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「爆撃が落ちたら笑おう」のサルワちゃん一家がシリアからトルコへ、なぜ?

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

「爆撃が落ちたら笑おう」のサルワちゃんトルコへ

トルコ国営のアナトリア通信は26日、アブドゥッラー・ムハンマドさんと娘のサルワちゃんがイドリブ県からトルコに無事に脱出したと伝えた。

ムハンマドさんは、サルワちゃんを安心させるためとして、「爆撃が落ちたら笑おう」というゲームを考え、サルワちゃんが爆音が聞こえる度に声を出して笑う映像を21日にネットで公開していた。

この映像はSNSを通じて拡散され、欧米メディアも取り上げていた(Yahoo! Japanニュース配信記事および筆者によるオーサーコメント)。

ムハンマドさん一家はM5高速道路とM4高速道路が交わる要衝のサラーキブ市を追われて、サルマダー市の友人宅に身を寄せていた。

サラーキブ市は2月5日にシリア軍によって制圧されたが、トルコ軍の砲撃を受ける反体制派が反転攻勢を強め、奪還を狙っている。

反体制派とは、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構、トルコの庇護を受ける国民解放戦線(国民軍)などからなる「決戦」作戦司令室のこと。

だが、アナトリア通信は「彼女(サルワちゃん)が「安全で安心に暮らせるようトルコに連れられてきました」としたうえで、一家がトルコで新生活を始めたと伝えた。

異例の待遇

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は2月14日、2019年12月1日以降のイドリブ県やアレッポ県でのシリア・ロシア軍と反体制派・トルコ軍の戦闘で、80万人以上が国内避難民(IDPs)となり、そのなかの少なくとも60%が子どもだと発表し、警鐘を鳴らしている。

しかし、トルコはイドリブ県での戦闘を逃れて、国境地帯に殺到しているシリア人を難民として受け入れることを拒否し、国境を閉ざしている。また、シリア・ロシア軍による爆撃で、IDPsが犠牲となったり、さらなる避難を余儀なくされてたりといった事案が報告されている。

こうしたなか、ムハンマドさん一家が、どのような経緯で異例の待遇を受けて、トルコに入国できたのかは不明。

Anadolu Agency、2020年2月26日
Anadolu Agency、2020年2月26日

シリア軍はイドリブ県南部の複数市村を新たに制圧

イドリブ県では、国営のシリア・アラブ通信(SANA)や英国を拠点とするシリア人権監視団によると、シリア軍は26日、「決戦」作戦司令室との戦闘の末、カフルナブル市、カフル・ウワイド村、シャンシャラーフ村、トゥラムラー村、ダイル・サンバル村、マアッラト・マハス村、ブライジュ村、ルバイバダ村、ハッサーナ村、ファッティーラ村、カルサア村、フィキーア村、マラージャ村、スフーフン村、カフル・ムーサー村、フライフィル村、カウカバ村、ウンム・ニール村、シャリカ村を制圧した。

これにより、シリア軍は、イドリブ県、ラタキア県の県境に位置するガーブ平原を射程圏内に収めた。

反体制派も反転攻勢を強めサラーキブ市に迫る

一方、「決戦」作戦司令室も、トルコ軍の砲撃支援を受けて、M4高速道路沿線を東進、サラーキブ市北西のサーリヒーヤ村、ムジャイリズ村、アーフィス村を奪還した。

これにより、M5高速道路から3キロの地点に到達、街道沿線を射程圏内に収めた。

Step News、2020年2月26日
Step News、2020年2月26日

ラッカ県ではトルコ軍の砲撃でシリア軍士官1人死亡

ラッカ県では、クルド民族主義系のANHAによると、トルコ軍とその支援を受ける国民軍が、タッル・アブヤド市近郊のアフダクー村にあるシリア軍の拠点複数カ所を砲撃、シリア軍士官1人が死亡した。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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