世界の主導国は現実拒否の姿勢を変えられるのか? 広島サミットに考える
78年前に人類史上初めて原子爆弾が落とされた広島で開催された、主要7カ国首脳会議(G7サミット)が21日に閉幕しました。核軍縮、環境、人工知能などさまざまな問題が俎上に載せられたようです。 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、「世界をリードする政治家は、広島の原爆資料館を見てほしいという思いがある」と語ります。若山氏が独自の視点で語ります。
伊勢から広島へ
世界唯一の被爆国の、世界最初の被爆都市において、G7サミットが開かれたことは、ウクライナや、台湾や、西側あるいは東側や、民主主義あるいは権威主義や、といった政治的意味合いを抜きにして、人類全体の歴史にとって意義深いことである。 歴代のアメリカ大統領は広島を訪れることを拒否していた。現職としてはオバマ大統領が最初に訪れたのであるが、原爆資料館(広島平和記念資料館)には入ったもののすぐに退出し、その展示内容を十分に見たとはいえなかった。それでも日本人は温かく評価した。 2016年のサミットは伊勢志摩で行われ、各国首脳が伊勢神宮を訪問したが、これは日本神道と皇室を重視する姿勢を示す、いかにも安倍晋三元首相らしい選択であった。 伊勢神宮は、大和朝廷が磐石となるという意味において、日本建国を象徴する神域であり、自然科学と民主主義に価値をおく欧米の主要国がこの地を訪れることは、日本にとって大きな文化的意味があった。しかし何か偏っていると感じた人もいただろう。大昔の大和朝廷の日本をクローズアップするならもうひとつ、戦後の平和日本をクローズアップしたいと考えた人もいただろう。それには広島だ。その意味で今回のサミットは、広島を選挙区とする岸田首相らしい選択である。いわば日本国の二つの象徴空間が、連続してサミットの会場となったのである。 問題は各国首脳が、原爆資料館をどのように訪れ、どのようなコメントを残したかである。僕らの世代は、学校で『原爆の子』(新藤兼人監督)の映画鑑賞や第五福竜丸の見学があり、 広島の資料館には自分で行ったのではあるが、原爆の残酷さをしっかりと教えられて育った。したがって、 少なくとも世界をリードする政治家は、広島の原爆資料館を見てほしいという思いがあり、そしてそれが世代を超える日本人の希望ではないかと考えるのだ。