パナソニックから日本の人事を変える 世界中の現場で学んだ「人事は運用が8割」
日本の人事部「HRアワード2024」企業人事部門 最優秀個人賞に輝いた、パナソニック ホールディングス株式会社 グループCHROの木下達夫さん。P&Gで人事のキャリアをスタートし、その後に所属したGEでは財務や営業、工場マネジメントなど人事以外のポジションを務めたことで、「事業そのものを前に進め、現場の思いを理解する」経験を積んだといいます。メルカリでグローバル規模の組織開発を担い、2024年7月からは現職で「日本の人事を変える」挑戦がスタート。木下さんの歩みを追いかけるとともに、日本企業の人事がこれから向き合うべき本質的な課題について聞きました。 「HRアワード」の詳細はこちら>https://jinjibu.jp/hr-award/
「組織と個人のWIN-WIN」を意識するようになったP&Gでの経験
――「HRアワード2024」企業人事部門 最優秀個人賞を受賞された感想をお聞かせください。 これまでに名だたる人事パーソンの方々が受賞されていますので、とても光栄に思うとともに、賞の重みを感じています。周囲の方々の反応は想定していた以上で、フェイスブックで受賞を報告したところ、800近い「いいね!」をいただきました。 私は、人事としての自分のミッションを「組織と個人のWIN-WINの関係を構築し、その両者のWINのレベルを最大化させること」だと考えています。このミッションは私一人で成し遂げられるものではありません。今回の受賞はこれまでに組織変革をともに進めてきたリーダー、メンバー、外部パートナーなど、仲間たちとの共創の結果だと思っています。 ――木下さんが掲げる人事ミッションは、どのような経験から見出したのですか。 私がこの思いを抱くようになった原点は、社会人としてのスタートを切り、最初に人事を担当したP&G時代にあります。 私は大学時代にマーケティングを学んでいました。就職活動ではマーケティングに強みを持つことにひかれてP&Gにエントリーしたのですが、説明会や選考を通じてP&Gではマーケティングの考え方を人事にも応用していることを知りました。 マーケティングの基本的な考え方はWIN-WINです。お客さまに大きなメリットを感じてもらうため、自社とお客さまの両者のWINを高めて橋渡しするのがマーケティングの仕事。同じように、会社で働く個人がWINになり、会社もWINになるよう橋渡しをしていくのが人事だと学んだのです。 私は人事の仕事に強く興味をかき立てられました。P&Gは当時から新卒の職種別採用を行っていたので、HRを第一希望で出したところそのまま通って人事配属になりました。これが私の出発点です。いま振り返っても、良い選択をしたと思います。 ――P&G時代にはどんな仕事を担当したのですか。 最初に担当したのは新卒採用です。ここでも、候補者のWINを大切にすることを第一に考えました。 P&Gの新卒採用チームは、自社の採用成果だけでなく、自社にエントリーする学生がキャリアにおいて何を考えるべきか、どんな点を考慮して会社を選ぶべきかにも踏み込んでアプローチしていました。未経験でも数年でマーケティングのプロになれる研修プログラムがあったので、そのノウハウを応用。学生向けにマーケティングのメソッドを伝える「P&Gアカデミー」や「P&Gビジネススクール」を開講し、キャリアの可能性を考えるきっかけにしてもらいました。こうした取り組みの結果、P&Gは就職人気企業ランキングで上位に入るようになったのです。 ただ、そのようにキャリアを考えてP&Gを選んでも、入社後には活躍する人とそうでない人に分かれてしまっていました。自社を志望した人たちの思いを理解する採用担当としては、入社後になかなか活躍できない人がいる現実は受け入れがたいもの。「入社した人が活躍できるようにしたい」と考え、私はHRBPを志願しました。 HRBPを務めた結果、私は人事パーソンとしての最初の壁に直面することになります。それまでに採用領域での知見は蓄積していたものの、若手の人材開発や組織開発といった領域では、自分にできることがほとんどなかったからです。あまりにも知見がなさすぎると感じ、自分自身に愕然(がくぜん)とした社会人5年目でした。