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夫婦の時間「夫の育児時間が増えると、妻の育児時間も増えてしまうのはなぜ?」

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

夫婦の家事育児時間最新結果

2021年の社会生活基本調査結果が総務省より8月31日に発表された。これは、5年おきに実施されているもので、今回は2021年10月20日時点で全国の10歳以上の約18万人を対象として実施されたものである。

この調査結果でよく引き合いに出されるのが、「夫婦の家事・育児時間」だろう。今回も、総務省による「結果の概要」では以下のようにまとめられている。

子供がいる世帯のうち6歳未満の子供がいる世帯について、夫と妻の家事関連時間をみると、夫は1時間 54 分、妻は7時間 28 分となっており、2016 年と比べると夫は 31 分の増加、妻は6分の減少となっている。家事関連時間の内訳についてみると、夫の家事時間は 13 分の増加、育児時間は 16 分の増加とそれぞれ大きく増加している。一方、妻の家事時間は9分の減少、育児時間は9分の増加となっている。

※上記の家事関連時間には、火事・育児・介護・買い物が含まれている。

2016年と比べて夫は家事も育児も時間数はわずかながら増えているが、妻の方は家事こそ減少したものの、育児時間は逆に増えているという現象が起きている。

絶対値では、相変わらず家事時間では夫に対して妻が6倍、育児時間では3.6倍も多い状況である。

夫婦の状況別に差分を見る

妻の家事時間の減少は、夫の力というより自動家電の活用などが大きいだろう。

やや意地悪な見方をすれば、夫が16分育児時間を増やしたおかけで、逆に妻の育児時間も9分増える羽目になっているのではないかという見方もできる。

さて、上記の数字は、あくまで6歳未満の子供を持つ世帯全体の話であるが、こういう統計を解釈する際には、個々の夫婦の状況別に見ないとあまり意味はない。

同じ子有り夫婦の場合でも、夫婦ともにフルタイムで働いている場合と、専業主婦の家庭とでは前提が変わる。6歳未満ではなくてもそれ以上の年齢の子を持つ家庭はあるわけで、その比較もした方がいい。

また、家事と育児時間だけを抽出しても、それもまた意味はない。生活時間においてもっとも多くの比重を占める睡眠と仕事時間もあわせて夫婦の差分を見るべきである。ちなみに睡眠時間に関しては夫婦ともそれほど大差はなかったので割愛し、仕事・家事・育児の三種の夫婦の時間差分で見ていきたいと思う。

仕事と家事・育児時間のバランス

以下のグラフは差分を表したもので、上に伸びているのは「夫の方が多い」、下に伸びているのは「妻の方が多い」という意味である。単位は分である。

これをみると、前述したように、家事と育児時間に関しては、どの形態の夫婦も妻の方の時間が多くなっているが、仕事に関しては夫の方が多い。

これら3つの時間を合計した場合には、夫婦とも有業の場合は若干トータルで妻の方が多いが、その差は30分程度で、家事と育児単体で見た時の差分と比べればずいぶん少なくなっている。

一方、夫有業・妻無業、要するに専業主婦世帯の場合は、その差はもっと少なくなり、6歳未満の子のない夫婦の場合ではむしろ夫の合計時間の方が63分も上回る。

もちろん、専業主婦世帯の夫が家事・育児をたくさんやっているわけではない。むしろ夫婦ともに有業の夫婦より妻の負担は大きい。

3種合計での差がなくなるのは、妻の家事・育児時間の差分をそのまま夫は仕事に向けているからである。

グラフに顕著だが、6歳未満の子無し→6歳未満の子1人→6歳未満の子2人となるにしたがって、夫の仕事の時間の夫婦差は拡大している。

ちなみに、全体の労働時間そのものが増えているわけではないが、あくまで夫婦の仕事の時間の差は拡大しているということだ。

これは、むしろ夫婦の連携プレーとしてそれぞれの夫婦が役割分業をうまく回していると言えなくもない。

写真:イメージマート

それぞれの夫婦の選択

昨今、家事育児関連の言説を見ていると、「何がなんでも夫婦の差は是正しなければならない」といわんばかりの過激なものが目につく。「欧米では…」という話をすぐ持ち出してくる出羽守も相変わらず多い。

別に夫が家事も育児もしなくていいという極論を言っているわけではない。

しかし、当事者である夫婦が互いに合意・納得の上、それぞれの役割分業を進めているのであれば、それもまたその夫婦の決断を尊重すべきだろうと考える。すべての夫婦がすべての生活時間を寸分違わず同じ時間でなければならない、などと強制されてしまうのではあれば、そっちの方が窮屈だ。

現実的な話、妻にしてみれば、慣れない家事育児を夫がやってくれたとしても、むしろ再度自分でやり直さなければならない手間もかかり、だったらその分仕事に費やして稼いでくれた方がよっぽど助かるという場合もあるだろう。やる気があっても個人によって向き不向きはある。

ちなみに、2001年から2021年にかけて夫の育児時間が増えれば増えるほど、妻の育児時間が増えているという事実がある。

夫婦や家族のカタチに絶対的・普遍的なカタチなど存在しない。それぞれの夫婦が、それぞれのやり方で、それぞれのしあわせを構築していけばいい。どんなカタチであれ、互いにそれを話し合って、合意して進めていくのが結婚生活であり、夫婦なのだろうと思う。

もちろん、結婚しても出産しても、外でバリバリ働いてキャリアを積みたいという女性もいれば、子が小さいうちは育児に専念したいという女性もいる。

ソニー生命の2020年調査によれば、「今後もバリバリ働いてキャリアを積んでいきたい」と思う女性は34.2%。一方で、「専業主婦になりたい」も3割いる。20代にいたっては41.7%が専業主婦になりたがっている。キャリア志向3割、専業主婦志向3割、と実にバランスがとれているといえよう。

写真:アフロ

すべての夫婦は「共働き」だ

そして、その志向は現実においても反映されている。内閣府の白書にも掲出されたが、フルタイム共稼ぎの割合は35年前も前からほぼ3割で変わらず推移しているということだ。

勘違いしている人が多いが、共稼ぎ夫婦が専業主婦夫婦の2倍以上というのはフルタイムとパートタイムを全部合わせたものである。

出所 内閣府「令和4年版男女共同参画白書」
出所 内閣府「令和4年版男女共同参画白書」

別に夫婦共稼ぎを否定したいのではない。しかし、同時に専業主婦家族も否定しない。夫婦とはチーム運営である。「あなたはFWで点取って。私はGKで守るから」という夫婦役割分担が否定されるものではない。

画一的な夫婦のカタチなどないのだから、そこを無理やり統一規格にする方が婚姻減をさらに加速させやしないかとも思う。

そもそも、専業主婦の女性が働いていないということにはならない。夫婦が二人とも外で働いて稼ぐという「共稼ぎ」ではなくても、すべての夫婦は「共働き」なのである。

夫婦同士話し合って、よいバランスを実現していただければよいと思う。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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