北欧コーヒー界の伝説の人、ティム・ウェンデルボー「気候変動でコーヒーが飲めなくなる」 現地レポ(3)

「私は土を栽培している」と農園や土壌について語り始める Photo:Abumi

「私は土を栽培している」

今回のフォーラムで、予想外に印象に残ったプレゼンは、ティム・ウェンデルボーさんだった。

自身のカフェにある唯一の焙煎機で豆を焙煎するウェンデルボーさん Photo: Asaki Abumi
自身のカフェにある唯一の焙煎機で豆を焙煎するウェンデルボーさん Photo: Asaki Abumi

ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ2004年度の優勝者である彼は、コーヒー愛がどんどん深まり、とうとうコロンビアにあるFinca El Suelo農園を購入。

コーヒーを淹れることから始まり、とうとう自分の納得のいく形で木や土壌を育てるまでに至る コロンビアに所有するFinca el Suelo農園。自分の畑での栽培を楽しむ農家となったウェンデルボー氏 Instagram: @fincaelsuelo, Tim Wendelboe
コーヒーを淹れることから始まり、とうとう自分の納得のいく形で木や土壌を育てるまでに至る コロンビアに所有するFinca el Suelo農園。自分の畑での栽培を楽しむ農家となったウェンデルボー氏 Instagram: @fincaelsuelo, Tim Wendelboe

自身の農園での近況をアップデートするこの時間で、彼の初めの一言は、「私はコーヒーを栽培しているというよりも、土壌を栽培しています」。

農園では、多くの人は土の上にある緑の葉や赤い果実が実った植物ばかりを見てしまう。その下にある「根」と「土壌」こそが、コーヒーの質を決めると語る。

失敗を繰り返し、農園で堆肥作りに励むウェンデルボーさん Instagram: @eliasroaparra, Tim Wendelboe
失敗を繰り返し、農園で堆肥作りに励むウェンデルボーさん Instagram: @eliasroaparra, Tim Wendelboe

土壌について30分間話し続け、さらに話は深まり、土に住む微生物について、目をキラキラさせて熱く語る同氏。

うねうねと動く微生物の動画がスクリーンに登場した時には、筆者はさすがに驚いた。

楽しそうに土の話をし続ける Photo: Asaki Abumi
楽しそうに土の話をし続ける Photo: Asaki Abumi

いつもは冷静なウェンデルボーさんが、まるで夢見る少年のようになっていたのだ。

この農園では、まだ果実は一粒しかとれていないが、「私は絶対にあきらめない」と話した。

今年8月にインスタグラムにアップされた写真。自身の農園で育った最初の一粒 Instagram: @fincaelsuelo, Tim Wendelboe
今年8月にインスタグラムにアップされた写真。自身の農園で育った最初の一粒 Instagram: @fincaelsuelo, Tim Wendelboe

この方の農園での取り組みは、いずれコーヒーの栽培方法そのものに、革命を起こすことになるのではないだろうか。

「欧州には焙煎士のための交流の場がなかった」

北欧ロースターフォーラムは、ノルウェーとデンマークのスペシャルティコーヒーの関係者によって運営されてきた。元は「北欧バリスタカップ」という、バリスタたちが集まる場所だったが、2013年を最後に北欧ロースターフォーラムと形を変える。

ウェンデルボーさんは、フォーラムでの休憩中、ソファに座って、筆者に設立のきっかけを話し始めた。

「北欧ロースターフォーラムは、以前あった北欧バリスタカップのおまけとして、2007年に20人程度で始まったものです。この業界の焙煎者が集まる場所が欧州にはなかったので、必要だなと感じていました。小さい規模でやり続けていきたいので、今回は80人限定です」。

フォーラムでのセミナーは、YouTubeに後に公開予定だそうだ。

参加費用は1人分がおよそ7万6000円、焙煎業者が豆を提出して競技出場する場合は加えて9万円かかる。今年のチケットは開催前に完売した。

動画がネットで閲覧可能となるうえで、あえて高い料金を払って参加するほどの人気の秘密はなんなのだろうか。

「コーヒーのテイスティングは、この場でしか体験できません。人脈づくりもそう。業界のパイオニアが集まるこの場では、気楽にランチの時間に話しかけることができます」。

イベント中は忙しそうに会場を走り続けていた。空き時間にカッピングをする Photo: Asaki Abumi
イベント中は忙しそうに会場を走り続けていた。空き時間にカッピングをする Photo: Asaki Abumi

物価が高い北欧ではイベント運営はお金がかかる。売り上げが残ったとしても、非営利団体なので、残りは来年以降の運営にまわすか、関連プロジェクトを支援する基金を作ることも考えているという。

「10年前は、ここにいる誰もが深煎りをしていた」

10年前ほどを振り返ると、今の北欧スペシャルティコーヒー業界は、どう変化したかと聞くと、ウェンデルボーさんはにやりと笑った。

「私も含めて、10年前は、ここにいる人たちは深煎りでした」。

「大きなスーパーマーケットチェーンは、常に浅煎りでしたね。私が浅煎りを始めたのは2008年頃から。そうすると、北欧ロースターフォーラムで3年優勝するなどの成績がではじめました。今は多くの人が浅煎りをしています。浅煎りを始めたのは、私ではありませんよ。私の前にすでにやっている人はいました」。

「さっき、10ほどの北欧ブランドのロースターのコーヒーを味見しましたが、どれもおいしかった。10年前なら、おいしいと評価できたのは1ブランドほどだけでした」。

「今は生豆も焙煎技術も進化した。この傾向はこれからも続くと思います」。

「浅煎りをする人もいれば、深煎りをする人もいるでしょう。コーヒーにどんどんバリエーションがでてきますよ」。

同氏がオスロで経営する生豆会社Nordic Approach。農園からの高品質の生豆を各国の焙煎業者に届ける Photo: Asaki Abumi
同氏がオスロで経営する生豆会社Nordic Approach。農園からの高品質の生豆を各国の焙煎業者に届ける Photo: Asaki Abumi

気候変動でコーヒーが飲めなくなる

気候変動の影響とされる「さび病」にかかったコーヒーの葉 Photo: Tim Wendelboe
気候変動の影響とされる「さび病」にかかったコーヒーの葉 Photo: Tim Wendelboe

今年のフォーラムでは気候変動が生産地にもたらす影響について考え、意見交換するプログラムが目立った。

「プログラムを作ったのは私です。気候変動にフォーカスしたのは、私が自分の農園を所有するコロンビアなどを頻繁に訪れるから。そこでは、気候変動が起きていることが明白です。温暖化で農家は問題を抱え、コーヒーは病気になり、生産量が落ちています」。

「農家はそもそも十分に稼いでいません。生産が難しくなれば、彼らの生活はさらに苦しくなります。なんとかしなければいけません」。

北欧の小さな焙煎業者たちは、農園を助けるために何ができるか、みんなで対策を考えたかったと話すウェンデルボーさん。コロンビアを訪れることは難しいかもしれないが、自分たちの住む国でもできることはあるという。

気候変動による変わりやすい天候や、「さび病」などの影響で、葉が減り、ほぼ枯れているコーヒーの木 Photo: Tim Wendelboe
気候変動による変わりやすい天候や、「さび病」などの影響で、葉が減り、ほぼ枯れているコーヒーの木 Photo: Tim Wendelboe

「もっとリサイクルをして、自分たちが今までどれほどのものを無駄に捨ててきたのかを考え直す。『気候変動は実際に起きていることだ』と、周囲の人に意識してもらおうとすることはできます」。

個人的な活動としては、コロンビアでの農園で、コーヒーの木を直射日光から守るシェードツリー(日陰樹)の栽培を今年から始めているそうだ。木の病気を防ぐことや、豆の品質を維持することにもつながる。

気候変動が進み続ければ、生豆の価格は高くなるべきで、「そうであってほしい」と同氏は話す。気候変動に農家が適応するには、勉強も資金も必要となる。

「今の市場価格はサステイナブルとはいえません。農園にお金があれば、よりよい器具を購入し、新種を試し、豆の質の維持に集中することができます。農家にとってサステイナブルではない状況は、私たちにとってもサステイナブルではありません。私は、未来にもコーヒーはあって欲しいと願います」。

コーヒーの木の生長を妨げる気候変動 Photo: Tim Wendelboe
コーヒーの木の生長を妨げる気候変動 Photo: Tim Wendelboe

では、ウェンデルボーさんらのコーヒーが好きで、活動をサポートしたい消費者には、何ができるだろうか?

「私たちのコーヒーをぜひ買い続けてください」。

「ほかにもできることはあります。例えば、新品のiPhoneは毎回買う必要はない。モノをリサイクルして、無駄なゴミを減らそうとすることもできます」。サポートできる手段はたくさんあると話す。

ウェンデルボーさんをよく知り、北欧のコーヒーカルチャーを日本へと伝えた中心人物の1人が、「フグレントウキョウ」と「フグレン・コーヒーロースターズ」を率いる小島賢治さんだ。

小島さんとのインタビュー内容は、次回の記事(4)へと続く

Text: Asaki Abumi