パナソニックから日本の人事を変える 世界中の現場で学んだ「人事は運用が8割」
パナソニックが変われば日本が変わる。そのポテンシャルと課題
――2024年7月、木下さんはパナソニック ホールディングスのグループCHROに就任しました。これまでのキャリアとは異なる伝統的な日本企業への転身に驚いた人も多いようです。 私はもともと、外資系キャリアを離れる際に「これからは日本社会の役に立ちたい」と強く思っていました。外資系で長く人事を務めてきた立場としては、日本企業の人事のスタンダードは世界から遅れている感覚があり、悔しさを覚えていたのです。 だからこそ日本を代表する会社に身を置きたいと考え、パナソニック ホールディングスへの入社を決めました。私は「パナソニックが変われば日本が変わる」と思っています。ゆくゆくは、パナソニックをきっかけにして日本の人事を変えていくことが目標です。 ――木下さんは、パナソニックの現状や人事に関する課題をどのように捉えていますか。 パナソニックグループはとても大きなポテンシャルを秘めていると感じています。ここ数年をかけて事業会社制度を取り入れ、会社ごとに競争力のある人事の仕組みを作れるようになりました。それによってさまざまな取り組みが生まれ、グループ会社からはジョブ型人事制度の先進事例が発信されています。 入社して驚いたのは、働いている人たちの服装が意外とカジュアルだったこと。大阪の本社でも東京のオフィスでも、Tシャツにジーンズのカジュアルな服装で歩いている人がたくさんいます。オフィスはフリーアドレスで役員との距離が近い。メール文化からチャット文化への転換が進み、社内SNSも活発に使われています。外資系やテックカンパニーを経験した者として、こうした実態があることはポジティブな驚きでしたね。 一方で、課題も明確だと考えています。エンゲージメントスコアは毎年少しずつ上がっており、グループ全体で68と高い水準にあります。ただ、「働きやすさ」と「働きがい」の要素別で見ると、働きやすさは先行して改善されていますが、働きがいはなかなか高まっていないのです。 たとえば「私が求められている以上のことをやれる組織か」「リスクを取って挑戦することが許容されるか」といった設問に対しては、グループ全体で数値が低い傾向にあります。大企業ならではの上意下達の風土がまだまだ残っており、社員一人ひとりがポテンシャルをアンロック(UNLOCK)、つまり最大限発揮し、自走する動きを十分にサポートできていないのかもしれません。 働きがいが高まらなければ本質的な変革は成し遂げられません。挑戦しがいのある、大きな課題だと思っています。