明確な政府発表のない「ガソリン車禁止論」 根深い欧米信仰
「オールEV時代到来」とのイメージ操作
ここに“変な情報操作”の形跡がかなり明瞭に残っている。まずは「検討会とは何だったのか」から考えるべきだろう。自動車メーカーの役員が呼ばれているということは、検討会のステージとしてはごく初期のヒアリングの段階だと考えるのが自然だ。経産省が結論を出すタイミングならそもそも名称は検討会ではなく審議会だろうし、そこに直接利害関係者である自動車メーカーの役員を同席させるはずがない。 この検討会ではメーカー各社はおそらく「2030年代中盤には、モーターを持たない純ガソリン車は極少数派になるだろう」という見込みを説明したのだと思う。検討会で想定している頃には、「企業別平均燃費規制」(CAFE)の2030年基準をクリアしている必要があるので、Bセグメント以下の特別に低燃費なガソリンエンジンを例外とすれば、最低限マイルドハイブリッド(マイルドHV)でなければ平均値を引き下げられなくなっている。なので、これが「登録車(軽自動車以外)の純ガソリン車は禁止」という話ならば、話の流れとしてそれほどの違和感はない。問題はこれを経産省が大手メディアに流した時の伝え方だ。必要な注釈を付け加えることなく「2030年代中頃にはガソリン車を禁止する」そう伝えたものと考えられる。 これを受けて大手メディアはその衝撃的な言葉をそのまま見出しに使ったのだろう。各媒体の本文を読むと、担当記者の知識レベルによって論調は2つに分かれており、不勉強な記者はこれを「2030年代中頃からはEV以外禁止」もしくはそう理解させる言葉で伝えた。もう少し自動車技術が分かっている記者は「2030年代中頃からは、マイルドHV、HV、プラグインハイブリッド(PHV)、EV、燃料電池車(FCV)などへ移行し、モーターを持たない純ガソリン車は禁止になる」と説明した。しかし残念なことに、これらの記事も見出しだけを見ればやはり「オールEVの時代到来」と受け取れるものがほとんどだった。 しかし、前述した通り、これらはどちらも実態としての政府発表がない。「ガソリン車禁止」を明確に述べたスポークスマンは誰もいないのだ。厳密に言えば、東京都の小池百合子知事はそう発言しているが、国の話ではないし、ただの風見鶏発言に過ぎないので、この一連の流れとは無関係である。そうやって、誰かが責任を持って言うことを避けたいがために、経産省はそういう意図的なリークをして、メディアを“誤報”に誘い、その結果、世論を誘導しようとしたと筆者は考えている。 背景としては、おそらく「ESG投資」へのシフトがあるのだと思われる。ESG投資とは、「環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)に配慮している企業を重視・選別して行なう投資」のことで、要するに新しい投資格付けシステムだ。経産省は恐らくこの新しいマネーゲームを成長エンジンにしたいと企てており、それと引き替えに、実業としての自動車産業に割を食わせても構わないと考えている様に見える。バブルであろうがなんであろうが株価を爆上げさせたい。長期的着実なプランしか描けないモノ作りでの成長よりも、即効性の高い株価を重視する。それは国益を相場で捉える歪んだ見方だと筆者は思う。 さて、このリーク作戦で、結果的に誰も責任を負わず、具体的なことを言わないまま、世論の誘導に成功したわけだが、なぜそんなことが起きるのか、からしっかり考えていかなければならない。