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シリア北西部でロシア・シリア軍とトルコ軍・反体制派の戦闘が続く:大規模軍事作戦の可能性は低い

青山弘之東京外国語大学 教授
Twitter (@Defense_Syr)、2021年6月24日

シリア北西部のイドリブ県、同地に隣接するハマー県北西部とアレッポ県東部では、6月24日もシリア軍とトルコ軍、そしてその支援を受ける「決戦」作戦司令室の戦闘が続いた。

「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構とトルコの庇護を受ける国民解放戦線(シリア国民軍)などからなる武装連合体。シャーム解放機構は、政府の支配が及ばないイドリブ県中北部などのいわゆる「解放区」の主要各所の軍事・治安権限を掌握、シリア救国内閣を称する組織に同地の統治を委託している。

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英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団によると、「決戦」作戦司令室は、政府の支配下にあるイドリブ県のカフルナブル市、マアッラト・ヌウマーン市、ダーナー村、ダール・カビーラ村を砲撃した。

これに対して、シリア軍は「決戦」作戦司令室の支配下にあるM4高速道路沿線のアリーハー市、ザーウィヤ山地方のフライフィル村、バイニーン村、マンタフ村、ハマー県ガーブ平原のヒルバト・ナークース村、カーヒラ村、ズィヤーラ町、ザイズーン村一帯、アレッポ県タカード村、バルナター村、ハバータ村、バフフィース村、カフル・アンマ村を砲撃、アリーハー市で住民1人が負傷した。

シリア軍は「決戦」作戦司令室に限定されず、停戦監視を名目としてイドリブ県各所に基地や拠点を設置しているトルコ軍も標的とし、県中部のナフラヤー村、マジャーズィル村、そして政府支配下のサラーキブ市に隣接するかたちで設置されているトルコ軍の拠点3カ所を砲撃した。

これに対して、トルコ軍は、「決戦」作戦司令室とともに、政府の支配下にあるアレッポ市東の第46連隊基地、ミーズナーズ村、カフル・ハラブ村を砲撃した。

さらに、シリア軍を支援するロシア軍も、「決戦」作戦司令室の支配下にあるイドリブ市近郊のアイン・シーブ村を3度にわたって爆撃した。ロシア軍による爆撃は6月12日以来12日ぶり。

ロシア・トルコ首脳が電話会談

シリア北西部での戦闘が続くなか、ロシアのヴラジミール・プーチン大統領とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が電話会談を行った。

ロシア大統領府によると、会談では、シリア情勢などについて協議、イドリブ県での事態悪化を阻止し、同地におけるテロ組織を撲滅するため、両国による共同行動がきわめて重要であることが確認された。

また、ロシア軍参謀本部のヤロスァヴ・モスカィク(Yaroslav Moskalik)作戦局長は、第9回国際安全保障モスクワ会議で、7月6日から8日までの予定で、カザフスタンの首都ヌルスルタン(旧アスタナ)で、アスタナ16会議を開催することを明らかにした。

シリア北西部で6月6日以降激化している戦闘に関して、トルコのガジアンテップ市で活動する「無所属系シンクタンク」のジュスール研究センターは、シリア情勢をめぐってトルコと米国の間に歩み寄りが見られること、トルコがシリア北西部ではなく、米国を後ろ盾としているクルド民族主義勢力の民主統一党(PYD)が支配するシリア北東部の情勢により強い関心を持っていることにロシアが不満を抱いており、トルコとの信頼関係を確認するためにロシアが攻撃をしかけているとの見方を示している。それゆえ、同センターによると、ロシア・シリア軍がシリア北西部で大規模な軍事作戦に踏み切る可能性は低いという。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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