明確な政府発表のない「ガソリン車禁止論」 根深い欧米信仰
欧州でも政府の方針とメーカーの戦略に乖離
欧州がEVに舵を切っているという人たちの論拠は、EU各国政府のガソリン・ディーゼル車禁止の長期目標にあり、それは確かにその通り。2030年から40年くらいに、それぞれ多少の温度差はありつつも、内燃機関(いわゆるエンジン)の禁止を掲げている。それは事実だ。確かに政府はそう言っているが、その方針の下にある各メーカーはどうなのか? まずはEV全体での実績を見よう。そもそも2020年現在のグローバルでみたEVのシェアは2%程度。海外紙の報道では「EVのシェアが大躍進」と伝えられているが、バッテリーの資源調達がネックになって増産がなかなか進まない現状や車両価格の低減スピードの遅さを見ると、これが直近数年で10%に届く確率はだいぶ低い。 一桁パーセントの普及率をもって、残り90%以上を占める方式の禁止を決めるなどという暴挙は聞いたことがない。今後10年、あるいは20年でEVの比率が増える見立てには同意するが、年限を切って普及率を把握できるほど、正確に未来を予想できる科学的根拠などあるはずがない。もし、そんなことが出来るなら、政府は経済政策で打率10割を出せる。経済成長率10%でも掲げたらどうだろう? 筆者は普通すぎるほど普通のことを言っているに過ぎない。「未来は未確定である」。
では、各社の取り組みはどうなっているのか? 欧州で販売台数トップのVWグループは、確かにEVにも力を入れているが、同時にディーゼルにも、そして何より次世代の主力としてe-Fuel(イー・フューエル)にも力を注いでいる。e-Fuelとは、VWグループのプレミアムブランドであるアウディがメインとして進めている新技術。乱暴に言えば水素を内燃機関で燃やす仕組みで、どこからどう見てもエンジンの一種である。つまりVWは、決してEV一本槍ではなく、他の技術も並行して開発中であることが分かる。 VWグループに次いで欧州2番目の規模を持つのはPSAグループだ。前述の通り、メインとなるブランドはプジョーとシトロエン。中でもプジョーは中核としてPSAを牽引するブランドだ。そのプジョー・オートモビルCEOのジャン・フィリップ・アンパラト氏が、2019年3月20日に来日してグループインタビューを行った。筆者は、彼の今後のパワートレイン戦略を、その席で直接聞いている。彼は明確にこう言った。「パワートレインの決定権は顧客にある。ガソリン、ディーゼル、プラグインHV、EV。そういう多様な選択肢の中から、国や地域の規制に応じて最適なパワートレインを顧客が選んで決める」。プジョーとしてはそれらの多様なニーズに応えるパワートレインを用意するという方針であり、それはトヨタの戦略と瓜二つである。 ドイツ、フランスというEUの中心国、かつ販売台数トップ2が「EV一本槍でない」ことについて述べたが、他国のメーカーはどうか? スウェーデンのボルボは、伝統的な自動車メーカーの中で最も早期に「純ガソリン車とディーゼルエンジンからの撤退」を発表したメーカーだ。ボルボは確かに「EVも進める」と説明しており、すでに、ハイパフォーマンスEVブランドとしてポールスターを立ち上げている。しかし彼らは他方で、マイルドHVやPHVも同時にリリースしており、それらの廃止という情報は出て来ない。