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シリアで新型コロナ感染者が初めて確認される中、ホワイト・ヘルメットは政府への制裁継続を呼びかける

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

シリアで初の感染者

シリアのニザール・ヤーズジー保健大臣は22日、国内で1人が新型コロナウィルスに感染していることが確認されたと発表した。

シリアで感染者が確認されるのはこれが初めて。

ヤーズジー保健大臣は、記者らとの会見で、帰国者に対して行われている検査の結果、湾岸諸国から帰国した20代の女性1人から陽性反応が出て、新型コロナウィルスへの感染が確認されたと述べた。

ヤーズジー保健大臣は、保健省が現在、この女性を隔離するなど必要な措置を講じているとしたうえで、隔離は14日間行われる予定で、回復するまで4日毎にウィルス検査が実施される予定だと付言した。

感染が確認された女性には、帰国時に感染の症状は見られなかったという。

SANA、2020年3月22日
SANA、2020年3月22日

シリア人権監視団の発表

一方、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団は22日、「信頼できる複数の医療筋」の話として、女性1人が新型コロナウィルスに感染して死亡したが、治安当局が箝口令を敷き、事実を公表していないと発表した。

なお、同監視団によると、ダマスカス県、ヒムス県、ラタキア県、タルトゥース県で新型コロナウィルスへの感染を疑われ、隔離されている患者は128人で、うち56人は検査結果が陰性だったために帰宅したが、72人は現在も隔離されているという。

また、ダイル・ザウル県のマヤーディーン市でも、新型コロナウィルスに感染している「イランの民兵」が15人に達しているという。内訳は、イラン人11人、イラク人4人。同市では、イラン人1人が肺炎で死亡したが、新型コロナウィルスが原因かどうかの事実確認はとれないという。

ハミース内閣が新たな措置を決定

イマード・ハミース内閣は22日の閣議で、新型コロナウィルス対策として、23日午後8時から24日夕刻まで、各県内、および県外の公共および民間の交通機関の運行を停止することを決定、各省庁、組合、民間の生産施設に対して、従業員の移動手段を確保するよう要請した。

また、保健省などが作成した今後6ヶ月の新型コロナウィルス対策案を承認、隔離センターを増設するとともに、各県に19の緊急監視チームを発足させ、ダマスカス県、ラタキア県、アレッポ県に世界保健機構(WHO)と連携してウィルス感染診断用のラボを設置することを決定した。

レバノンからの入国を全面禁止

内務省は、新型コロナウィルス感染予防策として、3月23日正午から追って通知があるまでの期間、レバノンからのシリア人および外国人の入国を全面禁止することを決定した。

ただし、貨物車輌の運転手の入国は除外される。

紙媒体での新聞の発行停止

情報省は、新型コロナウィルス感染予防策として、22日から追って通知があるまでの期間、紙媒体の新聞の発行中止を要請することを決定した。

これを受け、バアス党の機関紙『バアス』、人民議会(国会)に近い『サウラ』、大統領府に近い『ティシュリーン』、民間の『ワタン』が要請に応じた。4紙はインターネットを通じた記事の配信は続けるという。

また、バアス党が主導する連立与党連合である進歩国民戦線のムハンマド・シャッアール副書記長と労働者総連合のジャマール・カーディリー総裁は、戦線加盟政党と組合に対して紙媒体での機関紙の発行を中止するよう要請した。

シリアのアル=カーイダも対策を講じる

イドリブ県の反体制派支配地の軍事・治安権限を握るシリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構に自治を委託されている救国内閣は、新型コロナウィルス感染防止策として、支配地域(いわゆる「解放区」)内のパン製造業者に対して、施設の殺菌と清掃のための費用として、パン1袋に対して2シリア・ポンドを上乗せすると通達した。

救国内閣はまた、すべてのパン製造業者に対し、手洗いの徹底、施設の塩素消毒、マスクの着用、パンの袋の密閉など、衛生管理にかかる指示を遵守し、従業員に周知徹底するよう要請した。

「解放区」で4人が検査を受ける

「解放区」で保健衛生活動を行っているイドリブ保健局のムンズィル・ハリール局長はフェイスブックを通じてビデオ声明を出し、トルコ国境に面するアティマ村の病院で新型コロナウィルスへの感染の疑いのある4人を隔離し、検査を行ったことを明らかにした。

ハリール局長は「検査はまだ不充分で、結果を確認するには時間を要する」と述べ、この4人の感染を否定、「「解放区」に感染者がいるかもしれないが…、分析結果が届くまで確認することはできない」と付言した。

Facebook、2020年3月22日
Facebook、2020年3月22日

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ホワイト・ヘルメットは新型コロナウィルスを口実としたシリア政府の制裁解除要求に応じないよう呼びかける

ホワイト・ヘルメットは「市民の尊厳のためのシリア協会」と共同声明を出し、新型コロナウィルス感染拡大の脅威を口実としてシリア政府が国際社会に求めている制裁解除に応じないよう呼びかけた。

シリアの外務在外居住者省の公式筋は19日に、近隣諸国で新型コロナウィルスの感染が拡大しているなか、国際社会に対して、シリアに対する欧米諸国の違法な強制措置を解除するために行動するよう呼びかけていた。

共同声明は「医療部門はシリア政府に対する制裁からそもそも除外されている」、「シリア政府は支配地域での感染者の存在を否定している」、「感染拡大に向けた実効的な措置を講じていない」などといった理由をあげて、政府の制裁解除要求に「仰天している」と表明した。

また「これまでの経験から、シリア政府への経済支援は、体制そのものとその汚職のネットワークを支えるために利用される。医療支援が人々に直接行われなければ、必要としている人のもとにそれが届くことはない」と断じた。

さらに「体制はこれまで、シリア人の健康に絶大な関心を払ってきた病院を破壊し、医療スタッフを殺害してきた」と非難、「体制にいかなる支援を行っても…、さらなる殺戮、抑圧に向けられ、尊厳や健康な生活といった基本要素をシリア人から奪うことに繋がる」と主張した。

そのうえで、WHOに対して、感染拡大を阻止するために必要な措置を講じさせるようシリア政府に圧力をかけることを求めるとともに、国連や国際機関に対して、体制が管理する刑務所に立ち入り、受刑者の感染状況を調査、必要な治療を施すよう呼びかけた。

Twitter、2020年3月22日
Twitter、2020年3月22日

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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