米国が、ウクライナ国境地帯に10万人規模の軍を集結させているロシアに対してその撤退を強く求め、国際社会の緊張が高まるなか、シリアでもロシアと米国による軍事力の誇示が小規模ながら行われている。

ロシアは最新鋭戦闘機を配備

ロシアのニュースサイトのルスヴェスナは1月25日、ロシア軍がシリア北東部ハサカ県のトルコ国境に面するカーミシュリー市郊外のカーミシュリー国際空港に最新鋭のSu-34戦闘機複数機を配備したと伝えた。

カーミシュリー市はシリア政府と北・東シリア自治局が共同統治する都市。その大部分は北・東シリア自治局が実効支配するが、市の中心部、カーミシュリー国際空港、そして周辺の一部農村地帯はシリア政府の支配下にある。

北・東シリア自治局はトルコが「分離主義テロリスト」と位置づけるクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体。その武装部隊が、イスラーム国に対する「テロとの戦い」で米主導の有志連合が協力部隊とみなすシリア民主軍である。シリア民主軍は、PYDが結成した民兵の人民防衛隊(YPG)を主体とし、米国の全面支援を受けている。

カーミシュリー国際空港へのSu-34の配備は、イスラーム国のスリーパーセルが1月20日にハサカ市のグワイラーン刑務所で襲撃、収容されていたメンバーを脱獄させようとする事件が発生し、イスラーム国と、シリア民主軍、北・東シリア自治局の内務治安部隊(アサーイシュ)、そして有志連合との間で激しい戦闘が起きたのを受けたもの。

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ルスヴェスナは、配備について、米軍および有志連合がシリア北東部の各所に基地を設置し、違法に部隊を駐留させているにもかかわらず、グワイラーン刑務所を襲撃・占拠したイスラーム国を北・東シリア自治局の支配地から排除できないことが理由だと伝えた。

英国を拠点に活動する反体制系NGOのシリア人権監視団が1月28日に発表したところによると、カーミシュリー国際空港に配備されたSu-34は2機で、ロシア軍はこの他にも、ヘリコプター6機を配備している。シリア軍の航空機は配備されていない。

RusVesna、2022年1月25日
RusVesna、2022年1月25日

ハサカ市中心街への進入を試みる米軍

一方、グワイラーン刑務所での襲撃・脱獄事件で混乱が続くハサカ市では1月28日、米軍の装甲車2輌が、政府の支配下になる市中心部のいわゆる治安厳戒地区への進入を試みた。国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、米軍は市内のパレスチナ通りの中ほどに位置するナジュマ薬局の脇から治安厳戒地区に入ろうとしたが、同地に設置されている検問所に駐留するシリア軍兵士らがこれを阻止し、退却させた。

SANA、2022年1月28日
SANA、2022年1月28日

グワイラーン刑務所内外で続く混乱

グワイラーン刑務所では、PYDに近いハーワール・ニュース(ANHA)によると、アサーイシュの緊急対応部隊(Hevalno Asayîşe Rojava、HAT)とシリア民主軍のテロ撲滅部隊(Yekîneyên Antî Teror、YAT)の支援を受けて、施設内での捜索・掃討活動を継続した。

シリア人権監視団によると、アサーイシュとシリア民主軍は、刑務所があるグワイラーン地区、その南側に隣接するズフール地区、ブーマイーシュ地区、ナースィラ地区などでも捜索・掃討活動を行ったが、刑務所内ではYATの隊員がイスラーム国のメンバーによって銃で撃たれて死亡した。

ANHA、2022年1月28日
ANHA、2022年1月28日

シリア民主軍は1月26日にグワイラーン刑務所を完全制圧したと発表したが、施設内には依然として数十人が立て籠もって、抵抗を続けている。

なお、シリア人権監視団によると、1月20日以降の戦闘での刑務所襲撃・脱獄事件に伴う戦闘での死者は262人となった。内訳は、イスラーム国メンバー181人、シリア民主軍、アサーイシュ、刑務所守衛74人、住民7人。