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結婚したらしあわせになれる?未婚の「幸福人口」と「不幸人口」を試算

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

中年の未婚男性は不幸度がもっとも高い

前回の記事で、幸福度は「男<女」「未婚<既婚」「中年<若者」ということから、もっとも幸福度が低いのは「未婚の中年男性」であるという話をした。しかも、それは本人の所得の問題ではなく、高所得であろうと、低所得であろうと、未婚男性の幸福度は既婚男性のそれよりいずれも低いこともわかった。つまり、年収のせいで不幸を感じているわけではないということだ(但し、唯一1000万程度の年収を稼ぐ未婚男性だけは既婚男性並みの幸福度があった)。

前回の記事・グラフはこちらから。

なぜ男性は不幸なのか。なぜ40~50代は不幸なのか。なぜ未婚の中年男性は不幸なのか

しかし、既婚の幸福度が未婚より高いからといって「結婚すればしあわせになれる」とは言えない。それは、相関と因果をごちゃ混ぜにするようなものである。「幸福度が高いのは既婚男性が多い」は相関はあるが、「結婚したらしあわせになる」という因果があるとは言えない。

「〇〇になったらしあわせ」という幻想

「フォーカシング・イリュージョン」という言葉がある。これは、ノーベル経済学賞の受賞者であり、行動経済学の祖と言われる米国の心理学・行動経済学者ダニエル・カーネマンが提唱した言葉である。

写真:Shutterstock/アフロ

「いい学校に入ればしあわせになれるはず」

「いい会社に入ればしあわせになれるはず」

「結婚すればしあわせになれるはず」

というように、ある特定の状態に自分が幸福になれるかどうかの分岐点があると信じ込んでしまう人間の偏向性を指す。簡単に言えば、「思い込みから生じる幻想」ということだ。

もちろん目標を定めて努力することは大切である。しかし、進学や就職や結婚という状態になれば自動的に幸福が得られるというわけではない。

たとえば、結婚したいという女性は「相手はいないけど、とにかく結婚したい」とよく言う。これこそ結婚という状態に身を置けば、幸福が手に入るはずという間違った思い込みである。そうした思い込みのまま、万が一結婚してしまっても、「こんなはずじゃなかった」と後悔しかしないだろう。

結婚すればしあわせになれるという考え方は、裏を返せば、「結婚できなければしあわせになれない」「結婚しないと不幸だ」という決めつけの理屈にとらわれることになる。それは、結婚という特定の状態に依存してしまって、それ以外の選択肢を否定しているようなものでもある。

要するに、「現在の結婚できない自分の否定」である。むしろそうした思考こそが、婚活女性たちの不幸感を現在進行形でより増幅させているのではないかとさえ思う。

不幸感は「欠乏の心理」からくる

一方、未婚男性の中にも「相手はいないが結婚したい」と婚活にいそしんでいる人もいるだろう。もはや結婚が社会的信用を示す時代でもなく、結婚しなければ出世させないなどという企業も少ないだろう(少ないが、いまだにそういう企業があるということにも驚くのだが)。

それでも結婚したいと熱望する未婚男性もまた、「結婚すればしあわせになれるんじゃないか」という淡い期待を抱いてはいないだろうか。そう思ってしまうのは「欠乏の心理」があるからである。

人は、何かが足りないと感じた時に不幸感を感じる。

腹が減った、給料が少ない、他人の評価が低い…などなど、「足りない」と思うからイライラし、怒り、自分は不幸だと思おうとする。

しかし、そうした思考の癖は、常に、恋愛相手がいない、結婚相手がいない、子どもがいない…。そういった自分にない物ばかりに目を向けてしまい、たとえ何かを手に入れても、手に入れた充足感より、「まだこれが足りない」という欠乏しか認識できなくなる。いわば、永遠の餓鬼と化してしまうのだ。

そもそも、本当に結婚したらしあわせになるのか?

提供:イメージマート

幸福人口と不幸人口

前回の記事で掲載した幸福度グラフは、それぞれの年代において、幸福や不幸を感じる割合が何%かを示したものである。その割合に、2020年国勢調査で判明した未婚人口を掛け合わせれば、計算上の未既者の年代別の「幸福人口」「不幸人口」が算出できる。

未婚男性で年代別に試算してみたものがこちらだ。

(c)荒川和久
(c)荒川和久

未婚男性の「幸福人口」は20代から年代を重ねるごとに順調に減少しているのに対し、「不幸人口」は20代から50代までそれほど大きな変化はない。

これが何を意味するかというと、「幸福な未婚」だけが未婚でなくなっていっているということ。つまり、結婚していく未婚男性は、元から幸福だった者が多いということだ。

未婚より既婚の方が幸福度が高いのは事実だ。しかし、それは「結婚したから幸福度があがった」のではなく「幸福度の高い未婚が結婚していく」という因果があるとみた方が、納得性は高い。

身も蓋もない言い方をすれば、「結婚したら幸せになれる」と思っている人は、結婚もできないし、しあわせにもなれないのだろう。

「欠乏の心理」に支配されて、「あれが足りない、これが足りない」という不幸思考に陥っている人は、まず、現在の自分の「足るを知り」、幸福になることが先なのだ。そして、それは、たとえ結婚しようがしまいが、自分の人生をしあわせに生きていく上で大切なことでもある。

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※記事内グラフの無断転載は固くお断りします。

独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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