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日本人がセックスより気持ちいいと感じる「美味しいものを食べる」ことへの欲望

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

ユニークな世界比較調査から

株式会社TENGAが日本を含む世界9カ国と地域を対象に調査した「2019年マスターベーション世界調査-TENGA Global Self-Pleasure Report 2019」というものがある。調査対象者は、各国・地域ともに18~54歳までの男女。その中に「もっとも快いと感じるのはどれか?(Please rank how pleasurable each of the following activities?)」という質問があるのだが、その回答の国際比較結果がとても興味深いのでご紹介する。

回答方法は、用意された14個の選択肢に対してランキングを付けてもらうという形式で、1がランキング1位ということになる。結果は以下のとおりである。

出典:”月刊TENGA第20号「2019年世界マスターベーション調査」より許諾を受けて掲載。画像制作:Yahoo!ニュース
出典:”月刊TENGA第20号「2019年世界マスターベーション調査」より許諾を受けて掲載。画像制作:Yahoo!ニュース

出典:”月刊TENGA第20号「2019年世界マスターベーション調査」より許諾を受けて掲載。画像制作:Yahoo!ニュース
出典:”月刊TENGA第20号「2019年世界マスターベーション調査」より許諾を受けて掲載。画像制作:Yahoo!ニュース

アメリカ・イギリスフランスなど欧米諸国だけではなく、中国・韓国も1位は「セックス」であるのに対して、日本だけがなぜか「美味しいものを食べる」が1位である。日本人にとって最大の快楽とはセックスよりも「食」、つまり「モテ」より「メシ」なのだ。

一人でも楽しめる日本人

ランキング順から深読みして、日本人は「美味しいものを食べる」→「愛する人と共に時間を過ごす」→「抱きしめる」→「笑う」→「セックスする」という恋愛のステップを踏んでいると読み解くと、なんとなく美しい物語性を感じられるが、残念ながら、ランキング順と行動順との間に因果関係はない。

ひとつ示唆に富んでいることは、これらの選択肢の行動を「他者と共にやること」と「単独でもできること」に分けてみると、日本以外の人たちが「他者と共にやること」が上位を占めるのに対して、日本人だけが「単独でも楽しめること」が上位に入っている点である。

ソロキャンプ
ソロキャンプ写真:アフロ

日本人は集団主義であると思っている人も多いが、実はそれは大きな誤解である。むしろ、一人であることを前向きに楽しめるところが日本人にはある。ひとり旅、ひとり居酒屋、ひとり焼肉、ひとりカラオケ、ひとり遊園地などなど、こうしたひとりで楽しむ「ソロ活」が市場の中でいつのまにか大きなボリュームを占めていることも、それを裏付けるものとなる。

※「日本人は集団主義ではない」という件についての詳細はまた追ってこの連載上で記事化する予定である。

食費にお金を使う独身男性

ソロ活経済圏についての拙著「ソロエコノミーの襲来」にも書いたことだが、独身男性のエンゲル係数は非常に高い。家族が24-25%であるのに対して消費支出のうちの30%を食費に費やす。特に、調理食品、飲料、酒、外食などの費目は、率ではなく、実額で4人家族以上に独身男性はお金を支払っている。外食に至っては家族の1.7倍である(総務省「家計調査」より)。

では、独身男性たちがなぜ食費にお金を使うのか?

一般的に、独身者は既婚者に比べて幸福度が低いのだが、そうした家族のいない欠落感を埋めるために、食はもっとも手っ取り早い「幸福感」獲得の手段だからである。

そもそも、脳の快楽物質であるドーパミンは、楽しいことをしているとき、何かを達成したとき、他人に褒められたとき、好奇心が働いているときに大量に放出される。また、恋愛感情やトキメキを感じているときやセックスで興奮しているときもたくさん分泌されている。しかし、同様に、美味しいものを食べているときもドーパミンがたくさん出ているのである。

写真:milatas/イメージマート

このTENGAの調査は、特に独身者だけに限定しているわけではないが、だとすると、そもそも「食の快楽こそが日本人のど真ん中」なのではなかったかとすら思う。ちなみに、「食」という字は「人」+「良くする」と書く。

日本人の「食」への向き合い方

冷蔵庫のない時代に、魚類を生で食べるという冒険心などその最たるものだし、フグを安全に食べるために一体何人の料理人が死んでいったことだろう。カレーライスにしろ、ラーメンにしろ、他所の国の料理を日本独自の料理にアレンジして、元祖とは違う次元に昇華させてしまう。正月に餅やお節料理、節分に恵方巻き、端午の節句にちまきや柏餅などなど、とにかく時節のイベントに全部食べ物を合わせるのも日本的である。お好み焼きの美味しさを大阪と広島とで喧嘩するなんていうのも、あまり他国では見られない。

あまり知られていないことだが、世界で一番早く外食産業が栄えたのはフランスではなく日本で、江戸時代が始まったばかりの1600年代である。

明暦の大火(1657年)で江戸が焼野原になった後、再開発のために全国から大工など職人衆が集結、一旗あげようと農村の次男坊、三男坊も集結、それらに対して商いをしようと各地から商人も集結。江戸は自炊をしない独身や単身赴任の出稼ぎ男だらけの町になった。

そのニーズに対して生まれたのが、惣菜煮物を扱う店であり、居酒屋であり、蕎麦などを売り歩く移動式屋台だった。そこから今に続く寿司・天婦羅などの食文化も最初はファストフードとして生まれている。

冒頭の調査結果を見て、「そんなんだから、日本は少子化になるんだよ」という指摘はそれこそ無粋というものだろう。それはそれとして、最大の快楽が「美味しいものを食べる」と言い切れる日本の食文化に誇らしさを感じる。充実した食があることだけでも、日本人で良かったと私は思いたい。

※調査結果の転用は株式会社TENGA様の許諾をいただいた上で、図表は新たに描き起こしています。

※当記事の図表の無断転載は固くお断りします。

独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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