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「ファションショーらしくない」Fam Irvollの世界観 ノルウェー

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
ボトックス注射が標準化する現代に「BOTOX」TシャツPhoto:Abumi

現在ノルウェーではファッションウィーク「オスロ・ランウェイ」(Oslo Runway)が開催中だ。

22日には芸能界からファッション業界へ戻ってきたデザイナー、ファム・イールヴォル(Fam Irvoll)の作品がお披露目された。

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「有名なファッションデザイナーというよりは、テレビ番組とかの影響で、“芸能人”という印象が強い人よ」。ノルウェーのタブロイド紙VGでファッション記事を書く記者がプレスルームで教えてくれた。

イールヴォルのデザインする服は、「北欧ファッション」のイメージとは大きくかけ離れている。派手な色遣いや奇抜なデザインからは彼女独特の個性が溢れる。

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これまで、ケイティ・ペリー、レディー・ガガ、リアーナ、リリー・アレンなどが、イールヴォルの服をステージで着用した。

『Move Your Ass』の音楽と自由な歩き方でショーを盛り上げたモデルたち
『Move Your Ass』の音楽と自由な歩き方でショーを盛り上げたモデルたち

ノルウェー現地での批評をみると、賛否両論だった。理由には、多くの人が指摘する「芸能人のショーみたい」という点がある。ノルウェーである程度知られた芸能人がモデルとなり、音楽にあわせて様々なポーズをしていた。

Gisle Agledahlはウォーキングではなく、ほぼダンスをしながら登場
Gisle Agledahlはウォーキングではなく、ほぼダンスをしながら登場

「同性愛者」支持のTシャツ着用で有名になった国営放送局NRKの司会者・記者のGisle Agledahlも参加。

ノルウェーでタレント的な存在のElse Kass Furuseth
ノルウェーでタレント的な存在のElse Kass Furuseth

「モデルらしい」体形や歩き方は全く無視されていた。

ノルウェーの記者が「芸能人のショーみたい」、「服が印象に残らないのでは」と眉をひそめるとしたら理由がある。これまでのノルウェーでのファッションウィークの「失敗の歴史」だ。

ファッション文化が深く浸透しているとはいえない国ノルウェー。過去のショーは厳しい批判を受け、打ち切られた。最後には「芸能人ばかりで、ファッション関係者が脇役になっている」という指摘もあった。

ドラマ『スカム』とインスタグラムで一気に有名になったUlrikke Falch
ドラマ『スカム』とインスタグラムで一気に有名になったUlrikke Falch

ファッションウィークという文化を今度こそ成功させるためにも、「真面目にやってほしい」という思いが一部のノルウェーの業界人にはある。

他のデザイナーやショーと「違うこと」をしたがために、イールヴォルの服や演出は評価されないのだろうか。それでは「みんなと同じように」、「安全路線」を好むノルウェーの価値観から、人々は抜け出せていないともいえる。

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確かに「芸能人」はいた。だが、そもそも「芸能人」といっても影響力に限りがあるノルウェーなので、そこまで気にすることはないだろう。ノルウェーで有名人だとしても、国外では無名だ。

外見美の押し付けを嫌うFalchが登場。このブランドの在り方は支持しているようだ
外見美の押し付けを嫌うFalchが登場。このブランドの在り方は支持しているようだ

むしろ、高校生ドラマの『SKAM』でヴィルデ役を演じたUlrikke Falchなどが出ることで、注目度がある程度上がるのならよいのでは。Falchはインスタグラムで「理想の女性像」に疑問を投げかけている女性だ。

モデルたちの着た服には、ボトックス注射が「当たり前」となってきている現状を皮肉に描いた「BOTOX」、「脱毛」などの文字が目立った。

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社会的メッセージが強かった今回のコレクション。身長が高くて、脚が細い、モデルらしい歩き方をする人は皆無だった。これまでの無表情のモデルとは対照的に、誰もが歯を見せて笑っていた。

「インスタグラム映えはするだろうが、大量生産向けではない」ことを指摘するノルウェー語の記事も見かけた。だが、全てのショーが商業的で統一感がある必要はないだろう。

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元気な色使いの服、モデルも観客も楽しそうだったショーは強く印象に残った。

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Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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