなのに。だから構造的にはシンプルなのに、奥行きはとても深く、長きにわたって聴き手の心のなかで反響し続ける、そんな名曲として愛されている。カヴァーも多い。そしてたしかに「こうした種類の生々しい感情やリアリティに立脚した曲というのは、ビートルズが『やれない』範疇のものだろうなあ」と、僕も思う。

ビートルズとストーンズ、その存在の本質的な「違い」とは?

どれほど「天才」と言っても足りないほどの「天才バンド」こそが、我々の知るビートルズにほかならない。名曲も名演も、あまりにも多すぎる。しかも素朴なラヴソングからサイケデリック・チューン、激しいロックンロールからコミカルなナンバーまで、きわめて「幅広い」傾向の名曲があって、そのどれもが「ビートルズらしい」のだから、ほとんど異常と言うしかない。楽器演奏者やシンガーとしては、この4人以上の腕前のミュージシャンはいくらでもいるだろうが、こと「ユニークさ」という観点で見ると、それぞれが「史上屈指」のキャラクター。そんな4者4様のすさまじき「個性」が、ほかの誰も代わりが効かない形で見事に噛み合った状態こそが「ビートルズの基本形」であって……だから地球上のありとあらゆる人々が、彼らの音楽に恋をした。生涯にわたって、つねにともに歩いていく「親友」となった。まさに音楽の神に愛された、不世出の存在。ロック史上最高のバンドをひとつ選べと言われたならば「ごく普通に考えて」ビートルズしかいないだろう!――というのが、世の常識というものだった。60年代から、長らくずっと。

対して、ストーンズとは「そこに挑んでいく」立場こそが基本形だ。レコード・デビューはビートルズより約8ヶ月遅れ、最初のヒット曲は、レノン&マッカートニーに書いてもらった「アイ・ウォナ・ビー・ユア・マン」。もちろんご存じのとおり自前の名曲は数多いのだが、ビートルズのように「幅広い」わけではない。(ビートルズより活動継続歴がずっと長いせいもあって)失敗曲とみなされるものも、ある程度の数ある。それよりなにより、音楽性の基盤において「ブルースを基本」としている点の強固さが、ビートルズとは全然違う。これがひとつの「足かせ」となっている、と言ってもいい。しかしこの「足かせ」こそが、最大の「ストーンズらしさ」につながってもいる。つまり「一芸」のバンド(というのは言い過ぎなのだが、比喩として)だったとしても、その範囲内でならば「無敵」とでも言おうか。さらにその「無敵」状態における、たとえばステージングが、とにもかくにも「かっこいい!」のだ。もってロックスターのクールネスやら「美の基準」を(おもにビートルズが世を去ったあとの70年代以降に)作り上げてしまった第一人者であるバンドが、ほかならないストーンズだったことは、歴史的事実だ。

ポール・マッカートニーすらムキになる?

ことほど左様に、まさに水と油、太陽と北風、アリとキリギリス(これは違うか)……とにもかくにも「あまりにも違う」両者は、ことあるごとに「どちらが上か」と比較される宿命を背負っていた――わけなのだが、じつはどうも「この比較そのもの」に最もムカついていたのが、ほかならぬポール・マッカートニーだったのでは?というニュースが、すこし前にあった。ご記憶のかたも多いだろう。突如としてマッカートニーが「公然と」ストーンズをけなした事件という、あれだ。

「僕はこれ言うべきじゃないかもしれないんだけど、でも彼ら(ストーンズ)って、たんなるブルース・カヴァー・バンドなんだ。ストーンズって、ある意味そんなもんなんだよね」

「僕らのほうが、彼らよりちょっとばかり広い網を投げてたっていうか」

マッカートニーのこの発言は〈ニューヨーカー〉誌によるインタヴューの席で飛び出して、21年10月18日付で報道された(同種の発言は、この前年にもあった)。このときは映画『ザ・ビートルズ:Get Back』についての取材の席だったから、「映画のせいで」頭のなかが60年代にフラッシュバックしていたのではないか、と僕は読みとって、当時記事のなかに書いた。こんなふうに。

「ならばさしずめ、マッカートニーの本音とはこうだったのではないか。『僕らビートルズは、いつだって最高峰を目指して、だれもできないほどのロック音楽の領域拡張をやってたのに』『なんで、いつもいつも「ストーンズごとき」が、僕らの「ライバル」なんて言われるわけ?』『あいつら「ブルースばっかりやってる」だけじゃないか!』――といったものでは、なかったか」

本当のところは、わからない(余人にわかるわけがない)。しかし、こうした確執がところどころ吹き出すのも「真のライバル」の証拠だと言えよう。だってマッカートニーほどの人物が、ときに「ムキになる」相手なんて……ストーンズ以外に、あるわけがない(ですよね?)。

また逆に、ストーンズ側が今回「ここまで念には念を入れて」企画を連打したのも「相手がビートルズだからな」という意識は、じつはかなり、あったのではないか。初めての「在籍中のメンバー(チャーリー・ワッツ)死去」という苦難を乗り越えて、渾身の新作を完成させた彼らの前に、なんと「最大・最強の敵が立ちはだかる」とは!――これはもう、マンガというかスーパーヒーロー映画というか、あまりにもドラマチックすぎると言うほかない……。

そして話はずっと戻って、(5)の「ドント・ストップ」MVだ。これは2002年リリースのコンピレーション盤『フォーティ・リックス』に収録された、当時の「新録」曲であって、正直「とくに覚えていない」人がいても当然の小品ナンバーだ。だからコンサートのチケット発売直前のタイミングでこの曲を投入する、というのは、まさにタイトルどおりの「(俺らは)ドント・ストップ!」との強い主張なのか。あるいはこれもまた「ビートルズには、できないだろう?」なのか。たしかにまあ「トラッカーがクルマを流しながら聴くときに、フィットしそうな」この曲は、いかなビートルズとて決して得意領域ではなく……「だからやったのか?」といった深読みを、僕はした。

さらに(6)で、満を持して「俺らとマッカートニー」の共演映像、初公開。ダメ押しで「俺ら、ライヴ最強だし!」と(7)の限定盤リリース告知……とまあこんなふうに、長年の観察者である僕も驚くほどに、アルバムからこっち、ストーンズは攻めに攻めていた。

じつは人知れず、昨年から両者のデッドヒートが繰り広げられていた

ビートルズ「ナウ・アンド・ゼン」秘話のひとつとして、じつは22年末のリリースも検討されていたのだが、そこから延びて延びて、結局23年の11月2日になったのだという。その「延び」のひとつの理由が、ストーンズ『ハックニー・ダイアモンズ』と近い発売日にはしたくなかった、という意識がアップル側にはあったらしい。が、ストーンズのほうも(たまたま?)発表予定が延びて、結局は「こうなった」そうなのだが……この過程に、双方の陣営の「読み合い」もしくは「潰し合い」のような観点は、あったのか、なかったのか。

あるいは、マッカートニーが『ハックニー・ダイアモンズ』収録曲の「バイト・マイ・ヘッド・オフ」でベースを弾いたことが、逆に彼の持ち前の「ライバルなんかじゃないんだよ!」魂に火を点けてしまって――ことここに至ってしまった、のかもしれない。

だって当たり前に考えて、双方の「制作期間」は、思いっきり「時期が被っていた」のだから。マッカートニーらが「ナウ・アンド・ゼン」や、ニュー『赤盤』『青盤』を手がけていて、ストーンズが『ハックニー・ダイアモンズ』を手がけていたのが、昨年2022年から今年だった、のだから。まるで60年代の、あの当時のように。両者が「お互いの動向」を横にらみにしながら……。

こうした状況について、前出の〈ブルックリン・ヴィーガン〉のテキストを引用して「まとめ」に代えたい。

「『ナウ・アンド・ゼン』ほどビートルズらしいものはないし、『ハックニー・ダイアモンズ』ほどストーンズらしいものはない」

「だから今回もストーンズ派の人は『ストーンズが上だ』と言うだろうし、ビートルズ派の人は『ビートルズが上だ』と言うだろう。そして本当の勝者とは、これらのバンドがもう一度、おそらくは歴史上最後の、天才の技を発揮するのを目撃することができる、私たち全員なのだ」

ビートルズとストーンズの「再燃した」かもしれない頂点決戦は、来年以降より一層本格化していく可能性すらある。まったくもって、21世紀がこうなるなんて、誰が予想したことか? ひとつ言えるのは「ロックの未来は、意外性に満ちていた」ということだ。それって結構、悪くないのかもしれない。

作家。小説執筆および米英のポップ/ロック音楽に連動する文化やライフスタイルを研究。近著に長篇小説『素浪人刑事 東京のふたつの城』、音楽書『教養としてのパンク・ロック』など。88年、ロック雑誌〈ロッキング・オン〉にてデビュー。93年、インディー・マガジン〈米国音楽〉を創刊。レコード・プロデュース作品も多数。2010年より、ビームスが発行する文芸誌〈インザシティ〉に参加。そのほかの著書に長篇小説『東京フールズゴールド』、『僕と魚のブルーズ 評伝フィッシュマンズ』、教養シリーズ『ロック名盤ベスト100』『名曲ベスト100』、『日本のロック名盤ベスト100』など。

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