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ウクライナでロシア軍とともに戦闘に参加していたシリア人「傭兵」5人がヘルソン州で戦死か?!

青山弘之東京外国語大学 教授
YouTube(Malik al-Saltana)、2021年8月8日

ウクライナ軍が東部ヘルソン州に加えて、南部のヘルソン州でもロシア軍に対する反転攻勢を強めている。ヘルソン州にロシアが設置した行政機関のトップであるウラジーミル・サルド氏が10月3日に明らかにしたところによると、ウクライナ軍は前線だった地点の南約30キロにある、ドニプロ川沿いの町ドゥドチャニ付近を突破した。サルド氏によると、ウクライナ軍はいくつかの集落を制圧し、東進を続けている。

こうしたなか、英国を拠点として活動する反体制系NGOのシリア人権監視団は、ウクライナに派遣されていたシリア軍第25師団の兵士5人が10月2日に戦死したとの情報を得たと発表した。

ロシア側について戦闘に参加していたシリア人の「傭兵」の動静については、これまでにもたびたび報じられていたが、その死が伝えられたのは今回が初めてである。

シリア軍第25師団

死亡した兵士が所属するシリア軍第25師団は、「トラ」の愛称で知られ、シリア国内で高い人気を誇るスハイル・ハサン准将が司令官を務める特殊部隊。イスラーム国やシリアのアル=カーイダと目されるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が主導する反体制派との戦闘の最前線で活躍し、2019年8月に大統領府直属とされる共和国護衛隊配属となり、「トラ部隊」から現在の部隊名へと変更した。ロシアから武器・兵站物資の支援を受けている。

シリア人権監視団がシリア軍第25師団内の信頼できる複数筋から得た情報によると、シリア軍兵士は、ヘルソン州北東部のドニエプル川右岸の、ウクライナ軍が反転攻勢で支配地を回復した地域での戦闘で死亡したという。

ウクライナでのシリア軍兵士の死を報道・発表しているメディアや機関は、今のところシリア人権監視団以外にない。

シリア人権監視団の過去の発表

なお、シリア人権監視団は9月21日、ウクライナ領内に駐留していた第25師団の将兵数百人が19日から、戦闘への参加を開始したと発表していた。

ウクライナに駐留する部隊は、シリア駐留ロシア軍の司令部が設置されているラタキア県のフマイミーム航空基地で数ヵ月にわたって訓練を受けた後に、同地からロシアに移送され、ロシアが掌握するウクライナ東部および南部での軍事作戦に投入された。また、将兵の多くが、前年にロシアでの軍事教練コースに参加し、ロシア語を修得しているという。

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シリア人「傭兵」をめぐるこれまでの報道

ロシア側のシリア人傭兵については、パン・アラブ日刊紙『シャルクルアウサト(シャルク・アウサト)』が3月、2万人以上がウクライナでロシア軍とともに戦闘に参加する準備ができていると報じていた。また、『フォーリン・ポリシー』も150人とも800人とも言われている傭兵がロシア入りしたと伝えていた。

第25師団については、第25師団が3月に、ロシア行きを希望する将兵(とりわけ元反体制武装集団メンバー)の募集をシリア国内各所で開始するとともに、ロシアに代表団を派遣し現地を視察、同月から4月にかけて約700人が空挺作戦などの特殊軍事演習を受けたなどと伝えられていた。

一方、ウクライナ側が募集した外国人傭兵のなかにも、シリア人は含まれている。ロシア国防省が6月に発表したところによると、外国人傭兵の数は6,956人で、シリア人は200人いるとされた。

NHKワールド・ジャパンでの佐野圭崇記者のリポートによると、ウクライナ側のシリア人傭兵は実戦に参加しており、少なくとも10人が戦死している。

■シリア人傭兵の詳細については拙稿『ロシアとシリア:ウクライナ侵攻の論理』(岩波書店、2022年)を参照されたい。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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