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びっくり!国王が車に乗って「市民が家にいるなら王室が会いに行く」ノルウェー

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
オープンカーで市内をサプライズで回る国王夫妻(写真:ロイター/アフロ)

5月17日はノルウェーのナショナルデー(憲法記念日)だった。

通常は大規模な催しが行われる日だが、新型コロナウイルスの感染対策のために、伝統的な市民の集まりを政府は中止せざるをえなかった。

外に大勢の人が集まり、子どもたちのパレードを見ながら、アイスクリームやソーセージを食べ、民族衣装を着て、みんなでお祝いする。いつもの賑やかな光景がない、異例の年となった。

2018年のナショナルデー、王宮へ向かう子どもたちの行進 撮影:あぶみあさき Photo:Asaki Abumi
2018年のナショナルデー、王宮へ向かう子どもたちの行進 撮影:あぶみあさき Photo:Asaki Abumi
今年は地下鉄もガラガラ。民族衣装ブーナッドを着た女性たちがいた 撮影:あぶみあさき Photo:Asaki Abumi
今年は地下鉄もガラガラ。民族衣装ブーナッドを着た女性たちがいた 撮影:あぶみあさき Photo:Asaki Abumi
人の姿がまばらな中央駅前 撮影:あぶみあさき Photo:Asaki Abumi
人の姿がまばらな中央駅前 撮影:あぶみあさき Photo:Asaki Abumi

公共局NRKが掲載したこれまでの年と2020年を比較する写真を見ると、その違いがわかるだろう。

首都オスロでは、大通りを行進する子どもたちが王宮に向かい、王室一家はバルコニーから市民に手を振るのが習わしだった。

王室メンバーが現れると人が集まってしまうことから、この日の王室スケジュールは当日まで秘密にされていた。

街に集まれない代わりに、13時に自宅のバルコニーからみんなで国歌を歌おうという呼びかけがあった中、なんと突然、王室メンバーも同じ時刻に王室バルコニーに登場し、歌い始める!

しかし、王宮前に市民はほとんど集まっていなかった。

市民が外にいないのなら、私たちが会いに行こう

国王夫妻は戦後の自由を象徴するA1ビュイック ロードマスターに乗っていた 撮影:ノルウェー王室 Photo: Oivind Moller Bakken, Det kongelige hoff
国王夫妻は戦後の自由を象徴するA1ビュイック ロードマスターに乗っていた 撮影:ノルウェー王室 Photo: Oivind Moller Bakken, Det kongelige hoff

すると、王室メンバーはオープンカーに乗って、街をドライブしはじめる。

市内の住宅街、新型コロナの感染者を受け入れる大学病院の敷地内を車で廻った。

祝日に勤務していた病院関係者は大喜び。皇太子夫妻は、高校生にも面会し、高齢者施設も訪問した。

皇太子夫妻が乗る車 撮影:ノルウェー王室 Photo:  Liv Anette Luane, Det kongelige hoff
皇太子夫妻が乗る車 撮影:ノルウェー王室 Photo: Liv Anette Luane, Det kongelige hoff

もともと、ノルウェーでは市民と権力者との間の距離が近い。

近い距離感や互いの信頼感は、北欧諸国が「幸福度調査」でもトップ常連国になる理由のひとつだ。

王位継承順位第2位のイングリッド・アレクサンドラ王女と、王位継承順位第3位のスヴェレ・マグヌス王子 撮影:ノルウェー王室 Photo: Sara Svanemyr, Det kongelige hoff
王位継承順位第2位のイングリッド・アレクサンドラ王女と、王位継承順位第3位のスヴェレ・マグヌス王子 撮影:ノルウェー王室 Photo: Sara Svanemyr, Det kongelige hoff

各国の新型コロナ対策でも、信頼度が高い国での成功率が高い傾向が指摘され始めている。

スウェーデンで「集団免疫」戦略が支持されたり、北欧各国で市民と政治家の協力体制が順調なのは信頼関係が成り立っているからだと。

ノルウェーの王室メンバーは日常生活でも目撃されることが多く、私も皇太子夫妻はカフェや路上で何度か見かけている。

オープンカーでの安全面は大丈夫なのかという心配よりも、王室メンバーが市民のいる場所に行くことを優先した。

市民と団結しようとする気持ちや態度を含め、この日の王室の計らいは「歴史的で、象徴的。強烈なシグナルを送っている」と高く評価された。

ノルウェーでは新型コロナの規制は緩和段階に入っており、外出禁止令は一度も出されていない。

「ナショナルデーだけれども、できるだけ集団を避けて、控えめにお祝いしましょう」という政府の提案に市民は従っていた。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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