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シリアで所属不明の戦闘機、イスラエル軍、そしてロシア軍による爆撃が再び激化

青山弘之東京外国語大学 教授
Ebaa News、2020年8月3日

イスラーム教の復活祭(イード・アドハー)休暇の最終日にあたる8月3日、シリアで再び爆撃が激化した。

爆撃を行ったのは、シリア内戦をめぐるプロパガンダにおいて、やり玉に挙げられてきたシリア軍ではない。

所属不明の戦闘機による爆撃

時系列を追って見ていこう。

8月3日午前5時頃、所属不明の戦闘機複数機が、シリアの南東部、ダイル・ザウル県のイラク国境に近いユーフラテス川西岸のブーカマール市一帯に対して激しい爆撃を加えた。

英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団や反体制系サイトのEldorarによると、狙われたのは、同地に展開する「イランの民兵」の拠点複数カ所。

爆撃は、イマーム・アリー基地(イマーム・アリー・コンパウド)と呼ばれる巨大軍事拠点、鉄道線路、砂漠地帯奥地にも及び、武器弾薬庫などが破壊され、アフガン人民兵組織のファーティミーユーン旅団の民兵ら15人あまりが死亡したという。

イマーム・アリー基地(Fox News、2019年12月12日)
イマーム・アリー基地(Fox News、2019年12月12日)

ロシア軍の爆撃

3日早朝、シリア軍が、「決戦」作戦司令室の支配下にある北西部のラタキア県クルド山地方にあるハッダーダ丘一帯に進攻し、同作戦司令室と激しい戦闘状態となった。

ハッダーダ丘は、ラタキア市とアレッポ市を結ぶM4高速道路が通りイドリブ県のジスル・シュグール市、ビダーマー町を見下ろすことができる戦略的要衝。

「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構とトルコの庇護を受ける国民解放戦線(国民軍)などからなる武装連合体。トルコが全面支援している。

シリア人権監視団によると、この戦闘で、シリア軍兵士12人が死亡、17人以上が負傷、また、「決戦」作戦司令室側も、シャーム解放機構の戦闘員4人、国民解放戦線の戦闘員2人が死亡した(Eldorarによると、シリア軍側の死者は35人、負傷者は40人)。

戦闘の激化を受けて、ロシア軍戦闘機複数機が出撃し、ハッダード丘のほか、「決戦」作戦司令室の支配下にあるカッバーナ村、トゥッファーヒーヤ村、ハッダーダ村を激しく爆撃し、同地に砲撃を加えるシリア軍を支援した。

ロシア軍の爆撃で発生した火災(Ebaa News、2020年8月3日)
ロシア軍の爆撃で発生した火災(Ebaa News、2020年8月3日)

対するトルコ軍も武装した偵察機を派遣、上空から偵察監視活動を行った。

シリア軍とロシア軍の攻撃は、イドリブ県にも及んだ。Eldorarによると、シリア軍は「決戦」作戦司令室支配下のビンニシュ市を砲撃、ロシア軍も同市を爆撃、ロシア軍の爆撃で、子供2人を含む住民4人が死亡した。

シリア軍はまた、ザーウィヤ山地方のカンスフラ村、ダイル・サンバル村を砲撃した。

これ対して、トルコ軍はシリア政府の支配下にあるサラーキブ市一帯を砲撃した。

戦闘は12時間あまりにわたって続いた。

イスラエル軍の爆撃

そして、8月3日午後11時頃、イスラエルの占領下にある南西部ゴラン高原で爆撃が行われた。

イスラエル軍のアヴィハイ・アドライ報道官はツイッターのアカウントで、ゴラン高原南部のイスラエル占領地に沿って設置されている有刺鉄線に4人組の男たちが近づき地雷を敷設、イスラエル軍がこれに爆撃を加えたと発表し、映像を公開した。

アドライ報道官はまた、電話でのブリーフィングのなかで、4人組が「イスラエル領内にいたが、有刺鉄線の向こう側だった」としたうえで、イスラエル軍特殊部隊がライフル銃による攻撃を受けたため、爆撃で応戦したことを明らかにした。

この交戦でのイスラエル側の死傷者はなく、4人組は全員が死亡したものと見られるという。

アドライ報道官によると、イスラエル軍は数日前にも、境界地帯に接近する「羊飼い」の疑わしい動きを監視していたとしたうえで、「我々はこうした試みをヒズブッラーによる脅迫と結びつけることはできていない。しかし、我々は現時点でその可能性は否定しない」と付言した。

これに対して、シリア軍筋は、イスラエル軍ヘリコプター複数機が午後10時40分、クナイトラ県の前線に配置されているシリア軍の拠点複数カ所に向けてミサイルを発射したと発表した。

ミサイル攻撃による被害は物的なものに限られたという。

また、これと前後して、国営テレビ局(al-Ikhbariya)は、シリア軍が首都ダマスカス南西上空でイスラエル軍の攻撃に対して地対空ミサイルで応戦したと伝えた。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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