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シリアのアサド大統領は国会選挙を前にバアス党員に「この戦争は我々にさらなる責務を課している」と訓示

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

シリアのバッシャール・アサド大統領は、7月19日に投票が予定されている第3期人民議会(国会)の選挙戦が本格化するのを前に、自らが党首(中央指導部書記長)を務める与党のバアス党の党員に向けて文書で訓示を与え、そのなかで一般党員の投票を通じて党の候補者を選ぶと発表した。

2012年の新憲法公布後3度目となる人民議会選挙は、4月13日に投票が予定されていた。だが、新型コロナウイルス感染症拡大を受けて、2度にわたり延期されていた(「シリアのアサド大統領はコロナ禍を受け、2度目となる人民議会(国会)選挙の延期を決定」を参照)。

「啓発」(イスティイナース)と名づけられた一般党員による候補者選出のプロセスは党史上初めての試み。

バアス党はこれまで、指導部が人民議会選挙の立候補者してきたが、第3期人民議会選挙では、一般党員が候補者に投票を行い、その結果を踏まえて指導部が候補者リストを作成することが決定された。

優秀な人材が失われたと自己批判

アサド大統領は訓示のなかで次のように述べ、詳細についての言及は避けつつも、党が過ちを犯したと自己批判し、それによって人材が失われたことを認めた。

我らが党は、長く豊かな歴史と経験を有する古(いにしえ)の党である。祖国と民族の場での数年にわたる闘争がその経験を豊かなものとしてきた…。この年月は、思想、犠牲、そして建設といった輝かしいいくつもの場面で祝福を受けてきた。

しかし、党は過ちを免れることはできなかった。それは、他の多くの政党においても生じたものではあったが、幾つかの段階において党の役割を減退させ、別の段階において党のイメージを損ねた。

また、党の愛国的な責務を果たすことを一部党員が避け、有能な党員の多くが失われた。彼らは、こうした過ちが党の道徳、価値観、そしておそらくは目標からの乖離だと考えた。

戦争を戦うことが最終戦課題

アサド大統領は、2000年に就任した当初はその改革志向で知られていた。だが、イラク戦争(2003年)、レバノンのラフィーク・ハリーリー元首相暗殺事件(2005年)、レバノン紛争(2006年)など、シリアをめぐる地域国際情勢の変化に対処するため、国内での改革の猶予を余儀なくされたと繰り返してきた。

2011年に「アラブの春」が波及すると、「包括的改革プログラム」と銘打って新憲法制定を含む抜本的内政改革を敢行した。だが、その後、「シリア内戦」と呼ばれることになる国内の混乱に対処するため、2013年になると、西側諸国やアル=カーイダ系組織との「真の戦争状態」を強調するようになった。

こうした経緯を踏まえるかたちで、アサド大統領はこう述べ、バアス党にとっての最優先課題が依然として戦争にあることを再確認している。

古(いにしえ)の政党は、現状に屈せず、変化に迎合はしない。優先事項の変更はその基礎を廃するものではない。軍事的、経済的な種々の戦争、そして心理戦を戦うには、強力な教義が必要である。そして教義には思考が必要で、思考には教義の維持・発展を支える組織が必要である。

我々は今日もなお、何よりもまず意識を歪め、価値観や原理原則を打ち砕こうとする複雑な戦争のただ中にある。この戦争は、我々にこれまで以上の責務を課している。我らの祖国は、絶大な危機や困難に直面し、世界中の主要な諸政党も思想や能力面での衰退の危機に直面している。にもかかわらず、我らが党は、諸々の脅威や困難な状況に対峙するためだけでなく、自体の精神や要請に応えるため、自らの能力を再び強化している。

党員に候補者選びに積極的に参加するよう呼びかける

アサド大統領はそのうえで、次のように述べて、バアス党内で候補者を選出するための「啓発」プロセスを開始すると表明、党員にこのプロセスの異義を説くとともに、積極的な参加を呼びかけた。

党内選挙は常に、党の政治活動の重要な場面の一つである。党における民主的経験を進化させる方途であり、党とその支持基盤の間の健全な関係を作り出す基礎である。

同志たちは党内の様々な場で、洗練された民主的方法で、そして自らが責務を担っていることを意識して、候補者を選んできた。

あなた方は今日、我らが党の支持基盤に身を置き、より広範な人民諸階層を代表し、その要求を代弁することで、党の力を確固たるものにする責務を担っている。

人民議会選挙の候補者を決定するための「啓発」プロセスの試みは、バアス(復興)の原動力、発展、適用力、そして未来への展望を明確に示すことに他ならない。これは、党の活動の仕組みを刷新するうえで重要なステップであり、党の同志たちは、透明性と責任をもって、自らの選択、候補者を決める機会を得ることになる。さらに、党の同志一人一人がこのプロセスに参加することで、この責務を果たすことができるより有能な党員を党として選ぶことに資する。そして、人民議会選挙において、党の同志がこの「啓発」プロセスに引き続き積極的に参加することが、課せられた責務となるのだ。

正しい選択肢とは、望ましい結果をもたらすことだ。適任者を選び、愛国心と無縁な問題を勘定に入れてはならない。狭量な忠誠心、客観的でない考慮、そして党の愛国的で民族的な教義になじまない感情を廃して選ぶべきだ。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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