なぜ阪神の揚塩球団社長は電撃辞任したのか…背景に阪急阪神HDトップへの”忖度”
揚塩社長は各球団の社長が出席しなければならないNPBや、セ・リーグの会合にほとんど顔を出さず問題になっていた。2月には、新型コロナウイルスの対策会議が緊急招集されていたが、揚塩社長は欠席し、キャンプ地でスポンサー接待のゴルフに興じていて球団のトップとしての資質も問われていた。報道によると揚塩社長は、会見で辞任理由を新型コロナ問題だけではなく「着任以来のいろいろな案件」とも語ったそうだが、生え抜きのスターだった鳥谷敬の退団時の不手際でファンの失望を買った問題などもあった。 しかし、四藤前社長を短期間で代えて、その揚塩社長を任命したのは、藤原オーナーである。阪急グループは「誰にしなさい」と具体的な人事にまでクビは突っ込んではこない。藤原オーナーにも任命責任はある。重要なケジメとは、球団トップの辞任で幕引きをはかる社内向きの“忖度”でのケジメではなく、球団の抜本的な組織改革にある。 なぜ2度にわたり、管理の甘さから新型コロナの感染者を出してしまったのか。チーム内ルールの徹底がなされなかった理由はなぜなのか。 今回の問題を受けて球団は遠征先での外出禁止を決め、福留、糸原らチームの内規違反者からは事情聴取を行い、なんらかのペナルティを科す方針だというが、単なる施策の問題ではない。組織のあり方自体を見直すべきだろう。 その意味で、球団トップに誰を持ってくるかは、重要な問題だが、まだ白紙だという。 劇的な変化を起こすには、外部からの登用がベストだと思うが、おそらく、その決断はできない。本社内の異動であれば、電鉄で専務、あるいは常務取締役の職にあり、ある程度の決定権を持つ人間が責任を持って出てきてタイガースの社長を兼務する必要があるのではないか。阪急に統合される前の阪神では、見掛道夫社長や三好一彦社長など、電鉄本社の要職にある人間が、タイガースの社長になり差配をふるった。広島は、松田元オーナーが球団社長を兼務しておりオーナー会議にも社長会議にも出席している。 また中村勝広氏が、逝去して以来、空席となったままのGM制度の復活も検討すべき案件だろう。藤原オーナーは、昨年来、GM制度復活の検討を球団に指示していたとされるが、一向に具体化していない。今回、複数の選手が内規を破って新型コロナに感染した背景には、チームの風土がある。繰り返し書くが、もし故・星野仙一氏が監督であれば、ルールを破る選手は出ていなかっただろう。日本のプロ野球の場合、選手への意識の啓蒙は、フロントでなく監督、コーチの役回りが大きい。そこを引き締めるためには、現場とフロントとのパイプ役であるGMを置くことも一手なのかもしれない。いずれにしろグループ内の上を見た“忖度”ではなくタイガースとプロ野球を支えてくれているファンやチームに向き合った本気の改革が求められている。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)