Yahoo!ニュース

コロナ禍において、唯一「お酒の消費」が激増した中年一人暮らし独身女性の謎

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

壊滅的な外飲み産業

コロナ禍の3年間において、居酒屋など飲食系外食産業は深刻なダメージを受けた。日本フードサービス協会の統計によれば、2023年の3月時点でも、ファストフードやファミリーレストランはコロナ前の2019年水準まで売上が回復しているのに対し、居酒屋はいまだ6割までしか復活できていない

外食産業を影で支えていたのは、「ソロ飯」機会の多い独身者であることは、以前にも書いたが(参照→「孤独のグルメ」が支えてきた外食産業の「一人ずつだけれど大きなチカラ」)、コロナ禍においては、独身者が外食や外飲みをしたくても、時短などで利用できなくなってしまったことが大きいだろう。

さて、そうした社会環境により、居酒屋の売上が減ったということは、当然消費者である我々の「お酒」に対する消費金額も変化しているはずである。間違いなく「外食全般」の消費支出は激減している。では、「お酒」全体に関する消費支出はどれくらい変化しただろうか。

外飲みが減った分家飲みは増えた?

「お酒」に関する消費としては、外飲み家飲みがある。

家計調査において、前者は外食費に含まれるが、後者は食費の中の酒類消費に該当する。外飲み機会が減っても、その分家飲みでお酒自体は消費しているのだろうか?

結論からいえば、二人以上の世帯(勤労者)でいえば、コロナ前の2019年と2022年とで酒関連消費支出(外飲みと家飲み用酒類購入費の合算)を比較すると、10%減であり、家飲み消費支出はわずかに増えたが、外飲み消費支出を埋めるほどのものではなかった。

それは、単身世帯でも同様で、特に男性に関しては、コロナがある以前から全体的にお酒関連の消費支出は減少しており、特に34歳以下の若い単身者に関しては男女とも2019年対比で6割減にもなっている。若者については特に外飲みの減少が大きい。飲み会減少の影響だろう。

全体的に、この3年間、お酒の消費は停滞していたわけだが、唯一その中でも2019年対比で酒関連消費支出が増えているのが、35-59歳の中年の一人暮らし独身女性である。もちろん、彼女たちとて外飲みは減っているわけだが、それを凌駕する家飲みが増えているのだ。

激増した家飲み消費額

「元々の消費金額が少ないから、比率で比較すれば大きくなっただけじゃないの?」と思いがちだが、酒関連消費の中で、ビール・ウイスキー・ワインの消費支出で比較すると、中年独身女性の一人当たりの2022年の消費金額は、中年独身男性や一家族分の消費金額を上回っている。つまり、2022年店頭でもっとも酒を買っていたのが中年独身女性たちなのだ。しかも、その増加幅が2.5倍以上にもなるのである。

元々、ワインの消費支出はこの中年独身女性群は高かったが、それ以上にビールやウイスキーの消費も増えており、ビールやウイスキーの消費金額が2022年には同中年独身男性を逆転してしまっている。

しかも、この増加は2020年になってすぐに始まったわけではなく、2022年になってから急上昇している。コロナ禍が始まった頃、友人同士での飲み会が減った分、リモート飲み会なるものをする動きがあったが、すぐ廃れた。はっきり言って「つまらない」からである。

コロナ禍となって2年が過ぎた2022年に、急にこの中年の一人暮らし女性たちの家飲みが増えた背景はなんなのだろう。繰り返すが、同じ一人暮らし女性でも34歳以下の若い人たちは増えてはいない。

晩酌女子の増加

「あまりに寂しすぎてアルコール依存にでもなったのか?」などと推測することもできるが、その証拠はない。ホームパーティーが増えたのかという話でもないだろう。

厚労省の令和元年「国民健康・栄養調査」によれば、未婚か既婚かの配偶関係別のデータではないが、40~50代女性で「酒を飲まない」割合は4割近くある。男性の場合は、同年代で2割である。つまり、そもそも酒を飲まない割合が中年男性の2倍存在しているにもかかわらず、中年独身女性の一人当たりの酒購入費は、男性より、一家族より実額で多いということになる。となると、一部の「呑兵衛」独身女性たちの飲酒量が増えたのだと推察できる(今まで、飲まなかった人が飲むようになったという可能性も否定できないが、それを確認するには、今後の「国民健康・栄養調査」のデータが必要)。

単純に考えれば、元々酒をたしなむ独身女性が、一人で部屋飲みを楽しむ「晩酌女子」と化したといったところか。

写真:アフロ

「私、お疲れ」というしあわせ

ちなみに、独身でも男女では食費の使い方が大きく違い、ほとんどの食事を外食や店頭で調理済み食品(弁当や総菜)で済ませる独身男性に対し、独身女性は自炊が多い。結果、全体の食費は独身男性に比べて大きく節約できているのだが、こうした中年一人暮らし独身女性の「晩酌女子」が増えたのは、コロナ3年目となって、当たり前となった自宅の部屋での一人の夕食に、「今日も頑張った私、お疲れ」という意味を込めた晩酌機会が増えたと想像できる。

奇しくも、テレビ東京の人気番組「孤独のグルメ」の自炊女性版ともいえる「晩酌の流儀」という番組が放送されていたのが、ちょうど2022年の夏である。簡単に美味しくできる手料理を、芸人のロバート馬場氏が監修している点も魅力である。

実際に、自宅での一人飯の食卓をSNSなどにあげる独身は男女かかわらず多い。しかも、その大部分が、その手料理の出来栄えが素晴らしい。

だからといって普段自炊をしない独身男性が料理に目覚めることもないだろうが、それぞれの楽しみ方で日常のちょっとした「しあわせ」を感じられることはよいことだろう。くれぐれも「飲みすぎ」には注意して。

関連記事

日本人が当たり前すぎて気づけない「一人で食事を楽しめる環境がある」という恵み

都道府県別「1人暮らし率」ランキング公開。単身世帯が50%を超えた東京

「居酒屋」誕生秘話。江戸の独身男の無茶ぶりから始まった。

-

※記事内グラフの商用無断転載は固くお断りします。

※記事の引用は歓迎しますが、著者名と出典記載(当記事URLなど)をお願いします。

独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

荒川和久の最近の記事