シリア北部では、6月6日に「決戦」作戦司令室がシリア政府の支配下にあるイドリブ県ルワイハ村を砲撃し、ロシア軍兵士が死亡して以降、シリア軍の砲撃とロシア軍が反体制派の支配地域(いわゆる「解放区」)への爆撃を激化、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構とトルコの庇護を受ける国民解放戦線(シリア国民軍)などからなる武装連合体の「決戦」作戦司令室とそれを支援するトルコ軍による応戦が続いている。

両者の戦闘は、カザフスタンの首都ヌルスルタン(旧アスタナ)でのロシア、トルコ、イランを保証国とする停戦プロセスのアスタナ16会議の開催(7月7~8日)、国連安保理での越境(クロスボーダー)人道支援の期間延長にかかる決議(国連安保理決議第2585号)の採択(7月9日)に合わせて小康状態に入った。だが、ここに来て戦闘は再び激しさを増している。

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ロシア軍

ロシア軍は、アスタナ16会議が閉幕した翌日の7月9日と10日、「決戦」作戦司令室の支配下にあるラタキア県北東部のカッバーナ村一帯とイドリブ県ザーウィヤ山地方のジューズィフ村一帯を複数回にわたって爆撃した。

シリア軍

だが、より激しい攻撃を行っているのはシリア軍だ。

シリア軍は7月9日にイドリブ県ザーウィヤ山のバーラ村にあるトルコ軍の拠点一帯を砲撃し、トルコを挑発した。また、7月10日にも同地一帯を砲撃し、これにより住民1人が死亡した。

7月12日には、イドリブ県北東部のタフタナーズ市の東に位置するアルビーフ村にあるアフラール軍(国民解放戦線に所属)の拠点を砲撃、戦闘員2人を殺害したほか、ハマー県ガーブ平原各所を砲撃、フマイマート村では女児1人が巻き添えとなって死亡した。

そして、7月15日、シリア軍は再び砲撃を強め、イドリブ県北東部のフーア市近郊(水泳用プール一帯)、県南部のイブリーン村を砲撃した。これにより、フーア市近郊で6人が死亡、7人が負傷、イブリーン村では女性と女児を含む3人が死亡、4人が負傷した。シリア軍はまた、アレッポ県西部のタディール村に対しても砲撃を行い、住民1人が死亡した。

トルコ軍

これに対して、トルコ軍は、政府支配下のイドリブ県マアッラト・ヌウマーン市一帯を砲撃するなど報復を行った。だが、主要な標的は「解放区」ではなく、シリア政府と北・東シリア自治局が共同統治するアレッポ県北部に定められた。

北・東シリア自治局は、トルコが「分離主義テロリスト」とみなすクルド民族主義勢力の民主統一党(PYD)が主導する自治政体。

トルコ軍は7月11日、タッル・リフアト市を無人航空機(ドローン)で爆撃、これにより子供1人を含む住民4人が負傷した。

また、7月15日に、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるマンビジュ市北東のジャトル村一帯に潜入を試みたシリア国民軍らがシリア民主軍傘下のマンビジュ軍事評議会の迎撃を受けて死傷(2人死亡、4人負傷)すると、トルコ軍はシリア国民軍とともに、タッル・リフアト市近郊のマルアナーズ村、アルカミーヤ村、アキーバ村、バイナ村、ダイル・ジャマール村、ズィヤーラ村、アイン・ダクナ村、マンナグ村、バイルーニーヤ村を激しく砲撃した。

シリア国民軍は、トルコ占領地で活動する反体制武装集団で、「トルコの支援を受ける自由シリア軍」(Turkish-backed Free Syrian Army:TFSA)として知られ、リビア、アゼルバイジャンなどでトルコの傭兵として派遣されている。

シリア民主軍

トルコ軍に対抗したのは、ロシア軍でもシリア軍でもなく、北・東シリア自治局の防衛にあたるクルド民族主義民兵組織の人民防衛隊(YPG)を主体とするシリア民主軍だった。

シリア民主軍は7月13日、トルコが占領するラッカ県のタッル・アブヤド市近郊に位置するタルワーズィーヤ村一帯に潜入、同地に設置されているシリア国民軍の拠点を急襲し、戦闘員1人を殺害、5人を負傷させた。

また、7月15日のトルコ軍とシリア国民軍がタッル・リフアト市一帯を激しく砲撃すると、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治地域からトルコの占領下にあるアフリーン市の住宅街に対して砲撃が行われ、子供1人を含む2人が死亡、女性と子供を含む10人が負傷した。

砲撃は、シリア民主軍、ないしは同組織の傘下にあるアフリーン解放戦線によるものと見られる。

シリア国内での戦闘が大きく報じられることがなくなって久しいが、同地での暴力の連鎖は今も続いている。