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イスラエルがシリアへの攻撃でアレッポ空港を再び利用不能にする一方、イスラエル軍ドローンが謎の墜落

青山弘之東京外国語大学 教授
Twitter(@Israel_Alma_org)、2023年3月22日

シリア軍は3月22日に声明を出し、午前3時55分、イスラエル軍がラタキア県西の地中海上空からアレッポ国際空港一帯に向けて多数のミサイルを発射し、空港に物的損害を与えた、と発表した。

またシリアの民間航空公社も声明を出し、イスラエル軍のミサイル攻撃によってアレッポ国際空港の滑走路と航法装置の一部が損傷したとしたうえで、復旧作業が完了するまで空港の運用を一時停止し、すべての発着便をダマスカス国際空港と殉教者バースィル・アサド国際空港(ラタキア県)に振り分けると発表した。

2月6日にトルコ・シリア地震が発生以降、イスラエル軍がシリア領内に対してミサイル攻撃(爆撃)を行ったのは、これが4度目、2023年に入って以降では5度目、イスラエル軍か米主導の有志連合のいずれかが行ったとされる1月29日の攻撃と加えると6度目となった。

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英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、イスラエル軍が発射したミサイルは6発。うち5発が、空港周辺にある「イランの民兵」の武器弾薬庫などの標的に到達した。また、ロシアのスプートニクが治安筋の話として伝えたところによると、攻撃はアレッポ国際空港と隣接するナイラブ航空基地に対して行われた。

「イランの民兵」とは、紛争下のシリアで、同国軍やロシア軍と共闘する民兵の総称である。イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、同部隊が支援するレバノンのヒズブッラー、イラクの人民動員隊、アフガン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などを指す。「シーア派民兵」と称されることもあるが、「イランの民兵」という呼称とともに、反体制派や欧米諸国による蔑称で、シリア政府側は「同盟部隊」と呼ぶ。

「イランの民兵」への武器供与への対抗措置

攻撃に関しては、イラン・イスラーム革命防衛隊クドス軍団のエスマーイール・ガーアーニー司令官が3月18日に、アレッポ市とラタキア市を訪れ、トルコ・シリア地震の被災状況を視察したことに関連があるとの指摘が、反体制系メディアなどでなされた。

Alsouria.net、2023年3月22日
Alsouria.net、2023年3月22日

また、イスラエルのアルマ調査教育センターは、ツイッターなどを通じて、イランがトルコ・シリア地震の被災者の人道支援を装って武器を移転したことに対処するために、イスラエル軍がミサイル攻撃を行ったとの見方を示した。

同センターは、前週にイランとシリアを複数回にわたって往復していたイランのポウヤ・エアのIl-76(イリューシン76)輸送機1機が、イランがロシアへの武器供与を始めて以降、テヘランとモスクワを頻繁に往復していたとしたうえで、同機がシリア国内に武器を持ち込んだ疑いがあると断じた。

イスラエル軍ドローン墜落の謎

シリア領空での侵犯行為と見られる動きは、これに限られなかった。

シリア人権監視団は、シリア政府の支配下にあり、イラク領に面するダイル・ザウル県ブーカマール市に近い砂漠地帯に「イランの民兵」が設置しているいわゆる「イマーム・アリー基地」(イマーム・アリー・コンパウンド)上空に所属不明の無人航空機(ドローン)1機が飛来、その直後に複数回の爆発が発生したのだ。

同監視団によると、イマーム・アリー基地では23日早朝に「イランの民兵」による軍事演習が行われていた。ドローンは「イランの民兵」所属機で、爆発も軍事演習での砲撃、あるいは「イランの民兵」所属のドローンの攻撃によるものと推測することもできた。

Facebook(@SadaAlSharqieh)、2020年7月16日
Facebook(@SadaAlSharqieh)、2020年7月16日

だが、この発表と前後して、イスラエル軍のアヴィハイ・アドライ報道官はツイッターのアカウントで、イスラエル軍のドローン1機がシリア領内で墜落したと発表した。ツイートの内容は以下の通りだ。

(イスラエル)国防軍所属のドローンが今日、シリア領内で通常任務中に墜落した。情報が漏洩する懸念はない。事件は調査中である。

「通常任務」が、人民動員隊、ファーティミーヤ旅団などが多く展開するシリア南東部のユーフラテス川西岸一帯での任務なのか、ヒズブッラーが展開するゴラン高原に近い南西部での任務なのかは明らかではない。

だが、ドローンの墜落は、イスラエルが、空港などのシリアの民生施設に対して頻繁にミサイル攻撃を行うだけでなく、ドローンなどによる領土領空侵犯を日常茶飯事のように行っていることを再認識させる。

イスラエルがシリアと戦争状態にあるから、こうした行為は当然だとして黙認することも可能だろう。だが、こうした姿勢は、イスラエルが日々侵犯を繰り返していることを知らないこと以上に、日本をはじめとする西側諸国にとっての存在意義(と主張するもの)である人道に背いていることは言うまでもない。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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