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顕在化したソロ旅需要~「一人で旅行して何が楽しいの?」に対するソロ旅の利点

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

コロナ禍で堅調だったソロ密旅

政府が、外国人観光客の受け入れを6月10日から2年ぶりに再開すると発表した。コロナ禍によってほぼゼロにまで落ち込んだ外国人観光客需要の復活に期待する声は大きいだろう。

インバウンド需要だけではなく、この2年というもの日本人の国内旅行も大きく減少している。盆暮れの帰省すら自粛を余儀なくされたのだから、それも当然といえる。しかし、実はその中でもソロ旅(一人旅)の数はそれほど減っていないことはあまり知られていない。

グループや家族での複数での旅行が行きづらい環境下で、旅行業界や宿泊業界にとってせめてもの救いは、密かなソロ旅客の利用(ソロ密旅)でもあったと思われる。

観光庁の旅行・観光動向調査の2019~2021年までの年間の同行者タイプ別旅行客数構成比の推移をみると、自分ひとりの旅(ソロ旅)の構成比だけがコロナ禍の中でも上昇していることがわかる。もちろん絶対数はソロ旅でさえ減ってはいるが、他の家族などの旅行に比べて減少幅が小さかったという証拠でもある。

かつて無視された「ソロ旅」需要

そもそも、私の記憶が確かであれば、2015年頃までパック旅行などは「最少催行人数2人以上」と明記されていて、ソロで申し込みすることはできなかった。部屋に露天風呂がついているような高級温泉旅館なども原則2人以上でないと予約すらできなかった。女性のひとり客などは「自殺の怖れがある」などと警察に通報されたりもした。それは、「女性が一人で旅行なんてするわけがない」という偏見に似た刷り込みがあったからでもある。

写真:アフロ

旅行業界も、かつてはソロ客など相手にしていなかった。とある旅行関連の企業にかつて「ソロ旅」について提案したこともあるが、「ひとり旅なんてやってる人間なんて少ないし、そこを狙っても売上的に無意味」とけんもほろろだった記憶がある。

ところが、今や1人から申し込めるツアーも充実しているし、温泉旅館も一人から泊まれるようになっている所が激増した。旅行会社ではわざわざ「ソロ旅企画」なるものを特集しているところもある。もはや無視できない規模に需要があるからである。そうした変化の兆しは、コロナを契機というより、それ以前からあった。

ソロ旅市場はバカにできない規模

そもそもそソロ旅の市場規模がどれくらいあるかを理解している人は少ない。

コロナ禍期は異常値だったので、2019年の数字を見てみることにする。

旅行・観光動向調査によれば、年間のソロ旅(国内旅行)の延べ人数は1億1370万人。日本の全人口に匹敵する人が年間ソロで旅行していた。さすがに家族の旅行延べ人数には負けるが、夫婦・パートナーでの9900万人、友達同士の7050万人より圧倒的に多いのがソロ旅客なのである。

消費額でいっても、全体21兆9,312億円に対して、4兆1000億円はソロ旅である。約2割がソロ客による消費で占められている。

もちろんここで計上されているソロ旅はすべて独身者というわけではない。あくまで一人で旅行をした人数なので、その中には既婚者も含まれているだろう。こちらの記事(独身だけが「ソロ活」をするのではない~無視できない規模になるソロエコノミー(ソロ活経済圏))にも書いたような「パートタイムソロ活」の動きも活発化している。

今後、旅行行動も以前に戻るようになれば、家族や友人同士の旅も増えてくるとは思うし、外国人のインバウンド需要も復活してくるだろう。しかし、もともとソロ旅をしていた人たちに加え、コロナ禍で「ソロ旅も楽しい」と気づいた人たちなど、ソロ旅の需要はさらに拡大していく余地が大きいと考えられる。

なにより、今までは受け入れ先がソロ旅を拒絶していたわけだが、それが門戸を開いてくれたというのはありがたいことでもある。

ソロ旅の醍醐味

「ひとりで旅行して何が楽しいのか?」

そう思う人もいるだろう。

ソロ旅については、かつてテレビ番組の「アメトーーク」の一人旅が好きな芸人篇において、タレントの眞鍋かをりさんが実に的確なことをおっしゃっていた。

「スケジュールと予算と価値観の合う友達ってほぼいなくない?」

写真:つのだよしお/アフロ

まさにその通りで、友達と夏の旅行の話を進めているうちに時機を逸してしまったり、本当は自分の行きたいところに行けなくなったりする場合もある。行きたい時に、行きたい場所にパっと行ける。誰にも気兼ねすることもなく、スケジュールを組む必要もなく、行ってから気の向くままに旅をすることも許される。

そんなソロ旅の醍醐味を知っている者からすれば、ソロ旅をしないという選択肢はないわけである。独身に限らず。

「ソロ旅の何が楽しいのだ?」と思う人は、旅よりも誰と一緒の時間を過ごすかが優先で、旅はその手段なのだろう。それはそれで価値観としてありだと思う。しかし、ソロ旅は「ひとりで行くこと」それ自体が目的なのである。

一人では旅行なんか寂しくないのか?と思う人もいるかもしれない。が、意外に寂しさは感じないものである。

一人だからこそ、見知らぬ人に気軽に話しかけられるということもある、旅の恥はかき捨てというが、普段、人見知りな人でも、誰も自分のことなんか知らないと思うと、人間は大胆に行動できたりするものである。一人で旅をするという環境に身を置くことで「新しい自分」の一面を発見できることもある。

写真:イメージマート

勘違いしてはいけないのは、ソロ旅をする人とは、決して一緒に行く相手がいないから仕方なくやっているものではないということであり、複数で旅行に行く楽しさを知らないわけでも否定するものでもないということだ。そういう相手がいようといまいと、独身だろうと既婚者だろうと、男性だろうと女性だろうと、「一人でも楽しめる」という選択肢を持っているということではないだろうか。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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