明確な政府発表のない「ガソリン車禁止論」 根深い欧米信仰
昨年秋の所信表明演説で菅義偉(よしひで)首相が2050年に温室効果ガスの排出を「全体としてゼロにする」と宣言して以来、日本でも「カーボンニュートラル」が具体的な政治課題として浮上しました。昨年12月には、経済産業省が2030年代半ばに新車を100%電動車にするという目標を検討して「脱ガソリン車」を目指すとの報道が駆け巡りました。 【動画】トヨタ2029 電動化を最適化する 寺師副社長インタビュー 自動車の電動化目標については欧米が先行しているイメージがあります。ただモータージャーナリストの池田直渡氏は、欧米各国でも政府レベルではガソリン・ディーゼル車禁止を打ち出しているものの、メーカーレベルでは必ずしも電気自動車(EV)一色の戦略を取ってはいないと指摘します。そもそも、欧州のメーカーは環境対策では「失敗の歴史」を重ねてきたといい、「日本は決してガラパゴスではない」と説きます。池田氏による論考です。
菅首相が打ち出した「温室効果ガス」ゼロ
年末に物議を醸した「ガソリン車禁止」と「EV一本化論」だがおかしな事だらけだ。信じがたいかも知れないが、首相や閣僚は「ガソリン車禁止」とは一言も言っていない。菅首相は、昨年10月26日の所信表明演説で「2050年にカーボンニュートラルを目指し、環境技術を日本の成長戦略にする」と発言しただけで、それ以上の詳細はなし。小泉進次郎環境相は「カーボンプライシング(CO2排出に対する罰金制度)を推進する。方法としては炭素税か排出量取引だがまだ具体的な議論に入っていない」と述べている。 原文を確認したい人は、首相官邸ホームページに掲載されているので令和2年10月26日の「第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説」を検索してご覧いただきたい。同様に環境省の令和2年12月11日の小泉大臣記者会見録で小泉環境大臣の発言がまとまっている。 つまり、驚くべきことにクルマの話はかけらも出て来ない。常識的解釈をすれば、カーボンニュートラルの中に含まれているとは考えられるが、ガソリン車禁止などという詳細かつ具体的な話はどこにも全くない。 では、それは一体どこから出て来たのか? その出所は、タイミングから見てほぼ明らかである。12月10日、経済産業省は自動車メーカー役員や有識者を招いた検討会を開催した。この検討会の直後に大手マスコミが一斉に報じたのが「30年代半ばにガソリン車新車販売禁止で調整中」というニュースだった。