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イスラエル軍がシリアをミサイル攻撃し民家などに被害、ロシア軍は電子戦システムを作動させ攻撃を妨害

青山弘之東京外国語大学 教授
SANA、2022年2月9日

首都ダマスカス一帯がミサイル攻撃を受ける

シリア・アラブ国営通信(SANA)は、シリア軍筋の話として、イスラエル軍が2月9日午前0時56分頃にレバノンの首都ベイルート南東の上空を領空侵犯、シリアの首都ダマスカス一帯の複数カ所に空対地ミサイル多数を発射、また同時10分には占領下のゴラン高原から同じく首都ダマスカス一帯の複数カ所に向けて地対地ミサイル多数を発射と伝えた。

SANAによると、これに対して、シリア軍防空部隊が迎撃を行い、ミサイルの一部を撃破したが、攻撃により兵士1人が死亡、5人が負傷、ダマスカス郊外県クドスィーヤー市の住宅や車などが被害を受けた。

SANA、2022年2月9日
SANA、2022年2月9日

攻撃を認めるイスラエル軍

これに対して、イスラエル軍のアヴィハイ・アドライ報道官はツイッターを通じて以下の通り、表明した。

昨夜、シリアから地対空ミサイル1発が発射されたことを受け、イスラエル国防軍はシリア領内の以下の標的への攻撃を実施した。レーダー、戦闘機複数機に対してミサイル複数発を発射した対空ミサイル発射台複数基。

国防軍はイスラエル国家の領空と安全保障を防衛し続ける。

シリア砲台複数基から発射されたシリアの対空ミサイル1発は空中で爆発し、迎撃するまでもなかった。これにより、ウムアルファム市、サマリア地区で夜間警報が鳴り響いた。

日本を含む西側諸国のメディアでは、同盟国でもあるイスラエル軍によるシリアやレバノンへの領空・領土侵犯、越境爆撃・砲撃について報じられることはほとんどなく、イスラエル軍がこうした侵犯行為を正式に認めることはない。だが、今回の攻撃ついて、イスラエル軍はその実施を認めるという異例の対応をとった。

シリアの反体制派の報道

英国を拠点に活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、攻撃は「イランの民兵」の拠点や武器弾薬庫などがあるとされるダマスカス郊外県の旧ダマスカス・ベイルート街道沿線の複数カ所、バラダー渓谷のジュダイダト・シーバーニー村など。

「イランの民兵」とは、シーア派宗徒とその居住地や聖地を防衛するとして、イランの支援を受けてシリアに集結し、シリア・ロシア両軍と共闘した外国人(非シリア人)民兵の総称である。イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、レバノンのヒズブッラー、イラク人民動員隊、アフガニスタン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などを指す。

今回の攻撃で死亡したのは、シリア軍防空部隊の中尉で、同地のミサイル発射台の一つに配属されていた。また、クドスィーヤー市への被害は、シリア軍防空部隊が撃破したミサイルの破片によるものだという。

一方、UAEに拠点を持つ反体制系サイトのドゥラル・シャーミーヤは、複数の地元メディアの話として、共和国護衛隊大104旅団、空軍情報部第13旅団の拠点複数カ所、ディーマース町近郊のグライダー用飛行場などが標的となったと伝えた。

ロシアの対応

他方、イスラエル公共放送協会(KAN)は、イスラエル軍戦闘機によるミサイル攻撃時、ラタキア県のフマイミーム航空基地に駐留するロシア軍が、電子戦システムを作動させたと伝えた。

ロシア軍による電子戦システムは、イスラエル軍戦闘機の着陸を妨害するためで、これによって、GPSに誤動作が生じたという。

KANによると、イスラエル軍はロシア軍に対してイスラエル国内の空港に対するレーダー妨害を停止するよう要請したが、ロシア軍は、シリア国内の自国部隊を防衛するために行っているとして、これを拒否したという。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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