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もしも「超・少子化対策基本法」ができたら、婚姻数や出生数は増えるのか?

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

いろいろ詰んでいる

少子化は「夫婦が子どもを産まない問題」ではなく、そもそも「夫婦となる婚姻数の減少問題」であり、それ以前に「婚姻の対象となる若者の絶対人口の減少問題」でもあり、解決不能であることはこの連載でも繰り返し述べてきた。

極論すれば、今現在の未婚者がかつてのように全員結婚する皆婚時代となったとて、文字通り母数そのものが減っている「少母化」なのだから出生数は増えない。

出生数が増えない問題は「少子化」ではなく「少母化」問題であり、解決不可能なワケ

本来、国は、この無視できない不可避な現実に基づいて、今後の社会をどう運営していくべきか考えるステージにきているのだが、なかなかそれを明確に言える政治家にはお目にかかっていない。

とはいえ、だからといって放置や諦観するのではなく、それでも少子化のスピードをゆっくりとさせるための方策は並行して行う必要は否定しない。

そして、それは、出生数を増やすという以前に婚姻数を増やさないと意味はないのだが…、生涯未婚率はあがり続け、「結婚する必要がない」とする選択的非婚が増えている一方で、「本当は結婚したいのにできない」という不本意未婚の若者が4割もいるという現実を考えると、かなり厳しいものがある。

結婚したいのにできない若者が4割~「不本意未婚」増大した若者を取り巻く環境

マッチングアプリは役に立たない

マッチングアプリでの結婚が増えているなどというニュースに浮かれている界隈もいるようだが、マッチングアプリ婚の比率が高まったといったところで全体の婚姻数は激減中である。

「恋愛強者3割の法則」についても、繰り返し説明しているが、マッチングアプリは「街のナンパのデジタル版」にすぎず、それがあろうがなかろうが、恋愛して結婚できた恋愛強者の便利なツールとなっているだけである。

残念ながら、むしろ、恋愛強者と弱者の恋愛格差を広げただけで婚姻数の増加には寄与しない。

マッチングサービスなのに「会えた人数ゼロが3割」問題の背景にある残酷な現実

1980年代までの皆婚は伝統的なお見合いや職場結婚という社会的結婚お膳立てシステムによるものが大きく、実際婚姻数の減少は、このふたつのきっかけの減少と完全一致する。そもそも皆婚など明治民法以降のせいぜい100年の歴史しかない。

日本の結婚は30年前にはすでに詰んでいた。失われた社会的システム

「恋と嘘」が現実化したら?

冷静に考えれば、今後婚姻数が増える合理的な理由は何一つ見つからないのだが、「恋と嘘」という漫画をご存じだろうか。アニメ化もされている。

あらすじはこうだ。

少子化が進んだ未来の日本の話である。超・少子化対策基本法(通称:ゆかり法)が制定され、満16歳以上の少年少女は自由恋愛が禁止となり、国が国民の遺伝子情報に基づいて決めた最良の伴侶と結婚をしなくてはならない。結婚と子作りは国民の義務となり、通知を拒否すると社会不適合者とされてしまうディストピアな社会の中で翻弄される高校生たちの姿を描いたものだ。

要するに、国家による管理見合い型強制結婚社会である。

そんな未来など訪れるはずはないという話は置いておいて、もし、仮にそんな未来が訪れたとしたら、本心はどうあれ「法律で決められたことなので国の決めた見合い相手との結婚を許容する」か、「罰則があったとしても、そんなの御免だと完全に拒否する」か、どちらか二択で選べという質問があったら、みなさんはどう回答するだろうか。

そんな「もしも質問」での調査をしてみた。

男女未既婚別とともに、未婚男女については、「恋愛強者」「恋愛中間層」「恋愛最弱者」という3つのカテゴリーにわけて聞いた。

許容する割合が一番多いのは?

「恋愛強者」とは、常に恋愛相手がいて、今現在も恋愛中の人、「恋愛中間層」とは、今は相手がいないが過去に付き合った経験のある人、「恋愛最弱者」とは、今まで一度も恋愛相手がいたことのない層である。比率は、それぞれ3:4:3である。

(C)ソロ経済・文化研究所 荒川和久
(C)ソロ経済・文化研究所 荒川和久

これを見ると、全体的には「反対」派が多いが、それでも「許容」派も決して少なくない。

まず、全体的に女性より男性の方の許容率が高く、未婚者よりも既婚者の方が高い。

そして、恋愛力での比較をすると、恋愛強者がもっとも反対派が多い。まあ、当然といえば当然だろう。自分の力でいくらでも相手を見つけられるのに、わざわざ国が決めた相手と結婚しなくてはいけない道理がないからだ。

恋愛力が弱まるにつれて、男性は許容率が高くなり、「恋愛最弱者」男性は28%が「それでいい」と判断している。むしろ「助かった」と思っているかもしれない。この28%というのは、奇しくも2020年の男性の生涯未婚率と一緒である。

しかし、女性は逆で、もっとも許容度が低いのは「恋愛最弱者」女性でたった7%しかいない、93%が反対なのだ。

一度も恋愛をしたことのない恋愛弱者だが、そんな大きなお世話で結婚させられるくらいなら一人のままで上等であるというのである。もちろん、この中の女性がすべて恋愛否定者ではない。しかし、望まぬ恋愛をするくらいなら、孤高の独身を選びたいようだ。

マッチングされない恋愛弱者

実は、こうした意識の違いが婚活現場における男女のアンマッチ(ミスマッチではなくマッチングしない現象)を起こしている。こちらの記事に書いた通り女性は「好きになれるような相手がいない」と愚痴り、男は「自分が好きになっても相手が好きになってくれない」とぼやくのだ。

皮肉にも、その背景では、一部の恋愛強者男性がアプリを使って、何人もの女性とデートを重ねている。女性のいう「好きになれる相手がいない」というのは、男なら誰でもいいという話ではなく、上位の強者に一極集中しているためだ。

身も蓋もないが、弱者男性は永遠にマッチングされる可能性は低い。

写真:イメージマート

「恋と嘘」はあくまでも虚構で、そんな未来は来ない。が、万が一、そんな事態になったとしても、アプリや結婚相談所で断られる以上に、国が指定したにもかかわらず相手から断られるのだとしたら、こんなショックなことはないだろう。

ま、あくまで思考実験的アンケートなので。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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