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出生数の激減はすでに25年前に誤差なくピッタリ予測されていたという事実

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

人口動態予測は外れない

年が明けると、風物詩のように必ずメディアがニュースにするのは「今年の新成人は過去最低」というものである。

ちなみに、2023年は18歳以上が成人となってはじめての年なので、3歳分合算となるからどういう報道がされるのだろうか。

18歳でも20歳でもいいのだが、いずれにせよ18-20年前の出生数を見ればわかりきっている話であり、現在乳幼児をはじめとする未成年の死亡数が極端に減少している中では、生まれた子はほぼ成人するのであり、何も急に新成人が減少したわけではない。

すでに過去においてわかりきった話をことさら新しく発生した事件のように扱うのもいかがなものかと思うが、それ以上に害悪なのは、ほぼ予測できる未来を「なんとかすれば変えられる」などと適当なことをいう「オオカミ大人」がいることである。

ほぼ予測できる未来の最たるものは人口動態である。

日本の人口は2100年には6000万人になるというのは、社人研による2018年の推計値を元にしたものだが、さすがに約80年後の予測がそのままズバリ当たるかどうかは別にして、そう大きく外れることはないだろう。もちろん、大きな戦争や災害があった場合は別である。

2022年の日本の出生数が80万人を切るということも、盛んにニュース化されているが、それも1-2年の誤差はあってもやがてはそうなるのであって大騒ぎする話ではない。

ちなみに、社人研は今年2023年に、2020年の国勢調査をベースとした最新の将来推計を発表する予定である。

3パターンの推計

ところで、「人口動態予測は当たる」というのは正しい言い方ではない。「当たる」とか「外れる」ではないのだ。そもそも人口動態推計は競馬の予想屋と一緒ではない。現在までの推移の基調をベースに「このまま推移すればこうなる」という計算値である。

そして、推計には3パターンある。高位推計、中位推計、低位推計というものだ。

高位推計とはたとえば出生数でいえば、「あわよくばここまでいくかもしれない」という最大期待値といっていいだろう。大体においてこの高位推計の数字はまったく無意味な期待値なので無視してよい。反対に、低位推計は「最悪ここまで低くなるかもしれない」という限界最小値である。通常、ニュースなどで推計として紹介されるものは、特に注釈がなければ真ん中の中位推計が採用されている。だからといって、この中位推計が「本気の予測」というものではない。あくまで幅の提示に過ぎないからだ。

そもそも、これを計算するのはAIではない。官僚の人間である。彼らも組織の一員であり、いろいろな思惑も働くだろう。

実際の現場を見たわけではないので、想像でしかないが、一般的にメディアで使われる中位推計に関しては「本当のことをそのまま出したらいろいろとまずい」という意識も働くかもしれない。意訳すれば「本当はここまで出生数がさがる見込みだが、それを言ってしまったら不都合な真実になってしまう」ということだ。

だからといって、官僚の矜持として適当なことは発表できない。であるからこそ、推計値は中位推計と低位推計の間におさまるとみるのが今までの統計を見る上での常道なのである。

出生数の推計と実績値

実際過去の推計を検証してみよう。

1997年に推計され出生数予測がある。その推計が今までの実績値とどれくらいズレていたのかを見れば、推計の精度が確かめられる。

結果は以下の通りである。確かに、高位推計と中位推計はまったくカスリもしていないので、その意味で「外れる」というのもいえなくないが、低位推計と実績値の比較をみてもらいたい。

びっくりするほど推計通りに推移しているとわかる。

特に、2020-2021年はコロナ禍という特殊事情があったにもかかわらず、1997-2021年にかけての25年間累計での推計との誤差はわずかマイナス7万6千人である。1年あたりの誤差はわずかマイナス3000人程度にすぎない。

2020-2021年の2年間を除けば、その誤差は23年間でプラス2万9千人、1年あたりでたったプラス1200人の誤差である。1997-2019年の累積値でいえば、誤差率0.0001%である。ほぼ完ぺきに予測通りといってよいだろう。

裏をかえせば、実際の出生数は「最悪予測」通りに推移したということになる。

出生数が過去最低とか大騒ぎするのも結構だが、その前に、今から25年も前に官僚は現在の出生数を予見していたという事実は把握しておくべきだろう。急に降ってわいた危機ではないのだ。

1970年代まで人口爆発危機だった

人口の専門家でもないくせに「人口の予測は当たらない」などと訳知り顔でいう者もいる。単にその人物が知らないだけならともかく、逆にドヤ顔で「人口予測は当たるという者は知識が足りない」などというものだからあえてファクトを提示しておいた。

当たらないという者は、「イギリスでは20世紀初頭の人口予測が全て外れている。アメリカでも1920年代の予測が外れている」と随分と古い話を持ち出してくるのだが、「そりゃあ100年前と今とじゃ、そら違うだろ」という話でしかない。当たらない根拠の提示としてあまりに弱すぎると言わざるを得ない。

そもそも1970年代までは、人口減少問題どころか、世界中が「人口爆発の危機」と叫んでいたわけである。1974年に、日本が「子どもは2人まで」という出産制限政策を掲げていたことを知っている人は少ない。

それ以降きっちり2人以内での出生数になってしまっていることは、実に皮肉な事である。

「子どもは二人まで」国やメディアが「少子化を推進していた」という歴史的事実

写真:アフロ

変えられるものと変えられないものがある

「国連の人口予測も何度も修正されているじゃないか」という声もある。

それはその通りで、国連の推計はいい加減なものである。少なくとも日本の合計特殊出生率の実績値を微妙に間違えているくらいだから、他国の数字も間違っている可能性がある。

よって、国連の数字はそういうことを織り込み済みで見る必要がある。専門家であれば当然のことである。

把握すべきは、面倒でも各国の官僚が真面目に試算した数字である。日本の場合は社人研の数字だ。

とはいえ、さすがに100年後まですべて誤差なしとまではいかないのは当たり前だ。しかし、前述した通り、四半世紀にあたる25年間誤差なしは「予測は外れない」と言って差し支えないだろう。

「人口の予測は当たらない」と言いたがる人間は必ず「予測は運命ではない。今を生きる私たちの工夫と勇気によってそれはいくらでも変えられる」などと一見ポジティブなことを言い出す。

未来は決定されているものではないのは言うまでもないが、だからって、こういう根拠なき願望や感想を言い出すのも困りものである。根性論と何が違うのだろう。それを真に受けたりする政治家などが出たりしないでいただきたいものである。

まして「なんとかすれば変えられたはずなのに、変えられなかったのは自分たちの責任だ」という自己責任論にも容易にすり替えられるので注意が必要だ。

変えられるものと変えられないものがある。

出生でいえば、もはや1990年代に生まれなかった絶対人口減は取り返せないし、今の低出生数はその「少母化」によるものだと何度も言っている。

出生数が増えない問題は「少子化」ではなく「少母化」問題であり、解決不可能なワケ

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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