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イスラエル軍がシリア中部を無人航空機で攻撃する一方、「イランの民兵」も1ヵ月ぶりに米軍基地を攻撃

青山弘之東京外国語大学 教授
Alwatanonline、2024年5月20日

攻撃したとの発表は誰もしていない。だが、シリアでは5月20日、パレスチナ・ガザ地区で続く衝突の当事者たちが戦火を交えた。

狙われるヒズブッラーのメンバー

英国で活動する反体制派系NGOのシリア人権監視団によると、イスラエル軍は、レバノンのヒズブッラーが本部として使用しているシリア中部ヒムス県クサイル市のナービガ・ズブヤーニー学校を攻撃、これによってレバノン人メンバー4人とシリア人2人が死亡した。

複数筋によると、攻撃はイスラエル軍の無人航空機1機によるもの。同機は、車輛1台がレバノンからジュースィーヤ国境通行所を経由してシリアに入り、クサイル市の本部に向かったことを受け、車輛を追尾するかたちで爆撃を行ったという。

イスラエル軍は5月18日にも、ヒズブッラーの司令官と護衛が乗った車輛1台がレバノンからシリアに入ったのを狙って、ダマスカス郊外県ディーマース町近郊にあるシリア軍第4師団の検問所近くを無人航空機1機で攻撃している(シリア・アラブの春顛末記「イスラエル軍の無人航空機1機がダマスカス郊外県ディーマース町近郊のシリア軍第4師団の検問所の近くで車1台を爆撃、この車を破壊、乗っていたヒズブッラーの司令官ら2人の消息は不明(2024年5月18日)」を参照)。

イスラエル軍はまた、ヒムス市南東部のアウラース地区にあるガソリン・スタンド近くの2ヵ所を爆撃、シリア人権監視団によると、これにより17人が負傷した。

これに関して、ロシアのスプートニク・アラビア語版は、シリア軍防空部隊がイスラエル軍の攻撃に対して迎撃、市内周辺で複数回の爆発が発生、これにより1人が死亡、9人が負傷したと伝えた。また、シリアの日刊紙『ワタン』(ワタンオンライン)は、ヒムス市南部へのイスラエル軍の攻撃で1人が死亡、4人が負傷したと伝えた。

イスラエルが狙ったヒムス市南東部には、「イランの民兵」が使用しているとされる「イブン・ハイサム・キャンプ」として知られるキャンプがある。

報復合戦

クサイル市とヒムス市に対するイスラエル軍の攻撃を受けるかたちで、ダルアー県で報復と見られる反撃が試みられた。

シリア人権監視団によると、シリア南東部のダルアー県からイスラエルの占領下にあるゴラン高原に向けて無人航空機複数機が発進したのだ。

これに対して、イスラエル軍戦闘機複数機がダルアー県西部農村地帯に超低空で侵入、無人航空機を迎撃した。

イスラエル軍は午後11時32分、テレグラムの公式アカウントを通じて、イスラエル軍ジェット戦闘機複数機が、シリアからイスラエルに接近する不審な空中標的1つを迎撃することに成功したと発表した。

発表によると、標的はイスラエル領内(占領下ゴラン高原領空)には侵入できず、イスラエル国内での負傷者もなかったという。

一方、シリア南東部でも動きが見られた。

ダイル・ザウル県では、「イランの民兵」所属の無人航空機1機がCONOCOガス田に違法に設置されている米軍(有志連合)基地への攻撃を試み、米軍が防空兵器でこれを撃墜したのだ。シリア領内の米軍基地に対する攻撃は、4月20日以来約1ヵ月ぶりである(シリア・アラブの春顛末記「ダイル・ザウル県CONOCOガス田に違法に設置されている米軍(有志連合)の基地が、イランの支援を受けるグループの無人航空機(ドローン)1機を基地近くの上空で迎撃(2024年4月20日)」を参照)。

一連の攻撃について、イスラエルも、ダルアー県やクナイトラ県でヒズブッラーとともに活動する武装勢力も、ダイル・ザウル県で活動する「イランの民兵」も、実行声明は出していない。また、シリア政府側もシリア領内で行われたとは発表していないし、米国もシリア領内の基地が攻撃を受けたとの声明は出してない。

シリアに対するこれまでのイスラエルの攻撃

シリア人権監視団によると、イスラエル軍によるシリアへの攻撃は、5月に入って6回目、今年に入って40回目(うち28回が航空攻撃、12回が地上攻撃)で、これにより81あまりの標的が破壊され、軍関係者137人が死亡、57人が負傷しているという。

軍関係者の死者内訳は以下の通りである。

  • イラン人(イラン・イスラーム革命防衛隊):21人
  • レバノンのヒズブッラーのメンバー:24人
  • イラク人:12人
  • 「イランの民兵」のシリア人メンバー:30人
  • 「イランの民兵」の外国人メンバー:10人
  • シリア軍将兵:40人

また、民間人も12人が死亡、20人あまりが負傷している。

攻撃の県別内訳は以下の通りである。

  • ダマスカス県、ダマスカス郊外県:18回
  • ダルアー県:13回
  • ヒムス県:4回
  • クナイトラ県:3回
  • タルトゥース県:1回
  • ダイル・ザウル県:1回
  • アレッポ県:1回

米軍基地に対するこれまでの攻撃

また、2023年10月19日以降、シリア領内に違法に設置されている米軍(有志連合)の基地に対する攻撃の回数は128回に達しており、その内訳は以下の通りである。

ダイル・ザウル県

  • ウマル油田基地:35回
  • CONOCOガス田基地:37回

ハサカ県

  • シャッダーディー市基地:16回
  • ハッラーブ・ジール村基地:19回
  • タッル・バイダル村基地:2回
  • ルーバールヤー村基地:2回
  • カスラク村基地:1回
  • ワズィール休憩所基地:1回

ヒムス県

  • タンフ国境通行所基地:15回
東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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