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イスラエル軍がシリアの首都ダマスカス一帯を爆撃、防空部隊の基地などが狙われる

青山弘之東京外国語大学 教授
Twitter (@Israel_Alma_org)、2023年5月29日

シリア国防省は5月29日未明に声明を出し、28日午後23時45分、イスラエル軍が占領下ゴラン高原上空から首都ダマスカス一帯をミサイルで爆撃、シリア軍防空部隊が迎撃し、ミサイルの一部を撃破するも、攻撃によって若干の物的損害が生じたと発表した。

イスラエル軍によるシリアへの爆撃(ミサイル攻撃)や砲撃といった侵犯行為は、今年に入ってから16回目、2月6日のトルコ・シリア地震発生以降で13回目。5月には、4日にはイランのエブラーヒーム・ライースィー大統領のシリアへの公式訪問に合わせるかたちでアレッポ国際空港一帯を爆撃し、同空港を1週間にわたって利用不能に追い込んだほか、24日には、占領下のゴラン高原上空を飛行中のイスラエル軍無人航空機(ドローン)に対してシリア政府支配地側から発砲があったのを受けて、イスラエル占領地と兵力引き離し地域を隔てる境界線(ラインA)近くのシリア軍の拠点複数ヶ所を重火器で攻撃した。

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「イスラエル軍が占領下のゴラン高原と兵力引き離し地域を隔てる境界線近くのシリア軍の拠点複数ヶ所を重火器で攻撃(2023年5月24日)」(シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢)

「イスラエルがイラン大統領のシリア訪問に合わせて、アレッポ国際空港一帯をミサイルでまたしても爆撃」

シリア北部のラタキア県にあるフマイミーム航空基地(殉教者バースィル・アサド国際空港)に設置されているロシア当事者和解調整センターのオレグ・グリノフ副センター長の発表によると、攻撃はイスラエル軍戦闘機2機によって行われた。2機はゴラン高原上空からGBU-39誘導爆弾6発を発射し、首都ダマスカス近郊の標的複数ヶ所を攻撃、これに対してシリア軍防空部隊はBuk-M2Eミサイル防空システムで迎撃し、2発を破壊するも、爆撃によって貯蔵施設2ヶ所が損害を受けたという。

一方、反体制系サイトのドゥラル・シャーミーヤ、英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団などによると、攻撃は2回に分けて行われ、ダマスカス郊外県のハフィール・ファウカー村一帯にあるシリア軍防空部隊の航空基地、ハーマ町一帯、ダマスカス国際空港一帯が狙われ、シリア軍防空部隊の航空基地で兵士5人が負傷した。狙われた航空基地には、レバノンのヒズブッラーのメンバーも駐留していたが、負傷者がシリア軍兵士なのかヒズブッラーのメンバーなのかは不明だという。

また、シリア人権監視団によると、シリア軍防空部隊が発射したと見られる迎撃ミサイル1発が、カタナー市ラアス・ナブア住宅地区の駐車場に着弾したが、詳細は不明だ。

イスラエルの政府や軍は今回の爆撃を認める声明などは(いつもの通り)発表していない。が、同国のアルマー研究教育センターはツイッターを通じて、攻撃が「シーア派枢軸の活動」に対するものだとしたうえで、ハフィール・ファウカー村西、ハーマ町一帯、ダマスカス航空基地一帯、さらには迎撃を行ったシリア軍防空部隊の拠点にも攻撃が行われたと発表した。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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