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合計特殊出生率全国最下位でも「東京だけが唯一出生数を増やしている」という事実

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

出生減←婚姻減

出生数の減少が止まらない。

…などとよくニュースで報道されるが、止まらないのは何も今に始まったことではない。何度もお伝えしている通り、出生数が少ないのは、「本来1990年代後半あたりに起きるはずだった第三次ベビーブームが来なかった」時点で確定された未来である。

たとえば、1995年に生まれた人は2023年現在28歳である。人口動態調査からもわかる通り、その年齢層は出生のメイン年齢層であるのだが、それが当時ベビーブームどころか、出生数そのものが減少していたわけなので、そもそも文字通りの「産む母数」そのものが減少しているためである。これを私は「少母化」と名付けている。

ただでさえ絶対人口が減っている上に加えて、未婚率も上昇していることはご存じの通りである。今の少子化というのは、①女性の絶対人口の減少②未婚率の上昇(婚姻率の減少)によるものであり、決して夫婦の産む子どもの数が減っているわけではない。

にもかかわらず、政府の少子化対策は子育て支援一辺倒であり、そこが的外れなのである。子育て支援そのものは否定しないが、出生数を増やすにはそれは全く効果はなく、婚姻数そのものを増やさないとどうにもならないことも何度もお伝えしている通りである。

わかりやすく説明すれば、1995年の出生数は118万7064人であった。それに対して人口動態調査2022年(概数)の出生数は77万747人である。実に35%もの減少である。一方、同期間の婚姻数推移は、79万1888組から50万4878組へと36%の減少である。ぴったり婚姻数の減少が出生数の減少と合致していることになる。

最近はこのファクトを以前より多くの人たちが認識していただいていることはよいことだと思うが、もうひとつ勘違いが続いているファクトもある。

東京の出生率が低い=東京では子どもが生まれていないという勘違いである。

東京は合計特殊出生率最下位だが?

確かに、合計特殊出生率で都道府県別に比較すれば東京は最下位(2021年確定報で1.08)である。また、生涯未婚率(50歳時未婚率・不詳補完値)でみても、男女とも東京がダントツの一位である。つまり、東京は未婚率が高く、出生率が低い場所で、「日本の少子化の元凶は東京にあり」と思ってしまう人も多いだろう。

しかし、事実は逆で、全国的に出生数が右肩下がりに激減している日本の中において、唯一90年代と出生数がかわらず減っていないところが東京なのである。

「いやいや、そんなわけがない。合計特殊出生率が最下位なんだから、東京の出生は少ないだろう」と納得しない人が多いと思う。しかし、これは合計特殊出生率の計算方式を知れば納得するだろう。

合計特殊出生率というのは、15-49歳の各才別の出生率の合計値である。が、この計算分母には未婚者も含まれる。よって、未婚率の高いエリアの合計特殊出生率はどうしても計算上低くなるのである。

未婚者の多くを構成するのは15-24歳の若者だが、ご存じの通り、東京は全国から若者の人口移動の多いエリアである。要するに、未婚の若者の人口比率が高い東京は、合計特殊出生率は計算上必ず低くなってしまうものなのである。

東京だけ出生数が増えた

それでも納得しない人のために、実際に1995年から確定報のある2021年までの出生数の推移を、東京と東京を除く全国合計とで比較してみよう。1995年を100とした指数で表している。

ご覧の通り、東京は1995年対比で100を下回ったのは2005年と2021年の2回のみで、そのほかはすべて1995年を上回っている。特に、2006年から2015年にかけて出生数は右肩あがりで、2015年には1995年対比17%増である。下がったとはいえ、2021年も1995年対比1%の減にとどまっている。

一方、東京を除いた全国合計は、2001年以降下がり基調で、2021年は1995年対比34%もの減少である。

全国の出生数を押し下げているのはまさに東京以外の地方であり、唯一30年近く出生数をキープしている東京が日本の出生数を支えていると言ってもいい。

東京の婚姻率は全国一位

この東京の出生数の維持を実現させているのは、全国と比較した場合の婚姻数の多さである。こちらも1995年を100とした推移でみれば、東京がこの27年間のほぼ大部分を1995年対比で上回っている。たった2回しか上回っていない東京以外の全国と比較すればその差は歴然である。

ちなみに、案外知られていないことですが、東京の人口千対当たりの婚姻率は2000年以降ずっと全国一位なのである。

東京だけが他のエリアより婚姻と出生が多い要因はふたつある。

ひとつは前述した通り、若者の人口集中であり、もうひとつは経済環境の豊かさである。

20-30代未婚男性の平均年収を比較すれば、東京圏はそれ以外と比べて約100万円ほど年収が高い。平均400万円だとしてもこの100万円の差は大きい。東京の年収が高いのは、東京に給料の高い大企業が集中しているからでもある。

そもそも若者がなぜ東京に集中するかといえば、賃金も含めて魅力的な働き場を求めてのことであり、そういう意味では若者の人口移動の原因も東京の経済環境によるものだいえる。

もちろん、東京は地方と比べて家賃は高いが、意外にそのほかの支出に関しては地方とそれほど変わらない。むしろ今のガソリン代高騰の折、クルマが必需品の地方より、何事も公共交通機関で済ませられる東京の方が交通費は安かったりもする。

提供:イメージマート

貧しいと結婚できない時代

しかし、これは「東京が凄い」というよりも、東京以外の日本全体の地盤沈下が深刻であると見た方がいいだろう。

若者の結婚と出産は経済環境によるところが大きい。「貧乏なればこそ結婚して合理的に生活すべきだ」などという高齢者の時代とは違うのである。

また「結婚できないことを金のせいにするな」というマッチョ発言もたびたび耳にするが、百歩譲って「金があっても結婚できない人」は確かにいるだろう。しかし、「日々生活するのに精一杯の金しかないのなら、結婚どころか恋愛すらしようという意欲がわかない」ことも事実である。

提供:イメージマート

結婚も出産もお金がなければできない時代となっているのだ。

しかも、その東京の中ですら、裕福な層だけが結婚と出産ができていて、かつてそれらを支えていた中間層がことごとく結婚も出産もできない状況に追い込まれていることも事実である。

東京中央区の出生率トップ「結婚も出産も豊かな貴族夫婦だけが享受できる特権的行為」となったのか?

長くなったので、以下続きは次回とするが、ここ5年間に劇的に「結婚・出産ができる者とできない者との格差」が明確になっている。「結婚も出産も贅沢な消費」と化しているのである。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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