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米軍とロシア軍の部隊は、シリア北東部辺境地帯で住民らの抵抗に直面しながらも、覇権争いを続ける

青山弘之東京外国語大学 教授
SANA、2020年6月2日

シリア軍と住民が米軍の進行を阻止

シリア北東部のハサカ県では、国営のシリア・アラブ通信(SANA)やロシア・トゥデイ(RT)によると、シリア軍兵士と住民が6月2日、アブー・ラースィーン町(クルド語名はザルカーン)西のダルダーラ村の街道で、米軍装甲車8輌からなるパトロール部隊の進行を阻止し、退却させた。

SANA、2020年6月2日
SANA、2020年6月2日

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、米軍部隊はタッル・タムル町方面に向かって進んでいたが、ダルダーラ村で進行を阻止され、側道を迂回、ロシア軍基地の後背地に到達、そこに新たな検問所を設置したという。

ロシア軍も住民の抵抗を受ける

同じく、ハサカ県では、シリア人権監視団によると、ロシア軍装甲車約15輌からなる部隊が6月2日、ヘリコプター2機を伴ってトルコ国境に面するマーリキーヤ市(クルド語名はダイリーク)に近いカーサーン村に入り、軍事基地を設置しようとしたが、地元の住民の抵抗を受けて、退却を余儀なくされた。

シリア人権監視団、2020年6月2日
シリア人権監視団、2020年6月2日

ロシア軍部隊はその後、カスル・ディーブ村に向かったが、そこでも住民の抵抗にあった。

しかし、ロシア軍は6月3日に再びカスル・ディーブ村に部隊を派遣し、基地の設営を敢行した。

Facebook(Vedeng)、2020年6月3日
Facebook(Vedeng)、2020年6月3日

ロシア軍は5月28日、イラク・トルコ・シリア国境が交わるマーリキーヤ市東の辺境地域に初めて部隊を派遣し、カスル・ディーブ村の学校を基地に転用するための作業を開始していた(「シリア北東部でロシア軍が米軍と初の合同パトロールを実施、国境地帯での影響力強化か?(映像あり)」を参照)。

米軍がロシア軍の進行を阻止

ロシア軍がハサカ県北東部の辺境地帯に影響力を強めようとしているなか、米軍部隊は6月3日、マーリキーヤ市に入ろうとしたロシア軍パトロール部隊の進行を阻止した。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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