スウェーデン「集団免疫」作戦の効果は?感染防止につながる信頼文化と高い代償を払う高齢者

厳しい規制なく、街で楽しむ人々の光景が世界的に話題となっているスウェーデン(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナ対策で、北欧スウェーデンが独自路線を突き進むニュースを、どこかで見かけた人は多いのではないだろうか。

多くの人をウイルスにさらすことで、多数を自然感染させるという「集団免疫」の作戦は、世界中で驚きを持って伝えられている。

スウェーデンでは今も通勤者が街を行き交い、カフェやバーで会話が弾む。大学や高校は遠隔授業に切り替えたが小中学生は学校に通い、美容院やレストランも営業を続けてきた。

それに比べて近隣諸国の対策ははるかに厳格だ。フィンランドは先月16日に緊急事態宣言を出し、デンマークは先月11日に広範な封鎖措置を発表。ノルウェーも先月半ばに移動制限、学校や保育所の閉鎖、イベント中止や美容室などの営業停止に踏み切った。

出典:CNN(4/29) 厳格な行動制限設けないスウェーデン、新型コロナ対策は成功したのか

スウェーデン政府は、封鎖の代わりに国民に「責任ある行動」(ロベーン首相)を求め、他者と距離を保つ「社会的距離」の実行を呼び掛けている。これに対して大方の市民は、政府方針を許容しているようだ。

出典:時事通信 「封鎖せず」独自路線 自主性尊重、「集団免疫」目指す―スウェーデン・新型コロナ

スウェーデンの独自路線に、北欧他国もびっくり仰天

北欧諸国には、互いを比較し、愛情を込めつつ、皮肉をこめて茶化しあうカルチャーが以前からある。

巨大な国際市場では、規模が小さな国にできることには限界があるので、そういう時は「北欧」というチームで協力する。

その中でも、スウェーデンは「お兄ちゃん」的存在であり続けた。

ところが、今回の新型コロナ対策では、スウェーデンお兄ちゃんの行動が本当に理解できなくて、北欧の弟たちは困惑している。

その困惑具合は、各国のニュースを伝える現地記者たちの様子からも明らかだ。「なぜ?なぜ?」と、スウェーデンを取り上げるニュースが、デンマークやノルウェーでは毎日続く。

北欧といっても、スカンジナヴィアと呼ばれる地域、ノルウェー、デンマーク、スウェーデンの3か国は言葉も文化も近いので、互いのことをよくわかっている。フィンランドとアイスランドは言葉が全く違うので、理解には敷居が高くなる。

しかし、今回のスウェーデンお兄ちゃんの個性的すぎるコロナ戦略には、ノルウェーもデンマークも「???」という状態だ。わかっていると思っていた家族の裏の顔を見てしまい、混乱状態。

スウェーデン型を無視できない理由

スウェーデンの集団免疫という戦略を、間違っていると突っ込むことには、どの国にもためらいがある。

どの国の対策が成功で効果があるかなんて、今の時点では誰も言えないからだ。それが分かっていれば、みんなでもうコロナの感染拡大を止めているだろう。

ノルウェーなどでも急激な感染拡大は抑えられたが、結局、たくさんの規制のなかで、どの対策に効果があって、どの対策にあまり効果がないのかは分かっていない。

数年後に振り返った時に、スウェーデン型に最終的に効果があるとなると発見だ。多くの国が実践した厳しい規制なくして、社会を閉じることなく、次のパンデミック対策ができるということになる。

可能性を全否定できないため、WHOや他国は、スウェーデンという実験モデルが気になってならない。

「スウェーデンから学べることもある」

4月29日、WHOは北欧諸国が仰天する発言をした。

WHOの緊急対策部門の責任者であるマイケル・ライアン氏は、「スウェーデンから学べることがある」と発言。個人を信頼し、責任をもたせるという戦略は、長期的には成功するレシピとなりうるという。

スウェーデンがウイルス感染を拡大させたという認識が広がっているが、真実ではない。スウェーデンも社会的距離においては厳しく対応してきた。社会的距離を置くことや自己管理を市民に任せるという政府の手法が、他国とは違ったのだ。検査を行い、感染者が出た場合には対応できる収容力を医療現場では維持してきた。

出典:スウェーデンExpressen WHOがスウェーデン戦略は将来的なモデルだと称賛(スウェーデン語)

厳しい規制や命令がなくとも、市民が態度や行動を変えることで、感染拡大を抑えることが可能。

スウェーデンはその実例になりえるというのだ。

市民と政府の信頼関係はウイルス対策に影響する

日本でも話題となった『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』。著者であるロスリング家は、スウェーデン出身だ。

オーラ・ロスリング氏はノルウェー公共局NRKに対して、市民と政府間の信頼関係がウイルス対策の効果に明らかに関係していると話している。英国では20~30%が「政府を信頼していない」と答えており、ウイルス対策で政府が命令しても、市民が言うことを聞かなければ意味はないと。

ロスリング氏のこの説明に、私は国連の関連団体によって発行された『世界幸福度調査』の内容を、ぜひ結び付けたい。

北欧が幸福度トップの理由「信頼カルチャー」との関係

北欧諸国はもともと政府の腐敗があまりなく、市民が政府を信頼している。

他者や他機関を信頼し、信頼できる政府があることは、北欧諸国が幸福度調査でトップ常連国となる理由でもある。

もちろん、市民が政治機関を信頼するに至るまでには、しっかりとした政治家がいることが前提だ。政治家を育てるのは市民と社会、つまりあなただ。

北欧諸国の幸福度を高くする要素を、レポートでは「北欧の幸せ」(Nordic Happiness)と表現している。

つまり、

  • 世界情勢や未来の世代のことを気に掛ける
  • 他者の福祉(幸福・健康)を願う
  • 他機関や他者を信頼する
  • 未来のための行動を起こすために、政府や他者を信頼する(繰り返すが、信頼できる政治体制のためには、市民と社会で政治家を育てなければいけない)

このような北欧レベルの信頼関係や社会とのつながりが育った社会であれば、「健康・収入・雇用状態・家族などとの人間関係・夜に安全に歩けるかなどの治安という側面」という他の評価項目を改善しなくとも、欧州各国の市民の幸福度は60%も上がるともされている(World Happiness Report 2020)。

いずれにせよ、北欧ならではの高い信頼カルチャーが、政府と市民によるウイルス対策のための行動に関係しているのだ。

だから、スウェーデン戦略を他国でそのまま採用できるわけではないということになる。

一切のエラーを起こさないウイルス対策を最初からできる国なんてないのだ。

高齢者が犠牲になるリスク

ノルウェーのメディアでは、スウェーデン戦略に効果があるとしても、リスクが高い脆弱性のある戦略だとも注意喚起している。

規制緩和をしはじめ、経済とのバランスをとろうとする段階には参考になるかもしれない。だが、ウイルスが急激に拡大している初期段階では、高齢者などのリスクグループが犠牲になる確率が高すぎるからだ。

現に、スウェーデンのレーナ・ハッレングレーン保健・社会大臣は、「ウイルスから高齢者を守ることができなかった」と認めており、このことから自分たちは学ばなければいけないと述べている(4月30日 スウェーデン公共局SVT)。

スウェーデンの疫学者、アンデルス・テグネル博士は24日、英BBCとのインタビューで、他国のように厳格な措置を取っていれば死者数を抑えられたかという質問には、「現段階で答えを出すのは非常に難しい。わが国の死亡例の少なくとも50%は高齢者施設で起きた。ロックダウンで高齢者施設への感染拡大を抑えることができたかどうかは疑問だ」と答えた。

出典:CNN 厳格な行動制限設けないスウェーデン、新型コロナ対策は成功したのか

スウェーデン型では、命という高い代償を支払うことになるのは高齢者だと、他国からも指摘されていた。

人口比では、新型コロナによる死亡者は、スウェーデンはノルウェーの5倍にもなる。

スウェーデンの老人ホームや病院でなぜ被害が拡大したのか。研究者からはノルウェーとの介護現場での労働環境・教育・ルーティーンなどを、いずれ比較して学びたいという声もある(スウェーデン公共局SVTスウェーデンAftonbladet

アイスランドとスウェーデン型 休校は必ずしも必要ではない

周辺国も、スウェーデン型を批判してばかりではない。

もともと、ウイルスを広めているのは子どもではないとして、学校を閉めずにいたスウェーデンやアイスランド。

ノルウェーは3月中旬から1か月ほど全ての幼稚園・保育園や教育機関を閉めていたが、段階的に学校を再開している。

しかし、子どもを送ることを心配する保護者は多い。そこで、「スウェーデンやアイスランドでは学校閉鎖をしてこなかった」ことを、首都オスロの政治家は説得理由に使っている。

それで、集団免疫は存在するの?効果はあるの?

「集団免疫」にそもそも効果はあるのだろうか?WHOは慎重だ。

WHOは、現時点での傾向として「感染が大きく広がったところでも免疫を持つ人の割合は低い」と回答。

「大部分の人は感染しやすいことを意味し、ウイルスの勢いが盛り返す可能性は高いことになる」と述べた。

出典:朝日新聞 集団免疫、WHOが慎重な見方 「研究結果待ちたい」

こういう状況だから、誰もが早く正しい解決策を知りたい。だが、他の多くの記事と同じように、私も同じ言い方で書き終える。

スウェーデンが成功例かは結論がでるのは、まだまだ先のこととなりそうだ。

Text: Asaki Abumi