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シリア北東部でロシア軍が米軍と初の合同パトロールを実施、国境地帯での影響力強化か?(映像あり)

青山弘之東京外国語大学 教授
Facebook(シリア人権監視団)、2020年5月28日

ロシア軍と米軍が初となる合同パトロールを実施

シリア北東部のハサカ県では、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、ロシア軍部隊が5月27日、トルコ国境に近いジュワーディーヤ(クルド語名「ジル・アーガー」)村近郊のダイルナー・アーガー村一帯で米軍部隊と合同パトロールを実施した。

ロシア軍と米軍によるシリア領内での合同パトロールは今回が初めて。

両軍はこれまで、ハサカ市とアレッポ市を結ぶM4高速道路沿線などで互いのパトロール活動を妨害するなど、険悪な関係にあった。だが、同地では、5月17日にトルコ軍の国境警備隊員が同地北の国境地帯でシリア人農夫を射殺したことを受けて、緊張が高まっていた。

ユーフラテス川以東のシリア・トルコ国境は、2019年10月のトルコによる「平和の泉」侵攻作戦にかかる停戦合意で、トルコ占領下の「平和の泉」地域(ラッカ県北部およびハサカ県北西部)を除き、ロシア軍とトルコ軍が共同で安全確保にあたることが定められている。

筆者作成
筆者作成

ロシア軍と米軍による初の合同パトロールは、この合意を踏まえて、緊張事態の当事者であるトルコ軍に代わって参加するかたちで実現した。

米軍がロシア軍のパトロール部隊に対峙、住民が米軍に投石

しかし、ハサカ市とアレッポ市を結ぶM4高速道路では、5月28日、米軍の装甲車2輌がタッル・タムル町近郊のM4高速道路沿線に展開し、パトロールを実施するロシア軍部隊に対峙した。

米軍装甲車が通過するロシア軍部隊の進行を阻止することはなかったが、国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、カーヒラ村とダシーシャ村の住民が米軍の装甲車に投石などを行い、米軍は退去を余儀なくされた。

Facebook(シリア人権監視団)、2020年5月28日
Facebook(シリア人権監視団)、2020年5月28日

ロシア軍がトルコ・イラク国境に近いハサカ県北東部に新たな基地を設置

ハサカ県ではこのほかにも、ロシア軍が5月28日、イラク・トルコ・シリア国境が交わるマーリキーヤ(ダイリーク)市西のカスル・ディーブ村に装甲車12輌からなる車列を派遣した。

ロシア軍がイラク・トルコ・シリア国境に到達するのは初めてで、ヘリコプター2機を伴った車列は、同地に軍事基地を設営した。

イドリブ県ではトルコ軍と合同パトロールを実施したロシア軍が投石を受ける

一方、イドリブ県では、反体制系のEldorarなどによると、ロシア軍とトルコ軍が5月28日、M4高速道路で合同パトロールを実施した。

両軍部隊はこの日、サラーキブ市の西に位置するタルナバ村を出発し、アリーハー市を経由して、同市西のアウラム・ジャウズ村までの区間を巡回した。

沿線にはトルコ軍部隊が展開し、警戒活動にあたったが、各所で住民や戦闘員が投石などを行い、抗議の意思を示した。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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